【フランクフルト鍼灸師・黒川孝一の視点|第2回】怪我を防ぐために重要な、欧州の強度に耐えるフィジカルの獲得

「当たりの強さ・激しさ」とはなんだろう?

 欧州に渡って挑戦を続ける日本人選手に尋ねると、「こちらの選手はやっぱり当たりに強いし、競り合いも激しい」ということを口にする。ボールを巡るせめぎあいでは体と体のぶつけ合いが当然起こるし、そこには生半可な当たりはない。

 試合を見ていても、ボールを保持している選手にまるで体当たりを見舞うぐらいの勢いで突進してくることが日常茶飯事。そしてトップレベルの選手というのは、そうした当たりに対しても自分の軸を乱さずに、間合いを崩さずにボールを支配し、次のプレーへと展開していく。逆にそこで耐え切れずに、簡単にボールを失ってしまうようだと、やはり信頼を勝ち取ることはできない。どんなチームでもポジションを奪うためには、それなりの当たりの強さと激しさ、あるいは当たりの強さと激しさをかいくぐれるスキルを身につけることが最低条件とされるわけだ。

 当たりの強さが必要なのはそれだけではない。2014年からフランクフルトで鍼灸師として働く黒川孝一氏は、さらにとても大事な点を指摘してくれた。

「当たりに弱いと怪我をしやすくなったり、コンディションを崩しやすくなってしまうんです」

「当たりに弱い」ことにおけるデメリットとは、ボールをキープできない、ロストしてしまう、ルーズボールをマイボールにできないというプレー面におけるものだけではない。競り合いのたびに精一杯の力で体を張ろうとすると、そこでより多くのエネルギーが必要となり、筋肉への負担も相当大きくなってしまうという。

「無理なボディコンタクトで体を痛めてしまうと、チームが求めるインテンシティーの高いサッカーについていけなくなって、そうなると自然体でプレーできない状態が続くので調子も狂い、自分のパフォーマンスが出せなくなってしまうということが起こります」

 フィジカルを鍛えることが大事だというのはよく言われているが、「当たりに強い」頑丈さを身に着けることで、一つひとつのボディコンタクトで体を痛めずにプレーができるようになることも非常に重要な要素となる。

 日本代表MF鎌田大地が、今季チームで中心選手として活躍しているのは、この点において格段の成長を遂げたことが一つの理由として挙げられる。ベルギーで培った経験と自信がフィジカル、メンタル面にも、プレー面にももたらしたものは大きい。ただ、今季前半戦の間はまだまだ厳しい状態の中で戦っていたようだ。

過密日程をこなし「試合の中で強くなっていったと言って間違いない」

「今年は開幕直後から、すごい試合に出ていたじゃないですか。でもその最初の頃は、体がすごい悲鳴を上げていたんですよ。ベルギーとのサッカーの違いとか、強度の違いがあって、試合が終わった後の疲労度は相当なものがあったと思います。それに慣れてくるのに2、3カ月はかかったんじゃないでしょうか。そこからはほぼ痛みがなく、筋肉痛とか筋肉の張りとかも出にくくなってきました。

 今はそこで耐えながらできる体、そこでプレーしても怪我にならずに耐えられる体になってきたということじゃないでしょうか。そのなかで身体もブンデスリーガにおけるサッカー強度に耐えられるように、筋肉もでかくなっていくんです。僕らのチームは今年も試合数が半端なくて、練習はほとんどできないんですよね。だから試合の中で強くなっていったと言って間違いないと思います。その中で僕の仕事なんかで言うと、疲労を早く回復させるとか、できるだけフレッシュな状態にするための仕事が多いんですね」

 鎌田がブンデスリーガで試合に手続けることで体つきも変わり、身体の使い方も非常にスムーズになってきている点も高く評価されている。欧州トップリーグでレギュラーとして活躍している選手は、みんなそうだ。「ボールコントロールが」とか、「パスセンスが」とか、「アイデアが」という要素は武器として非常に重要なのは間違いないが、それを発揮するためのベースとして、自然体での競り合いで勝負できるだけのフィジカル能力は、やはりなければならないのだ。

 今後も様々な国へ多くの日本人が勝負をしに行くと思われるが、「初年度からレギュラーでフル稼働して、すぐ中心選手になって、どんどん上のリーグに移籍」という夢を口にするならば、本気で肉体改造にも取り組み、意欲的に言葉を学び、真剣に戦術理解を深めるために、時間を有効活用してほしい。

 行かないと分からないこともあるし、行けばなんとかなるというものもあるだろうが、あらかじめできるだけの準備をしておくこともまた大切だろう。実際に現地で求められるものをしっかりと把握することで、初めて正しく努力をすることができる。備えを本気で丁寧にしておくことで、欧州への順応はしやすくなるはずだ。

Football ZONE web編集部