【インタビュー後編】2019年のINAC戦で待望のリーグ戦初ゴールも黒星で喜び半分

 なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)2部で再出発したAC長野パルセイロ・レディースで、自分の殻を破ろうとしている選手がいる。所属3年目のMF三谷沙也加だ。高校時代に将来を嘱望された逸材は、怪我と戦いながら苦難のキャリアを送ってきた。後編は2018年の長野での再出発から現在まで。主力となり、選手会長も務める彼女が掲げる理想のプレーヤー像とは――。

 2018年1月、三谷は4年間を過ごした浦和レッズレディースから長野Lへの移籍を決断した。きっかけの一つとなったのは、地元・岡山県に拠点を置く岡山湯郷Belle(現チャレンジリーグ所属)で2001〜11年まで指揮を執っていた本田美登里監督の存在だった。

「小さい頃から本田監督にはお世話になっていて、本田監督の下で一から頑張りたいと思ったのがパルセイロに移籍してきた理由です」

 三谷は当時の新加入会見でこのように語っている。浦和L時代はサイドバックなど最終ラインの一角でプレーしていたなか、移籍を機に得意のドリブルがより生きる攻撃的なポジションに戻った。「(本田)美登里さんに救われました」と振り返る三谷だが、加入1年目はリーグ戦出場1試合とベンチを温める日々が続き、リーグカップでも4試合でノーゴールと悔しい結果に終わった。

 背番号が「20」から「11」に代わって迎えた2019年も、ポジション争いで遅れを取ったリーグ前半戦は2試合で合計3分間のプレーのみ。しかし、1部第10節アルビレックス新潟レディース戦からレギュラーの座を奪うと、8試合連続でスタメン出場を果たした。第14節INAC神戸レオネッサ戦では、相手のミスを見逃さずにバックパスをかっさらって待望のリーグ戦初ゴールをマーク。もっとも、得点の瞬間こそ「嬉しすぎて(頭の中が)真っ白だった」という三谷だが、試合には1-2と逆転負けを喫して喜びは半減してしまった。

「(自分が決めた)先制点が開始3分と早くて、言ったら相手は最初からエンジンをかけないといけない状態になりました。そこから苦しい展開を強いられて、結局試合も逆転負けだったので、自分が(もっとゴールを)取って勝ちにしたかった。『もう1点取っておけば……』と、素直に喜べないもどかしさがありました」

2部で再出発する2020年は選手会長に就任 攻撃でもサイドハーフとして起点を担う

 リーグ最少タイの15ゴールと得点力不足に苦しんだ長野Lは、4勝3分11敗とリーグ9位に低迷。なでしこリーグ1部・2部入替戦ではセレッソ大阪堺レディース相手に2戦合計1-1ながらアウェーゴールの差で敗れ、初めて昇格した2016年以降では初の2部行きが決まった。「降格」の現実を突きつけられた瞬間、三谷は心に穴が開くような感覚があったという。

「最後に(試合終了の)笛が鳴って降格が決まった瞬間、イケさん(GK池ヶ谷夏美)のような在籍の長い選手がここまで築き上げてきたものを崩してしまったという思いと、チームが苦しい時に何もできなかった悔しさで、『サッカーはもういいんじゃないか』というくらいに落ち込みました」

 そんな「複雑な気持ち」にさいなまれる状況から立ち直れたのは、大切なチームメートたちとの絆だった。シーズン中から食事をともにすることが多かった池ヶ谷、DF野口美也、DF五嶋京香、MF大久保舞と意見を交わすなかで、「自分はこの人たちとやりたい」という熱い思いが湧いてきた。2020年、三谷は佐野佑樹新監督、ルーキーを含めて新加入13名というフレッシュなチームで選手会長の役割を担う。

 3年ぶりに長野Lに復帰した最年長のFW泊志穂は、「天真爛漫かつ天然。お姉さんキャラですごく面倒見が良くて、下の子にも声をかけている」と評する三谷に期待を寄せる。

「サイドハーフの沙也加は(今年のチームで)攻撃の起点になるポジション。気が利くプレーができる選手で、守備でもチームメートのポジションを見てバランスを取ってくれています。自分なりのサッカーのイメージを持って周囲に伝えているので、人を巻き込んで良い風を吹かせてほしいと思います」

 三谷の中でもチームを引っ張る意識は強く、こと“一体感”に関しては自信を持っている。

「1部から2部に落ちたことで周りの見る目も変わるし、自分たちの姿勢が一番重要視されます。今年は若い選手が主体。今までパルセイロを作ってきたメンバーと新加入選手たちが融合して、みんな一つになってできている。監督、選手、スタッフ、クラブ全体の一体感は胸を張れます。私自身、一番起点になるポジションだと言われているので、積極的にチャレンジしていけたら良い方向に進んでいくと思います」

作陽高時代の恩師・池田監督もエール「沙也加らしくやり続けてほしい」

 三谷は、サッカー経験者であり、指導者でもあった父親との幼き日の会話の中で芽生えた「両親が笑ってくれたら」「何かやってくれると期待される選手でありたい」という思いを大事にしてきた。辛い時も、そしてピッチでプレーする時も笑顔を忘れないのは、たくさんの人に笑顔になってもらうためだ。敗戦により、心の底から喜べなかった初ゴールの裏では、そういった信念が報われる出来事もあったという。

「昔からずっと、『三谷沙也加あってのチーム』だと言われるような、苦しい状況の時に自分が助けられる選手でいたいと思ってきました。周りのみんながいたから今サッカーができているので、感謝の延長上に、私の笑顔を見てたくさんの人に笑顔になってもらえればという気持ちがあります。ゴールを決めたINAC戦は運良く試合中継があって、たまたま見れた親が涙を流していたらしいんです。見ていて嬉しかったと聞いて、やっぱいいなと思いました。どんな苦しいこともそれ一つでチャラにできて、また頑張れる。『三谷が救ってくれた』『アイツがエースだ』と言ってもらえるように、ゴールとアシストで結果を残していきたいです」

 三谷は7月19日の2部・第1節ちふれASエルフェン埼玉戦(0-1)、自身初となる開幕戦のピッチに立った。今季はチームの2部優勝とともに、背番号と同じ「11ゴール」を目標に掲げる。そんな彼女に、作陽高時代の恩師である池田浩子監督もエールを送る。

「サッカーを楽しむことが一番大切。自分が楽しむためには今まで通り周りの人を大切にすること、そして楽しんでプレーしていればいろんな人が見て幸せになれると思うので、沙也加らしくやり続けてほしいと伝えたいです」

 なでしこリーグに身を投じてからの6年間のプロセスは、もしかしたら回り道だったかもしれない。それでも、三谷は「怪我をしたから今の自分があるので、苦しかった経験もマイナスの記憶ではないです」と前を向く。今までの苦労や悔しさを爆発させたい――。“笑顔のアタッカー”が覚醒を迎える瞬間から目が離せない。

[PROFILE]
三谷沙也加(みたに・さやか)
1995年5月13日生まれ。岡山県出身。162センチ・50キロ。スインキー倉敷―FCエフロンテ(女子)&サウーディ(男子)―作陽高―浦和レッドダイヤモンズレディース―AC長野パルセイロ・レディース。なでしこリーグ1部通算15試合・1得点、なでしこリーグ2部通算2試合・0得点(7月31日時点)。スピードに乗ったドリブルで攻撃に緩急をつけ、2列目からの抜け出しでゴールを狙うサイドアタッカー。ピッチ外では天真爛漫で後輩の面倒見も良く、イジられキャラとしてもチームを盛り上げる。

※取材はビデオ会議アプリ「Zoom」を使用して実施。

Football ZONE web編集部