「悦ちゃん」男女の趣味が合ってもうまくいくとは限らない理由をユースケが語った3話

獅子文六原作、昭和10年を舞台にしたモダンでポップな土曜時代ドラマ『悦ちゃん 昭和駄目パパ恋物語』。同枠の前作『みをつくし料理帖』と同じく、熱心なドラマファンが応援している作品になりつつある。

先週放送の第3話「避暑地のできごと」は、財閥令嬢のカオル(石田ニコル)が傍若無人ぶりを発揮! そして、10歳の悦ちゃん(平尾菜々花)が可哀想だった……。


悦ちゃん、天国から地獄へ真っ逆さま


妻を先に亡くした売れない作詞家の碌さん(ユースケ・サンタマリア)に縁談が持ち上がる。財閥令嬢のカオルが碌さんのことを気に入ってしまったのだ。きっかけは碌さんが書いた現代詩だが、その後の芸術談義ですっかり参ってしまった様子。

貧乏暮らしの碌さんにとっては、カオルの美貌に加え、支度金5万円(現在なら数千万円はくだらない額)も大いに魅力だった。悦ちゃんも、「素敵なママができる!」と有頂天。大人顔負けのクールさを備えている悦ちゃんだが、やっぱりママが欲しいんだよね。

カオルに千葉の勝山にある別荘に招待された碌さんと悦ちゃん親子。水着を新調して張り切っていた悦ちゃんだったが、カオルは悦ちゃんに一日中勉強するよう命じる。そもそもカオルは悦ちゃんにまったく興味を抱いていなかった。悦ちゃんにとっては、海で遊べなかったことより、こっちのほうがよっぽどショックだ。

大切な一人娘が寂しい思いをしているのに、碌さんの態度は煮え切らない。やっぱり支度金の5万円がチラついているのか。いや、やっぱりあれだけの美女が目の前にいるのだから、男としてはそうなってもおかしくないか……。

ユースケ・サンタマリアはインタビューで碌さんのことを「しみったれている時期」と表現している(公式サイトより)。つまり、根本的にはしみったれていないのだが、今はヒット曲もないのでお金もないし、モテることもない。しみったれているから、煮え切らない態度をとっているのだ。

カオルは悦ちゃんのもとにやってきて、寄宿舎に入るよう勧める。当時に上流階級の子息が寄宿舎に入ることはそれほど珍しいことではなかったのかもしれないが、「ママができる!」と喜んでいた悦ちゃんにとってみれば、その相手が自分のことを邪魔者扱いするなんて、天国から地獄に真っ逆さまに落ちるようなものだ。その気持を想像するだけでつらい。

一方、カオルの碌さんに対する愛情は、少し歪んで入るものの、基本的には真っ直ぐなものだ。昭和10年では財閥の令嬢でも周囲に芸術の話ができる人は少なかったのだろう。実際、カオルは家族からも変人扱いされていた。碌さんはカオルにとってやっと見つけた価値観を共有できる男だったのだ。カオルを演じている石田ニコルは、インタビューで「碌さんと過ごす時間や碌さんへの気持ちも理解できて、監督から説明されただけでもちょっと泣きそうになりました」と語っている(「INTERNET TVガイド Daily」より)。

それにしても石田ニコルの存在感がすごい。相手がユースケだろうが、天才子役だろうが、ベテラン女優(紺野美沙子)だろうが、目の表情をまったく変えず、淡々とセリフを言い続ける。まるでラブドールがお芝居をしているようでもある(褒めている)。石田はインタビューで「第3、4話までのカオルと、終盤のカオルは本当に別人です」と語っているが、現在のドーリーな演技とまったく違うカオルが見られそうだ。非常に楽しみである。

流行歌の良いところは教養がない人にも伝わるところ


3話の後半、原作とは大きく異なる展開がある。悦ちゃんを寄宿舎に入れるプランを聞いた碌さんが、カオルとの縁談をきっぱり断るのだ。

「あなたが認めたのは、俺の作品や知識だけ。俺がどんな人間でどんな考えでいるのか、知ろうともしなかった。悦子も同じことを言ってました」
「……」
「どんなに芸術が理解できても、人の気持ちが理解できない人とは一緒になれません。悦子のママになる人ですから」

趣味で気が合ったって、カップルや夫婦がうまくいくとは限らない。その原因が、この碌さんの短いセリフで言い表されている。ここでの石田ニコルの芝居がすごい。まったく表情が変わらないのだが、息を飲む仕草だけがわかる。

この後、碌さんは自分が書いた現代詩が、実はカオルが馬鹿にしている流行歌の歌詞が元になっていると明かす。「まさか……」と目を見開いて驚くカオル。自らの価値観が揺らいでいるのだ。これは後半でのカオルの変貌の伏線になるはず。

「流行歌の良いところは、教養なんてない相手にも伝わるところです。だから俺は、流行歌の作詞家をやめません。じゃ!(大声で)」

碌さんカッコいい! ちっともしみったれてないよ。

流行歌の大家である作詞家の阿久悠は「この仕事はハートビジネスなんだよ」と話していたという(『東京人』特集「阿久悠と東京」)。教養を飛び越して、人々のハートに直接届けるのが流行歌なのだ。

ちなみに原作の碌さんは、悦子を寄宿舎に入れるというカオルの方針に、なんとなく(!)同意している。これはひょっとしたら、現在と昭和10年の“子ども一人の価値”の違いなのかもしれない。当時だって子どもは大切だったはずだが、現代ともまた少し違うはずだ。ドラマではそのあたりを現代寄りにチューニングしているのだろう。また、原作ではけっこう長い“鬱展開”をなるべく早めに解決して視聴者のストレスを低減するという昨今のドラマの作法にのっとった展開でもある。

原作の改変といえば、悦ちゃんの歌声の魅力に最初に気づくのが、細野夢月というのも面白い。ドラマではエンディングの「パパママソング」にも顔を出している夢月だが、原作ではこんなところに顔出しなんかできないほどのイヤな奴だった。この後、どのようにストーリーに関わるのかに注目だ。

さて、ショックで家出した悦ちゃんだが、小石川の池辺鏡子(門脇麦)の家に身を寄せて、ラストは頑固者の久蔵(西村まさ彦)の卵焼きを奪って食べるたくましさを見せてくれた。これなら一安心だ。本日放送の第4話はついに「パパママソング」が誕生するぞ。

(大山くまお)

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