理想的なスタートダッシュを切ったが…

 新年を迎え、2019/20シーズンは後半戦へと突入した。欧州各国でプレーする日本人選手たちはどのような活躍を見せたのか。今回は今季からレアル・サラゴサでプレーする香川真司の前半戦を振り返る。(文:編集部)

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 出だしは最高だった。香川真司は今季、夢だったスペインでのプレーを2部のレアル・サラゴサ加入で叶えた。チャンピオンズリーグ(CL)にも出場したスター選手の到来に沸き立つ街で、日本代表の“元10番”は期待通りの活躍を披露する。

 直前に加入したにもかかわらず、開幕戦からトップ下で先発起用されると第2節のポンフェラディーナ戦で初ゴールを挙げた香川は、第5節のエストレマドゥーラ戦で2ゴール目。開幕戦から4勝1敗とロケットスタートを切り、8年ぶりの1部返り咲きを目指すサラゴサに確かなクオリティと経験値を持ち込んだ。

 しかし、勢いはここで止まってしまう。10月初旬に体調不良で短期間離脱すると、直後からサラゴサは5試合で1勝4敗という絶不調に陥って、一時は9位まで転落した。9月中旬から徐々に勝てなくなったチームは、香川とともに混迷のトンネルへと入り込んでしまう。

 なかなかチームが復調のきっかけを見つけられない中、11月初旬に腰に問題を抱えて再離脱。絶対的な中心選手として1部昇格への切り札になることが期待された香川は、いつの間にかサラゴサで脇役に甘んじるようになっていた。欠場している間にチームが勝利を収めたことも逆風になっていく。

 その後も先発出場とベンチスタートが交互に続くような状態で、主力を大量に温存した今月11日のコパ・デル・レイ2回戦のヒムナスティック・タラゴナ戦にターンオーバー要員として先発起用され、チーム内での立ち位置が芳しくないことが裏付けられてしまった。

 ただ、いつまでもチームにフィットしきれない原因が香川自身だけにあるのではない。サラゴサは現在2部で3位につけて昇格を十分に狙える位置にいるが、戦い方は典型的な2部クラブのものに近い。ビクトル・フェルナンデス監督はポゼッションサッカーを指向することで知られるものの、今のサラゴサの攻撃は理想から程遠いのかもしれない。

チームのスタイルにフィットしきれず

 トップ下で起用される香川のクオリティに疑いはない。実際、ピッチ上でのプレービジョンやテクニックはスペイン2部では群を抜く。しかし、他の選手が香川を有効に活用できる特徴を備えていないのだ。唯一プレービジョンを共有して好連係を築けたのは10番のMFハビ・ロスだったが、抜群のテクニックを有する反面守備に難があり2人が同時起用される機会はごくわずかだった。

 1部に比べ技術で劣る2部は、どうしてもフィジカル重視のサッカーになりがちだ。しかもバルセロナやレアル・マドリーのような圧倒的な強豪がおらず、どこが昇格してもおかしくないほどに拮抗したリーグのため、必然的に多くのクラブが確実に勝利を掴むための現実的かつ堅実なサッカーを構築している。

 それはサラゴサも例外ではなく、ボールを奪ったらまずは最前線の選手を見て、できるだけ早く相手ゴール前に展開することを目指す。するとボールホルダーは最初にFWの動きを確認するようになり、トップ下の香川に視線が向かないのである。

 日本代表やドルトムントでの香川は、味方と近い距離でパス交換しながらサポートし、細かな動きを繰り返して自らもゴール前に入ってフィニッシュに絡むようなプレーが魅力だった。サラゴサでも同様に的確なポジショニングでパスを要求するが、前ばかり見ている味方選手の視界に背番号23の動きが入らず、飛ばされてしまう。

 サラゴサはシーズン開幕当初、FWルイス・スアレスとFWラファエル・ドゥワメナという身体能力の高い2トップが攻撃を引っ張っていたが、昨年10月に予期せぬアクシデントが起こる。ラファエルに心臓の深刻な問題が見つかったとしてプレー継続を断念せざるをえなくなったのだった。

 それまで彼ら2トップの背後にトップ下の香川が構える形だったサラゴサは、ルイス・スアレスを1トップに据える4-2-3-1に布陣を変更。すると両ウィングも含めた前線の3人が一層裏のスペースを狙うようになり、中盤を省略する傾向が強まった。

早くも移籍の噂が…どうなる後半戦

 また、ラファエルの離脱にともなって昨年11月にエスパニョールから緊急補強したFWハビ・プアドが加入してすぐに左ウィングに定着し、すでに2ゴール2アシストと結果も残して攻撃の中心になりつつある。中盤と前線をつなぐプレーが持ち味の香川は、彼らの陰に隠れる存在になってしまった。

 こうして不遇の時期が続き、チームのスタイルにフィットできないまま香川自身のパフォーマンスも上がらないと、早くも移籍の噂が立ち始めた。昨季後半戦に在籍していたトルコの強豪ベシクタシュや、その宿敵にして日本代表DF長友佑都が所属するガラタサライ、はたまた北米メジャーリーグサッカー(MLS)からの関心まで取り沙汰されるようになった。

 現実的な話をすれば、サラゴサにとって香川はクラブの枠を超えたスター選手であり、大きな期待を寄せられているのは間違いない。それでも期待を裏切るプレーが続けば、金銭面も含めてクラブにとって大きな負債になってしまう可能性もはらんでいるのだ。

 サラゴサのラロ・アランテギSD(スポーツディレクター)は地元メディアに対し、冬の移籍市場での香川放出を否定したが、「後半戦が彼にとって非常に重要になるのは確かだ。もっと良いパフォーマンスを見せてくれなければならない」と奮起を促した。

 2年契約でスペイン上陸を果たした元日本代表MFの実績や年齢を考慮すれば、サラゴサをけん引して昇格するか、あるいは個人のパフォーマンスを高めて1年での個人昇格を狙っていると考えてもおかしくない。現状のままでは両方とも夢のまま終わってしまうだろう。

 現在3位につけているサラゴサだが、他クラブとの勝ち点差は非常に詰まっており、少しでも油断して連敗しようものなら一気に中位まで転がり落ちてしまう危険は常にある。香川は周囲との相互理解を深め、中心選手に返り咲けるか。

 リーグ戦18試合に出場して2ゴール1アシストは、加入時の期待の大きさを考えれば明らかに物足りない。上位をキープして勢いに乗って勝ち星を重ねてサラゴサを1部昇格に導かなければならない後半戦で、香川の巻き返しと本領発揮に期待したいところだ。

(文:編集部)