◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 Vol.9 新型コロナウイルスとデジタル人民元の野望 〜中国・衝撃の戦略〜』(4月21日発売)の特集「船橋洋一氏インタビュー」の一部である。全4回に分けて配信する。

文:清水 友樹/写真:大塚 成一





日本における独立系のグローバル・シンクタンク、アジア・パシフィック・イニシアティブの船橋洋一理事長は、このほど最新刊『地経学とは何か』(文春新書)を上梓した。日本政府はこの4月から国家安全保障局の中に経済安全保障ユニットを創設し、地経学を外交政策の主要テーマとした。世界は地経学の時代に突入している。船橋氏に、日本の地経学的課題、なかでも「デジタル人民元」が世界に及ぼす影響、そして日本の今後などについて聞いた。



■中国が狙うデジタル人民元による通貨覇権の大逆転



中国が恐れているのは、ドルとこのドル決済システムのパワーなのだ。歴史的にも、世界に君臨する基軸通貨を持つと、たとえ、その国の経済力や産業競争力が弱まっても、一種のネットワーク効果で通貨の強みは最後まで残る。ネットワーク効果というのは、コンピュータのキーボードの配列と同じで一度決まったら、なかなか変えられないものだ。



そこで、中国人民銀行は、資産の裏打ちがあるステーブルコインとしてデジタル人民元を発行し、ドルというレガシー・パワーをリープフログし、大逆転しようとしているわけだ。



デジタル人民元が実現すれば、遠く離れたアフリカの国に紙幣を送らなくて済む。幸いなことにWeChatペイ(微信支付)やアリペイ(支付宝)など決済システムのすそ野はできている。



フェイスブックがリブラの計画を発表したとき、世界25億人以上のパイを取られると恐れた。しかし、幸いにもアメリカ政府がリブラをつぶしてくれた。



議会証言で、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、「中国は向こう数カ月間で、リブラと同じような構想を立ち上げる準備をしている。リブラはその価値のほとんどを米ドルの裏づけで行うことにしており、それは世界中で米国の金融リーダーシップと民主主義的な価値観と通貨に対する監督権を拡大するものと信じている」と述べた。中国脅威論を使ってリブラを認めさせようとしたのだろうが、不発に終わった。



デジタル人民元が世界に登場した日は、それは米中の地経学の究極の戦いが始まる日となるだろう。世界のルールと秩序を誰が決めるのか、どの国がそれに一番大きな発言力を持つのか、なかでも通貨体制をどの国が支配するのか、はメガ地経学のうちでも最大のメガ地経学である。それはまた、円の命運を大きく変えることになるだろう。



【船橋 洋一 Profile】

1944年、北京生まれ。ジャーナリスト、法学博士。一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。英国際戦略研究所(IISS)評議員。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、朝日新聞社主筆。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(文藝春秋)、『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(朝日新聞社)、『地経学とは何か』(文春新書)など。



●船橋 洋一著 『地経学とは何か』 本体価格900円+税 文春新書

地理的条件、歴史、民族、宗教、資源、人口などをベースに国際情勢を分析する「地政学』では、地政学的課題を解決できなくなっている。アメリカや中国といった超大国は経済を武器として使う—それこそが「地経学」。地政学に経済という要素を加えた視点なくして、現代の世界を俯瞰できない。新たな視点を与えてくれる一冊だ。