前線からプレスをかけられると…

8日に行われたFUJI XEROX SUPER CUPは、3-3で突入したPK戦でヴィッセル神戸が横浜F・マリノスを破り、初優勝を飾った。3度のリードを奪いながら90分間で勝利できなかったチームに対して、3点目のゴールをマークしたMF山口蛍は厳しい言葉を発している。(取材・文:藤江直人)
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 半年ほど前の苦境と比べれば、ヴィッセル神戸は明らかに進化している。創設時から無縁だったタイトルも、1カ月あまりの間に、立て続けに2つも手にすることができた。それでも山口蛍は笑顔を浮かべない。勝って兜の緒を締める、とばかりに仲間たちへ、そして自らへ厳しい言葉を発した。

「点は取れるというか、取れるという手応えを感じている。なので、失点を減らしていかないと。去年もかなり失点が多かったので。後ろの3枚とウイングバックで、言うたら5枚で守っていても失点するのは、ちょっとどうなのかと。そこはみんなで、もうちょっと話し合っていきたい」

 3度も奪ったリードをことごとく追いつかれ、3−3のまま決着がつかずにもつれ込んだPK戦を何とか制した8日のFUJI XEROX SUPER CUP。昨シーズンは2戦2敗だったJ1王者の横浜F・マリノスを撃破した余韻が残る埼玉スタジアム内の取材エリアで、山口は淡々とした、抑揚のない口調で失点禍を課題にあげた。

 FCバルセロナとスペイン代表で一時代を築きあげた至宝、アンドレス・イニエスタを擁して勝てない。セレッソ大阪から加入して半年がたったころの山口は、大きなジレンマを抱えていた。たとえば湘南ベルマーレに1−3で逆転負けを喫した、7月14日の明治安田生命J1リーグ第19節後にはこんな言葉を残している。

「ボールをつなぐチームが相手だと上手くいくこともあるんですけど、前線からプレスをガンガンかけてくるチームと対戦するときに限って、自分たちのよくないところがたくさん出てしまう」

よくない傾向

 前線からアグレッシブにプレスをかけてくるクラブとして、ベルマーレはJ1でも象徴的な存在となる。前半の早い段階に先制しながらベルマーレのプレスにさらされ、ボディーブローのように体力を削がれ、後半に入って立て続けに3点を奪われた理由を、山口ははっきりと看破している。

「ポゼッションができる場面でも、プレスをかけられると結局ウェリ(ウェリントン)を探して、ウェリを目がけて蹴っちゃう、という感じになる。もちろんウェリのところで収まって、しっかりとつなげれば問題ないんですけど、全部が全部そうなるわけではない。状況が悪くなったらウェリばかりに頼ってしまう傾向は、あまりよくないと思う」

 ベルマーレ戦の前節でヴィッセルは清水エスパルスに1−2で、次節ではマリノスに0−2でそれぞれ敗れて3連敗を喫している。昨シーズンだけで3人目となる、ドイツ人のトルステン・フィンク監督が指揮を執って1カ月あまり。依然として手探り状態が続いていたなかで、ある種の戸惑いや自信のなさが、プレッシャーをかけられると蹴ってしまう悪癖を引き起こしていた。

 イニエスタとダブルボランチを形成していた山口は、頭上を越えていくボールをながめながら何度歯ぎしりしたことか。しかし、1カ月もたたないうちに、ヴィッセルは今シーズンに至る最適解を見つける。夏の移籍市場で加入した守護神・飯倉大樹、元日本代表の酒井高徳、そして現役のベルギー代表にして前バルセロナのトーマス・フェルマーレンの存在は、それだけポジティブに感じられた。

 フィンク監督はまず最終ラインを4バックではなく、左からフェルマーレン、大崎玲央、ブラジル人のダンクレーを並べる3バックに変更。アンカーにはコンディションが上がってきた前バルセロナのセルジ・サンペールを、インサイドハーフにはイニエスタと山口を左右対で、左右のウイングバックには経験豊富な酒井と西大伍を配置する[3−5−2]の新布陣に行き着いた。

「失点を減らしていかないと」と語った理由

 これが見事なまでに奏功した。故障から復帰した元スペイン代表のダビド・ビジャ、後に日本代表に初招集される古橋亨梧の2トップがまず強烈なプレスをかけ、酒井や西、そして運動量の多さを絶対的な武器としてきた山口が続く。仕掛けられて嫌だった戦法を逆に相手へ見舞う。脆さを見せていた最終ラインにも、フェルマーレンの経験とダンクレーの強さが反映される時間帯が増えた。

 最終的には8位でJ1に残留した昨シーズンのヴィッセルの総得点「61」は、マリノスの「68」に次ぐリーグ2位にランクされた。新布陣のなかでイニエスタが生かされ、周囲も生きる。オフにはビジャが引退し、ブラジル人のウェリントンと元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキが退団したが、サンフレッチェ広島とエスパルスでJ1通算46ゴールをあげたFWドウグラスが加入した。

 一方で「59」を数えたヴィッセルの総失点はエスパルスの「69」、ベルマーレの「63」に次ぐワースト3位だった。フィンク監督が就任する前から失点の連鎖が止まらなかった時期があったとはいえ、リーグ最少失点だったセレッソ大阪の「25」と比べればいかに多いかがわかる。

 ただ、フィンク監督のもとで[3−5−2]が採用されてからは、相手を1失点以下に抑えた一戦は8戦全勝の星を残していた。今シーズンの船出となったマリノス戦後に「点は取れるというか、取れるという手応えを感じている。なので、失点を減らしていかないと」と山口が語った理由がここにある。

(後編へ続く)

(取材・文:藤江直人)