【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。



◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をとなる。



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3月17日、中国の原油輸送巨大タンカー84隻が一斉にペルシャ湾に向かった。原油価格の暴落を受け爆買いするためだ。サウジとロシアの破談で狂喜する中国の浅ましいまでの動きを「モスクワ情報」を交えながら追う。



◆原油先取りのために一斉に動いた84隻のVLCC

3月16日夜半から17日明け方にかけて、中国のネットはざわついた。中国全土の港に横付けされているVLCC(Very Large Crude Oil Carrier:原油輸送を主な目的とする大型タンカーのうち、20万〜30万トン級のもの)が一斉に錨をあげ一ヵ所に集まってペルシャ湾に向かったからだ。



たとえばこちらのページ(※2)をご覧いただきたい。それによればサウジアラビアの原油価格が30%も暴落したので中国政府が16日に指示を出し、VLCC船隊をペルシャ湾に面するサウジアラビアの港に向かって一斉に直航させたのだという。この船隊なら、一往復で1.68億バレルの原油を運ぶことができる。



もっとも中国の石油消費量は1日あたり1,279.9万バレルなので、1.68億バレルあったとしても10日間ほどの量でしかないが、ともかくこのチャンスを逃すことはあり得ないという勢いだ。



原油価格暴落の背景には、サウジアラビア(OPEC)とロシアの破談(協調決裂)がある。両国は3年前から協調して原油価格を60ドル前後で維持してきたが、新型コロナの蔓延で世界経済が落ち込むのを見て、サウジアラビアは生産の縮小を提案したが、ロシアが同意せず、破談になったという。



◆「モスクワの友人」からロシアのナマ情報

ロシアが絡んでいるのなら、プーチン大統領の側近とも接触のある「モスクワの友人」に内部事情を教えてもらうのが一番早い。そこで早速お聞きしたところ、以下のような返事を頂いた。



——本件は減産合意できず、破談となったという理解で良いと思います。いずれの国も、経済的利害よりも政治的利害、内政問題と独自の外交政策というところで、突っ張り合いをしてしまった、ということかと。



サウジの石油大臣はじめテクノクラートは、破談は自らの首を絞めるばかりかOPECそのものを破壊させかねないとして反対したでしょうが、独裁者となりつつある皇太子は各国との協調というタイプではなく、一方、ロシアも民間最大手のLUKOILなどは、これで1日3億ドルの外貨収入を失い、1ヵ月100億ドル(約1兆円)をロシアはドブに捨てることになったと批判しています。



しかしロシア最大手の国営石油会社ロスネフチのセチン社長は、「減産は間違いで、OPECとの協調はロシアに益をもたらさない」との考えを持っており、特に「アメリカが今や世界一の原油生産国(1日糧1500万バレル)となってしまったのはOPECの無能によるもので、アメリカの原油生産増加を叩かねばならない」と主張しています。セチン社長は大統領側近で、最も信頼されている忠義無類の部下とみなしていいでしょうから、プーチン大統領はセチン社長の主張に耳を傾けたものと判断されます。



その意味で、これは極めて政治色の濃い方針です。本件に限りませんが、ロシアは伝統的に政治的利益が経済的利益より優先されるので、国力の割には豊かにならない構造があるように見えます。



サウジとの石油戦争も、ロシアは油価によって為替レートを動かせるので、貿易収支は決して赤字にはならず、ロスネフチも現地通貨建ての収入は減るどころか増産によって増える可能性もあります(もっとも外貨建てでみれば、大幅な減収となります)。



経済的視点から見ている上記ロシアの民間大手(LUKOIL)は、「外貨収入を大幅に減らしてどうするのか、まだ、ロシアは多くの品物を輸入に頼っており、これでインフレは間違いなく起こる。国民の生活も苦しくなる。そもそも国の経済力が毀損する」と言っています。これは正論だと自分には思えるのですが、ロシア政府は「我々は十分な外貨準備も財政の余裕もある。心配はいらない」と国民向けに強がりを言っています。



しかし既に一般国民の所得は上がっていないどころか減少していて、しかもこの新型コロナ騒ぎで、国民の経済面での不安は高まるばかりです。



◆アメリカの介入

「モスクワの友人」の便りは油価の暴落は経済縮小につながり、それがまた株の暴落など金融にも影響していくことや、日本企業への影響などに関しても書かれており、アメリカが必ず介入してくると書いてあった。



案の定、3月19日、トランプ大統領はサウジアラビアがロシアに仕掛けた価格戦争に介入する可能性を示唆した。ウォールストリート・ジャーナル(※3)は「サウジアラビアには減産を求める一方、ロシアには制裁を示唆するだろう」と伝えている。



さすが「モスクワの友人」はプーチン大統領側近との接触もあるだけあって、情報が的確だ。



◆受益者は誰か?

「モスクワの友人」からの便りの最後は「受益者は誰か」で締めくくられていた。曰く:



——さて、最大の受益者は誰か、ということになります。残念ながら、それは間違いなく中国だろうと言うしかありません。何といっても最大のエネルギー消費国なのですから。巨大タンカーが大挙して中東に向かっているというのも「むべなるかな」と思いますね。最大の購入のチャンスでしょう。



習近平は武漢発の新型コロナウイルス肺炎を全世界に巻き散らして人類を存亡の危機にまで追いやり、諸外国の経済活動に壊滅的打撃を与えながら、世界に対して謝罪するどころか、中国が感染拡大を抑え時間を稼がせてあげたことに感謝すべきだという本末転倒のメッセージを出し続けている。



それだけでも許されないのに、「欧州などに医療支援隊を派遣する習近平の狙い:5Gなどとバーター」(※4)(3月15日)に書いたように医療支援隊を送り込む国とバーター取引をするという、モラル的には考えられないような行動に出ている。



安倍首相は今でもまだ、このような習近平を国賓として日本に迎え入れることを諦めてはいない。そのための習近平への忖度が日本における感染拡大を招いたことは、これまで何度も書いてきた。北海道の感染者が飛び抜けて多いのも、中国人観光客をすぐに入国阻止すべきところ、中国が許可する個人旅行は受け入れてダラダラと禁止を引き延ばしてきたことと無関係ではないだろう。



今はまた東京オリンピック・パラリンピック開催への執念が、日本国民の命を守ることより優先し、適切な政策を実行しているとは思えない。



そうこうしている内に中国は既に経済復興段階へと入っている。このような国の国家主席を国賓として招くことは延期ではなく中止すべきだ。この思考回路から脱却しない限り、日本は中国にやられっぱなしになっていく。



最大の受益者は誰か——?それが日本国民ではなく、中国であり続けていいのか?コロナ問題がなくとも、なぜ習近平を国賓招聘してはならないかに関して、思いのたけを『激突!遠藤vs.田原 日中と習近平国賓』で述べた。筆者のこの基本姿勢は変わらない。



※1:https://grici.or.jp/

※2:https://finance.sina.cn/futuremarket/qsyw/2020-03-17/detail-iimxxstf9629103.d.html

※3:https://www.wsj.com/articles/u-s-considers-intervention-in-saudi-russia-oil-standoff-11584636054

※4:https://grici.or.jp/1144



写真:ロイター/アフロ