南米からジュビロ磐田へ、フベロ新監督とは何者か? 異色のキャリア、攻撃的戦術を徹底研究

南米からジュビロ磐田へ、フベロ新監督とは何者か? 異色のキャリア、攻撃的戦術を徹底研究

パラグアイで始まった異色の監督キャリア

 ジュビロ磐田はJ1の最下位に沈んでいる。名波浩、鈴木秀人を経て、2度目の監督交代もあった。今月20日に就任が発表されたのはスペイン出身のフェルナンド・フベロ監督だ。南米パラグアイで指導者としての評価を高めた異色の新監督はどのような戦術を指向し、どんな武器を持っているのだろうか。そして名門・磐田を再び軌道に乗せることはできるのだろうか。(文:舩木渉)

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 Jリーグにまた1人、新たなスペイン人指導者がやってきた。ジュビロ磐田の新指揮官に就任したフェルナンド・フベロ監督である。

 名波浩監督が6月30日に退任した後、ヘッドコーチを務めていた鈴木秀人氏が後任監督に就任した。それでも低迷から抜け出せず、鈴木監督は体調不良もあって8月15日付で退任。今季2度目の監督交代を経て、Jリーグ初挑戦のフベロ監督にJ1残留というミッションが託された。

 1974年2月27日生まれで45歳のフベロ監督は、選手としてトップレベルでプレーした経験を持たない指導者だ。プロ選手だったことはなく、生まれ故郷のカタルーニャ州の下部リーグでプレーしていた。

 むしろ精神教育学の学位を持つインテリで、2003年からはバルセロナBの分析担当や若手選手のオブザーバーを務めながら、小学校教師としても働いていた異色の経歴の持ち主である。2008年にはカタールが国策として取り組むサッカー選手育成組織「アスパイア ・アカデミー」で働き始め、世界中を飛び回って有望なタレントを発掘するスカウトとして活動することになる。

 指導者としての転機が訪れたのは2013年のこと。前年からパラグアイ1部のグアラニでスポーツディレクターを務めていたフベロ氏は、ディエゴ・アロンソ監督の退任にともなって暫定的にトップチームの監督を担うことになった。直後に1ヶ月ほどウルグアイ人のグスタボ・ディアス監督が指揮を執ったものの、すぐにフベロ氏が正式な監督に就任する。

 グアラニでは2012年からスポーツディレクターを務めていたため、指導を始める際に「ユースもトップチームも全てのカテゴリの選手たちをよく知っていた」と、フベロ氏は今年7月に『パラグアイTV』の番組出演の際に語っている。

「あの時、選手たちには『継続性がない』と話した。それを身につけて、我々はチームとして周りをサポートし、常にボールを握り続けたいと。我々にとってそれが最も重要な目標だった。そして私はクラブに選手たちを成長させるためのプロジェクトを提示し、多くの選手を昇格させ、また多くの選手を売却して送り出した」

 フベロ監督のサッカーはパラグアイ国内で「攻撃的で美しい」と高く評価されている。さらに長年若手選手の能力や才能を見極めるエキスパートとして働いてきた経験を生かし、グアラニ時代から数多くの有望株を開花させてきた。同時に結果も残している。

戦術のキーマンは巨漢FW

 グアラニでは就任してすぐのパラグアイ1部の前期リーグで2位に。後期リーグでは4位に甘んじたものの、翌2014年の前期リーグでは2位に。同年後期リーグは3位、2015年前期リーグ2位、後期リーグ3位と常に上位をキープする。

 2015年には南米最強を目指すコパ・リベルタドーレスでブラジルの名門コリンチャンスやアルゼンチンの古豪ラシン・クラブを破って準決勝に進出快挙も成し遂げた。フベロ監督はグアラニを退任するまで129試合で72勝31敗26分、243得点に対し137失点と攻撃的なサッカーでパラグアイサッカー界にその名を轟かせた。

 スペインに一時帰国している最中、『ムンド・デポルティーボ』紙の取材に「いつかまたパラグアイに戻りたい」と語った青年指揮官は、すぐにその土地へ舞い戻ることとなる。2016年2月、今度はパラグアイ1部の強豪オリンピアの監督に就任した。

 オリンピアでの指揮は1年のみで、翌年は同国内のライバルであるリベルタードへ。新天地では2017年の前期リーグを制覇、さらにコパ・スダメリカーナで準決勝進出を果たした。優勝こそ少ないものの、2018年夏から率いた直近の職場であるセロ・ポルテーニョも含め、フベロ監督は常に安定して結果を出せる攻撃サッカーを展開してきた。

 ピッチ上の戦術が特に奇抜なわけではない。近年は4-4-2をベースに4-1-4-1なども使い分け、グアラニ時代は守備時は5バックになる3-4-2-1も採用していた。ボールポゼッションをベースに攻撃的なスタイルでありながら、守備のリスク管理も考慮されたバランスのとれたスタイルが印象的だ。

 最も特徴的なのは、どのチームでも最前線に長身ストライカーがいたことだ。フベロ監督が指向する戦術のキーマンにもなっており、2トップでも1トップでも常にフィジカルと空中戦に強みを持った選手を重用していた。

 例えばグアラニ時代には、現在セリエAのボローニャで活躍する身長187cmのFWフェデリコ・サンタンデールをブレイクさせて欧州移籍に導いた。オリンピア時代には身長193cmながら高い技術も備えるパラグアイ代表の英雄的FWロケ・サンタ・クルスがチームを引っ張っていた。

 リベルタードではポルトガルの名門ベンフィカなどで活躍し、パラグアイ代表でも長らくエースの座を守ってきた身長193cmのオスカル・カルドーソがキーマンに。同僚には元FC東京で身長183cmのパワー自慢、ササ・サルセードもいた。

磐田での選手起用法は?

 セロ・ポルテーニョでも同様だった。身長187cmのアルゼンチン人FWディエゴ・チュリンが最前線で抜群の存在感を発揮し、冬にはジェフユナイテッド千葉から身長185cmの同胞FWホアキン・ラリベイも加入して迫力はさらに増した。

 2トップの場合、セロ・ポルテーニョでは長身ストライカーの相方にはセカンドトップタイプの選手が据えられていた。トップのFWが常に相手のDFと駆け引きしてディフェンスラインを押し込み、かつてドルトムントで香川真司とも共にプレーした元パラグアイ代表FWネルソン・バルデスや、ウルグアイ人のエルナン・ノヴィックのような小回りの利く選手がチュリンやラリベイを支える形だ。

 近年のフベロ監督の戦術では、両サイドバックが大きく開いて高い位置を取り、ピッチの横幅を確保する。両センターバックも開いてセントラルMFと連係しながらボールを運び、相手をハーフコートに押し込んでから本格的な攻撃が始まっていく。

 ボールポゼッション時は相手守備ブロックに中央を閉じられてしまうことが多いため、崩しのメインはサイドから。ウィングは周囲の選手の立ち位置を考慮しながら時にはアウトサイド、ある時にはインサイドと適宜ポジショニングを調整する。場合によっては引いた位置に下がって後ろからのオーバーラップを促すような動きも求められる。

 そこにサイドバックの選手や2トップの片方、あるいはセントラルMFが絡んでいき、トライアングルの連係でサイドをえぐってクロスを供給。ペナルティエリア内での空中戦で長身ストライカーが力を発揮し、ゴールにシュートをねじ込むか、こぼれても逆サイドのウィングか2トップの相方が2次攻撃を狙う。

 危険な中央でボールを失うリスクを回避しつつ、論理的に組み立てられたサイドアタックで崩す。その際、ウィングの選手には縦に突破してクロスを上げるだけでなく、シャドー的な立ち位置からスペースを突いたり、味方の走り込むスペースを作るための囮になったり、状況に応じて多彩なタスクが要求される。

 磐田では新加入のブラジル人FWルキアン、あるいは比較的長身の中山仁斗あたりが前線の軸になるだろうか。怪我さえなければ川又堅碁もフィニッシャーとして重要な役割を担うことになるだろう。そして相方には大久保嘉人のような賢さと野性味を両立させたアタッカーが持ってこいだ。

 ウィングにはアダイウトンやエベシリオのような突破力のあるタイプがふさわしいか。組み合わせによっては中央寄りの性格が強い山田大記や田口泰士のような選手の起用も面白いだろう。時に繰り出されるカウンターや、最終ラインがプレッシャーを受けた際の回避法には空中戦に優れたFWへのロングボールも活用する。そういった状況にもペナルティエリア付近で臨機応変に立ち回れる選手であれば、なお貴重な存在となる。

戦術家としての能力はいかに

 セロ・ポルテーニョでフベロ監督は「U-15の練習を見た際に彼と出会い、才能に目を惹かれてトップチームで練習するよう電話した」という当時14歳のフェルナンド・オヴェラールをデビューさせてウィングや2トップの一角としてブレイクに導いた。

 『アス』紙のインタビューで同監督はオヴェラールについて「できるだけ自然にマネジメントするようにしている。私のアシスタントと彼の家に行き、母親に私たちの意図することと、『この世界では多くの選手がやってきて、長くその場に留まれる者はほとんどいない』ということを説明した。(中略)ある瞬間から多くのことが変わってしまうが、私たちは彼と家族に学び続け、トレーニングを怠らず、これまでと同じ人生を送るようにと伝えた。彼は私の息子だと思っている」と語ったように、若手選手を正しく導く術にも長けている。このようにフベロ監督の若手の才能を見抜く慧眼は健在で、磐田でもくすぶっている有望株の抜てきがあるかもしれない。

 守備面では全体が前がかりになる分、多少全体が間延びして見えるところもある。相手を押し込んでのボールポゼッションを重視するため、カウンターを受ける場面も増えるが、そういった局面ではセンターバックやセントラルMFの個での対応も重要になる。攻守の切り替えが早いJリーグで、磐田の守備組織をフベロ監督がどう整備し、選手を配置していくかも注目すべき点だ。やはりJ1残留のためには失点を減らさなければならず、安定感と継続性を身につけるために失点のリスクはできるだけ削りたい。

 磐田の服部年宏強化本部長は、新監督就任会見において「フベロ監督の試合も何試合も見て、とにかくハードワークをすることと、前へという意識が強い。守備に関してもしっかりと全員でまとまって、守備をする。規律の整ったチームを作る」と戦術的な印象を述べ、「外国人でパワーを持って引っ張って行ってほしい」と厳しい状況下でスペイン人指揮官招へいに至った理由を説明した。クラブ公式サイトの中でその様子がレポートされている。

 グアラニ、オリンピア、リベルタード、セロ・ポルテーニョとそれぞれの試合映像を確認して抱いた印象は、「規律」という点で服部強化本部長と概ね同じだった。一方、フベロ監督自身は「攻撃の部分でバランスの取れた攻撃が出来る、オフェンスの面でレベルを高く保つ、そういうサッカーが理想」と語っている。

 そして「どこが上位に立つか、どこが優勝するか分からない、非常に競争が激しい」Jリーグにおいて、残りのシーズンで目標を達成するための「計画が頭の中にあります」とも述べた。

 名波監督はどちらかといえばモチベーター的要素が強く、近年の磐田は戦術的な緻密さに欠けていた。そういう意味でも副官にダビエル・ルビオルという分析官を連れてきたフベロ監督は、磐田のサッカーを大きく変えるかもしれない。

 自らも分析担当として見識を深め、若手スカウティングのエキスパートとして才能を見極める眼を持ち、南米で攻撃的な戦術家としての評価を確立したフベロ監督の手腕はどれほどのものか。短い準備期間で磐田にどんな戦術を仕込み、ピッチ上に表現できるかにも注目したい。

 J1残留へのきっかけをつかむためにも、まずは勝って少しでも自信を取り戻したいところだ。最初の関門は24日、同じスペイン出身の智将ロティーナが率いるC大阪との一戦となる。

(文:舩木渉)


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