メキシコ女子代表の強化を目的に2017年夏にプロリーグが開幕

 2021年に現在のなでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)とは別に、プロリーグが開幕する予定の日本の女子サッカー界だが、成功を収めるためには何が必要なのだろうか。17年夏に開幕し、徐々に底上げを進め、プレーオフ決勝に5万人以上の入場者を集めるなど、国内女子サッカー全体のレベルを上げているメキシコの女子プロリーグから、成功のためのヒントを探った。

 メキシコで女子プロリーグが開幕したのは17年夏。それまでは全国リーグや日本の皇后杯にあたるトーナメントもなく、各地で地域リーグが行われていたに過ぎなかった。だが、サッカー連盟のトップダウンにより、男子の1部リーグに所属するクラブに女子チームを持つことを義務化。男子1部と同じチームが女子リーグを戦う形で設立された。

 これには、女子の代表チームを強化するという目的があった。現在、北中米カリブ海地区の女子ワールドカップ(W杯)出場枠は「3.5」で、五輪が「2」。だが、同地域にはアメリカ、カナダの2強が君臨するため、CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)内で3番手グループに位置するメキシコにとって、本戦出場権の獲得は容易なことではない。

 実際、五輪出場は04年の一度だけ。今回の東京五輪予選も準決勝でアメリカに0-4で敗れ、あと一歩のところで出場権を逃した。W杯は過去8大会中、3度出場しているが、まだ1勝もできていない。03年、07年は大陸間プレーオフで日本に敗れ、出場権を獲得できず。11年もグループリーグで日本に0-4で敗れたことが響き、2分1敗で大会を後にした。

 一方、アメリカは五輪では過去6大会すべてに出場し、優勝5回、準優勝1回。W杯も2連覇中で優勝4回、準優勝1回、3位3回と、8大会すべてでメダルを獲得している。カナダも五輪では直近の2大会で連続3位、W杯も7大会連続出場中で、03年4位、15年8強、19年16強と近年強さを発揮しており、この2強がメキシコの前に大きく立ちはだかっている。

 こうした事情もあり、代表強化のために設立されたメキシコの女子プロリーグ。開幕当初はチーム間にレベルの差があり、5点差以上の点差がつく試合も毎節のようにあった。時には12-1という試合もあったが、各チームのレベルが拮抗してきた今では、多くの試合が2点差以内のゲームとなっている。

“クラブ愛”を貫くサポーター、ティグレス女子は1試合平均1万人以上を集客

 強化を目的としたルールの整備が、このリーグの一つの特徴だ。1年目の17-18シーズンは主にU-23のリーグとして設立され、各チーム24歳以上の登録は2人まで。U-17の選手4人の登録が義務付けられていた。そのため、リーグの選手の平均年齢は20.1歳だった。

 18-19シーズンはオーバーエイジ枠が4人に増え、3シーズン目の後期となった今年は、1992年以前に生まれた選手は各チーム登録6人まで。2001年から03年生まれの選手を計1000分起用しなければならず、1試合で出場時間を計上できるのは180分まで。これまではアメリカで育ったアメリカ系メキシコ人の登録は認められていなかったが、今季からそれも認められるようになった。

 目を見張るのが、リギージャと呼ばれる決勝トーナメントの観客数の多さだ。過去最高は17-18年シーズン後期の決勝で、モンテレイでの“クラシコ”となったモンテレイ対ティグレス戦は、男子顔負けの5万1211人の観客が観戦に訪れた。

 リーグ戦の平均入場者数は、17-18シーズンは前期が約2800人(一部データ不明のため概数で算出)、後期が1959人、18-19シーズンは前期が1761人、後期が1825人、19-20シーズンは前期が2229人、後期が2417人(新型コロナウイルス感染拡大防止のための中断期間までの数字)。チーム別の平均入場者数では、ティグレスが18-19シーズンの前期が1万322人、後期が1万810人、19-20シーズンの前期も1万3604人と、リーグのトップを走る。19-20シーズン前期の2位はアトレチコ・デ・サン・ルイスの6874人、3位はパチューカの5295人。一方、最下位はベラクルスの239人と開きがあるが、リーグ全体を見ると開幕当初よりは集客が落ちているものの、19年からは回復傾向にあり、単なるブームではなく、徐々に女子サッカーが浸透してきているのが分かる。

 特にリギージャで盛り上がるのが、クラシコや強豪チーム同士のカードだ。特に男子のシーズンチケット購入者の割合が多いモンテレイやティグレスは、毎回数万人のサポーターが女子の応援に駆けつける。昨年、1部リーグのケレタロで女子のコーチも務めた現U-20アシスタントコーチ兼U-14監督の塩沢拓也氏は、「女子の観客数は元々のチームの人気と比例する。クラシコになったら、男子だろうが女子だろうが関係なく注目が集まる。女子の試合でも、同じチームの仲間を応援してサポートしようとなる」と話す。サポーターにとって、“クラブ愛”は男子も女子も関係ないのだ。

SNSで積極的に発信、フォロワー数194万人超えの選手も…

 かつて、なでしこ2部のバニーズ京都SCでGKコーチ、U-18監督、マネージャーなどを歴任し、現在ケレタロのU-16でアシスタントコーチを務める給田洋右氏も、当時をこう振り返り、サポーターの影響力を強調する。

「バニーズで仙台に遠征した時に、同じようにベガルタのサポーターが大勢スタンドにいて、360度から手拍子が聞こえてきた。完全アウェーだった。雰囲気がほかの試合とは違った。これがJリーグに男子チームを持つクラブの強みかと思った。浦和などもそうですが、日本もJリーグのチームがもっと女子チームを持てば、より集客にもつながっていくと思います」

 18-19シーズンまでは、リーグを南北2つに分けていたが、19-20シーズンからは総当たりとなった。試合は男子の開催日とは被らないように設定され、平日開催も多いことから、入場者数は1万人を超える試合もあれば、数百人の時もある。入場料は50ペソ(約250円)前後と男子に比べれば安い。無料の試合も珍しくないが、メキシコではスタジアムでのビールの消費量が多く、クラブとしては飲食も大きな収入源となっている。試合の中継も約半分のカードで行われており、スポーツ専門チャンネルや地元局、クラブの公式フェイスブックなどで観戦が可能だ。

 女子選手の露出の多さも、人気の要因となっている。各クラブは公式SNSで、男子とともに女子についても頻繁に情報をアップする。また、個人でSNSを積極的に使い、自ら発信している選手も多い。特に人気なのが、メキシコ代表歴もあるチーバスのFWノルマ・パラフォックス。ゴールを決めた後、片足を軸に腰をくねらせながら1周するセクシーなパフォーマンスで、一躍脚光を浴びるようになった。このパフォーマンスは元々、チーバスの男子選手がやっていたものだったが、本家顔負けの腰の動きにサポーターも大喜び。今ではインスタグラムのフォロワーが194万人を超えている。

 塩沢氏はこう分析する。

「まだまだリーグのレベルは発展途上ですが、メディアの露出もあるし、プレー以外にも選手の容姿にも関心が集まり、アイドル的な視点でも注目度が高くなってきている。メキシコ人は自分の写真をSNSに載せるのが好きだし、露出が高いことも気にしない。いろんな要素が重なって、今の人気が出てきたんだと思う」

 男女のフィジカルの違いもあり、例えば女子がリーグ下位に低迷しているケレタロでは、実力的には男子のU-15、U-14が女子に大勝するレベル。だが塩沢氏は、「選手全体の年齢が上がっていくので、今後は段階的にオーバーエイジ枠も増やしていくと思うし、将来的に外国人もプレーできるようにすれば、対戦するDFの経験値も上がる」と、まだまだ成長の伸びしろがたくさんあることを強調する。

 給田氏もリーグの将来は明るいと見ている。

「もちろんフィジカルは男子よりも劣るけど、女子の試合は男子と同じスタジアムでやるから華やかだし、ゴールが入ると盛り上がる。選手もやっていて気持ちいいと思う。テレビでの中継もあるし、見にきた女の子も選手たちの姿を見て、サッカーをやりたいと思うようになる。お客さんも入っていますし、華やかなことは大事だと思います」

待遇面では問題点、男女との給与格差は実に156倍

 プロの全国リーグができたことで、代表選手の選考も容易になったという。塩沢氏は「うちのチームにもU-15、U-17に選ばれている選手がいますが、リーグの若手起用ルールで試合に出るようになり、代表にも選ばれた。今はリーグの試合を見ていればメンバーは選べる。彼女はこのリーグがなかったら埋もれていた選手。女子はまだまだ採算は合わないが、今まで代表に縁がなかった選手でもきっかけが増えてきたし、一定の効果は出ていると思う。これまでは、メキシコ代表と言っても、アメリカ育ちで、アメリカの高校、大学でプレーしてきた選手が多く、合宿でも皆、英語で話していましたから」と、リーグの存在意義を評価する。実際、U-20女子代表が8大会連続となるU-20W杯出場を決めるなど、若手育成は順調だ。

 またメキシコサッカー連盟では今年から、各地で定期的に女子向けのクリニックを開催するようになった。参加者は一般公募。1部のチームがない地域にも女子サッカーを普及させようと、メキシコ全土にコーチを派遣し、将来を見据えた普及、強化に力を入れている。

 もちろん、まだまだ問題点もある。女子のクラブハウスや寮がないチームも多く、遠征も男子のトップチームが飛行機で移動する距離を、10時間以上かけてバスで移動することもザラだ。サラリーも男子とは雲泥の差がある。地元での報道をまとめると、女子のサラリーは最も低い選手で月に2500ペソ(約1万2500円)。リーグ平均が約3500ペソ(約1万7500円)で、メキシコの最低賃金である約3000ペソ(約1万5000円)を下回っている選手もいる。

 地元メディア「シン・エンバルゴ」は昨年、男女のサッカー選手の給与格差について報道。それによると、男子の月平均は54万5000ペソ(約272万5000円)、女子が3500ペソで、実に156倍の格差があるのだという。実際、女子選手たちも「練習に行くのに交通費もかかるし、(アスリートとして)食事も考えて食べなきゃいけない。贅沢をしている余裕はない」と話しており、中には空き時間にアルバイトをしている選手もいるのが現状だ。

 19-20シーズンの前期リーグではモンテレイが優勝したが、約束されていたはずの優勝ボーナスは支払われず、選手たちに支給されたのは、32GのiPadだけだった。地元スポーツ紙は「差別」と書かれた見出しと、涙を拭うモンテレイの女子選手の写真を1面に掲載し、その格差を報じた。ただ、強豪チームの主力の中には、月5万ペソ(約25万円)をもらっている選手もおり、選手としての価値を上げれば、まったく稼げない訳ではない。

下部組織を抱える女子チームも出現「レベルはまだ低いけど盛り上がっています」

 日本の一部のチームのように、毎回練習場所を探さなければならないという苦労もない。どのクラブも男子の年代別チームを多く抱えており、グラウンドには困らないからだ。

 給田氏は言う

「なでしこのブームはもう終わっていますけど、メキシコは男子と同じチームなので、ブームではなく、チーム愛の熱量が違う。世界の中でもお客さんが入っている有数の女子リーグだと思う。土地代が安いので、ピッチも多いですし、レベルはまだ低いけど盛り上がっています」

 いくつかのクラブは、女子もトップチームとは別に下部組織を抱えており、若手の育成にも熱心だ。

 現時点で日本の女子プロリーグの詳細については決まっていないが、日本もブームではなく、長期的に継続して集客できる術を見つけ、次世代を育成できる環境を構築すれば、リーグの成功にもつながるはず。なでしこジャパンは11年の女子W杯で優勝した後、15年は準優勝、19年は16強と、世代交代の波が押し寄せてきているが、新たにプロリーグがこれまでのなでしこリーグ以上に育成の機能を果たせば、代表にも再び世界で戦えるだけの戦力が揃ってくるのではないだろうか。

Football ZONE web編集部