安倍首相が憲法改正推進派のウェブ集会にビデオメッセージ

日本国憲法施行から73年を迎えた憲法記念日の5月3日。安倍首相は、憲法改正推進派の「民間憲法臨調」と「美しい日本の憲法をつくる国民の会」共催の「憲法フォーラム」に、“憲法改正に対する思い”を語ったビデオメッセージを送った。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府が大規模集会の自粛を要請しているため、「憲法フォーラム」は例年と違い、ネットでのライブ中継に切り替えて行われた。

安倍首相はビデオメッセージの中で、「現行憲法も制定から70年余りが経過し、時代にそぐわない部分、不足している部分は改正していくべきではないかと考えている」と語った。そのうえで、現下の新型コロナウイルスの感染拡大と憲法について、次のように言及した。

新型コロナウイルス感染拡大を受け、“緊急事態条項”の必要性を訴える

「政府においては、国民の命と健康を守るため、全国に緊急事態宣言を発出し、政策を総動員して各種対策を進めています。ウイルスの感染拡大防止に向けて、国民の皆様には、外出の自粛や休業要請への対応など、多大なるご協力をお願いしています。また、国家の機能維持という点でみれば、国会審議のあり方についても、与野党で協議し、様々な工夫がなされてきたところです。しかしながら、そもそも、現行憲法においては、緊急時に対応する規定は『参議院の緊急集会』しか存在していないのが実情です」

このように安倍首相は、現行憲法の緊急時の対応を巡る規定は、衆議院が解散されている間に緊急の必要が生じた場合に内閣が開催を求める「参議院の緊急集会」しかないことを指摘した。そして今回のコロナ禍での対応を通じての憲法改正議論に関して次のように述べた。

「今回のような未曾有の危機を経験した今、緊急事態において、国民の命や安全をなんとしても守るため、国家や国民がどのような役割を果たし、国難を乗り越えていくべきか、そして、そのことを憲法にどのように位置づけるかについては、極めて重く、大切な課題であると、私自身、改めて認識した次第です。自民党がたたき台として既に示している改憲4項目の中にも『緊急事態対応』は含まれていますが、まずは国会の憲法審査会の場で、じっくりと議論を進めていくべきであると考えます」

安倍首相は、国が今回のような危機的な緊急事態に直面したときに適切に対応できる体制作りを考える事が課題だとの認識を示し、憲法に“緊急事態条項”を創設するか否かの議論が、衆参の憲法審査会で行われることに期待感を示した。

新型コロナで延べ1万7千人超が対応の自衛隊の“憲法9条”明記を

次に首相は、自らの信念である「憲法9条改正」についても、新型コロナウイルスへの対応と関係する形で次のように語った。

「今回の新型コロナウイルスへの対応では、延べ1万7千人を超える自衛隊員が対応にあたり、この瞬間も、各地の自衛隊病院等で、感染症患者の救護にあたると共に、空港での検疫、自治体職員等への感染予防のための教育支援を行っている。そして、一連の対応を通じて、従事した隊員からは、これまで1人の陽性者も出していない。事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努める。私は、自衛隊の最高指揮官として、彼らのプロフェッショナリズムに、常に胸を打たれています」

このように自衛隊が、新型コロナウイルスへの対応でも任務を着実に遂行していることを強調した安倍首相は、憲法に自衛隊の存在を明記するよう改めて次のように訴えた。

「創設以来、何十年にもわたり続く「自衛隊は違憲」というおかしな議論に終止符を打つためにも、自衛隊の存在を憲法上、明確に位置づける事が必要です。全国25万の自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできるよう、憲法にしっかりと私たちの自衛隊を明記しようではないか」

2020年の改正憲法施行を断念で無念を吐露

この憲法への自衛隊明記案は、安倍首相が3年前の2017年5月3日のこの「憲法フォーラム」に寄せたビデオメッセージで、「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」と具体的に表明したものだった。安倍首相はその際に「2020年を、新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っている。私はこうした形で国の未来を切り拓いていきたい」と表明していた。

そしてこの発言を受けて、自民党内での憲法改正の議論は一気に加速。自民党は翌18年に、(1)憲法9条への自衛隊明記、(2)緊急事態条項の創設、(3)参院選の合区解消、(4)教育の充実、からなる4項目の憲法改正のイメージ案をまとめた経緯があった。

しかし国会では“憲法改正は喫緊の課題ではない”との立場の野党側が議論に慎重で、衆参の憲法審査会は、討議すらされない状態が長く続いてきた。また、連立のパートナーである公明党も憲法9条の改正に対する慎重姿勢を崩していない。首相は、今年のビデオメッセージで「私は『2020年を、新しい憲法が施行される年にしたい』と申し上げたが、残念ながら、未だその実現には至っていない」と言及し、無念さをにじませた。

今回の憲法記念日は史上初めての政府による全国的な「緊急事態宣言」のもと、国民の多くが自粛など本来の日常活動の制限を余儀なくされている中で迎え、改憲派・護憲派共に人々が集まっての集会すら思うように開けなかった。

そのような状況下で、憲法に緊急事態条項を盛り込む必要性が改めて注目される一方、立憲民主党などはコロナ対応のための緊急事態条項は必要ないとの立場を示し、政権は新型コロナウイルス対応に追われ憲法改正に取り組む余裕が奪われるという現象が生じている。国の根幹である“憲法”の議論が今後、加速するのかどうかを改めて考えさせられる73回目の憲法記念日になった。

(フジテレビ政治部・門脇 功樹)