教会でまた集団感染…塩水スプレーで“消毒”

韓国の教会で再び集団感染が発生し、“第二の新天地か”と注目を集めている。

集団感染が発生したのは、韓国の首都ソウル近郊の京畿道城南市にある「恩恵の川教会」だ。韓国政府が集会の自粛などを呼びかける中で、教会では3月1日と8日に日曜礼拝を強行。9日に最初の感染者がみつかり、19日までに牧師夫妻をはじめ、信者ら60人を超える感染者が確認された。首都圏の集団感染としては、130人超の感染者を出したソウルのコールセンターに次いで2例目となる。

恩恵の川教会での感染拡大には、インターネット上のデマに基づいた感染防止策が関係していた。教会関係者が「コロナウイルスを消毒する」として、信者一人一人の口に直接、スプレーで塩水を噴きかけていたのだ。

教会内の防犯カメラには、牧師の妻が教会を訪れた信者一人一人の口に液体を吹きかけ、手にも噴射する様子が残されていた。この行為がスプレーの交換や消毒もなしに繰り返され、感染をより一層拡大させたと見られている。

しかも、塩水を吹きかけていた牧師の妻も後に感染者だったことが判明した。感染を防止するどころか、逆にウイルスをまき散らしていたわけだ。塩水が新型コロナウイルスを死滅させるというのは、インターネット上に広がった科学的根拠のないデマだ。自粛要請を無視した上にデマを盲信して感染を拡大させた代償は大きく、恩恵の川教会は世論の厳しい批判にさらされている。

5000人を超える感染者を出した新天地イエス教会での感染が沈静化しつつある中で、恩恵の川教会での集団感染は、教会での感染リスクの大きさを改めて浮き彫りにした形だ。

第二の新天地に?…病気治療と称して信者集める

恩恵の川教会は1998年に金チョルウン牧師により設立された。特定の宗派に属していない独立した教会で、信者の数は130人あまりだという。韓国に多い小規模教会の一つだ。

韓国・京畿道にある「恩恵の川教会」

恩恵の川教会本部が位置するのは、商店街の雑居ビルの一角。裏ぶれた雰囲気が漂うが、週2回の礼拝には周辺地域だけでなくソウルや仁川、大邱などから100人近い熱心な信者が訪れていた。

近隣住民はこう語る。

「深夜にも礼拝する信徒たちが泣き叫ぶ声が聞こえた」

「地方都市からもタクシーで礼拝にくる信者が多かった」

一体何が、信者達をこの教会に惹き付けたのだろうか。

実は、金牧師は祈祷によって病気を治癒すると称し、信者を集めていた。韓国のMBC文化放送が入手した祈祷の映像では、金牧師が信者の頭の上に手をかざして祈祷を捧げたり、身体に手をあてて祈ったりする様子が確認できる。治療を受けようと信者が牧師の前に長い列を作り、順番を待つ姿も捉えられていた。

恩恵の川教会トップ 金チョルウン牧師

また、教会は「特別神癒集会」と題するビラを作成し、病気治療の名目で集会への参加を呼び掛けていた。「現代医学が大きく発達したにもかかわらず、多くの人々が依然として不治の病や難病および各種の遺伝病、そして重い疾病による苦痛を受けています。(中略)過去5年10カ月の間、神様は5万人を超える病者を治癒する仕事に金チョルウン牧師を使用されました。これは按手(あんしゅ)祈祷をした数字ではなく、治癒した人の数です」

また、金牧師の祈祷によって病気が治ったとする人の体験談も多数載せられ、治療の効果を宣伝していた。

韓国の教会が集団感染の温床になる理由

本当に病気が治るのかどうかは別として、韓国で“按手”と呼ばれる病気治療を目的とした祈祷集会を開いているのは、恩恵の川教会だけではない。

第二次大戦後、韓国社会には急速にキリスト教が広がり、人口の30%近くを占める。日本とは異なり、キリスト教が庶民層にも幅広く浸透したため、信者が大幅に増加したというのが定説だ。

宗教学者の島田裕巳氏は、韓国のキリスト教について、伝統的なシャーマニズムを取り入れるなど「むしろ日本の新宗教に近く、現世利益や病気治療を中心とするものが受容された」と指摘する。このため怪しげなものも含めて、終末思想や病気治療を教義の柱とする教会が多く存在している。

「恩恵の川教会」の内部

「異端(カルト)」との批判もある中で、新天地イエス教会や、恩恵の川教会のような団体が信者を獲得できるのも、韓国社会にそうした土壌があるからだと言える。韓国では教会は届け出や登録が必要なく、活動の実態は把握が難しい。中でも「異端」と呼ばれるカルト教団の場合は、隠れて活動するためなおさらだ。

新天地での集団感染発生以降、韓国政府は宗教界に対し礼拝など宗教行事の自粛を呼びかけてきた。しかし、小規模教会を中心に政府の要請を無視して、集会を開催する教会が後を絶たない。韓国の疾病対策本部によれば、新天地以外の教会でこれまでに発生した集団感染は7カ所、感染者は170人にのぼっている(19日時点)。

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問題は教会での感染スピードだ。疾病対策本部は、教会の集まりで一人が感染した場合、信者全体の感染率は30〜40%に達するとしている。特に小規模教会の場合、換気状態の悪い狭いスペースに信者が密集する。2メートルの隔離距離も取れない上に、牧師がマスクをつけずに説教するなど、飛沫が飛び感染のリスクが高い。さらに、病気治療のための按手祈祷などは信者との接触度が高く、感染拡大につながる懸念がある。保健当局が小規模教会での集会を“第2の新天地”になり得ると見て、警戒するのはこのためだ。

「礼拝やめろ」……韓国社会に教会への反発広がる

恩恵の川教会での集団感染を受けて、自粛要請を聞き入れずに集会を続ける教会に対する市民の反発が広がっている。礼拝が開催された教会で、周辺住民が反対デモをする地域も出てきた。

大手の教会ではオンライン礼拝などに切り替え、信者が集まらない措置を取ったり、対策を徹底した上で礼拝に参加する人数を絞るなどしているが、小規模教会では、そうした対応を取るのが難しいのが実情だ。

恩恵の川教会がある京畿道の場合、感染者290人のうち135人が教会の集会関係者で、全国的に見ても教会関係者の感染が多い。京畿道には、教会などの宗教機関が約6600あり、このうち70%程度が信徒100人未満の小規模教会と推定されるという。

京畿道の衛生当局の会見

京畿道では①発熱のチェック②マスク着用③消毒剤設置④礼拝時に信者間に2メートル間隔を空ける⑤施設の消毒――などの感染予防措置を取らなかった教会に対し、集会を禁止する行政措置を発令した。事実上の集会禁止令だ。

従わない場合、罰金のほか、防疫費や患者の治療費が教会側に請求される。道は「道民の生命を保護するためにやむを得ない」として、宗教界に理解を求めた。

一方、韓国政府は信教の自由を侵害する恐れがあるため、教会の強制的な集会禁止には慎重だ。疾病対策本部は現在も、教会に対し礼拝や集会の自粛を求めるにとどまっている。韓国の感染者数は8600人超、死者94人(20日時点)で、多少の増減はあっても新規の感染者数は減少に向かいつつある。欧米の爆発的増加に比べれば安定しているものの、局地的な集団感染の発生は続き、依然として気が抜けない状況だ。

【執筆:フジテレビ 国際取材部長 兼 解説委員 鴨下ひろみ】