JリーグでもVARが本格的に導入

明治安田生命J1リーグでも2020年シーズンより、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が本格的に導入されることとなった。幕開けを告げる8日のFUJI XEROX SUPER CUPでも、VARの介入によって得点が認められないシーンがあった。すでに導入されている海外ではたびたび物議を醸しているが、日本サッカー協会では適切な解釈を下にシステムを運用していくことになりそうだ。(取材・文:ショーン・キャロル)
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 ヴィッセル神戸でのデビューからわずか22分。アンドレス・イニエスタのCKをトーマス・フェルマーレンが頭で繋いだボールを至近距離から押し込み、ドウグラスはすぐに喜びの感情を解き放とうとしていた。

 だがその直後、今村義朗主審がセレブレーションに待ったをかける。左耳に手を当てて右腕をまっすぐに伸ばす、今ではお馴染みとなったポーズは、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)による確認が行われていることを示すサインだ。

 しばらくして、VARを務めた飯田淳平氏からの助言を受けた42歳の主審は得点が無効であることを示した。ドウグラスが新天地での初ゴールを挙げるまでにはもう少しだけ待つ必要があった。

「こういうことのためにVARは導入されたのだと思う。ゴールが決まるようなチャンスについて審判が決定を下すためだ」。横浜F・マリノスと対戦したFUJI XEROX SUPER CUPの試合を3-3のスコアで終え、PK戦の末に神戸が3-2の勝利を飾ったあと、ブラジル人FWはそう話していた。

「自分としてはゴールを決めたと思ったけど、審判が確認した結果ならそうだったということだ」

 5分後に改めてゴールを決めたことで気持ちが収まった部分もおそらくあったのだろう。ドウグラスは広い心で判定を受け入れた。だが世界各地ではVARの導入が様々な騒動を引き起こした例も枚挙に暇がない。

悪名高きVAR

 問題の多くは、主審が「明確かつ明白なミス」ではなく細かな判定に拘泥することによって引き起こされてきた。微妙なオフサイドの判定に用いられる「3Dライン」もたびたび議論の的となった。昨年11月に行われたイングランド・プレミアリーグのアストン・ビラとの試合で、リバプールのロベルト・フィルミーノの脇下が最終ラインのDFの向こう側に出ていたとして得点が認められなかったのが最も悪名高い例だ。

 だがJリーグでは、スタート時点ではこの技術を用いることはなく、より単純な2Dラインを使用する。2020年よりJ1の全ての試合にVARが導入されるにあたり、メディアへの周知を図るため、2月6日にJFAハウスにおいてブリーフィングも開催された。

 JFA審判委員会トップレフェリーグループマネージャーの扇谷健司氏が今季想定される判定基準についてのプレゼンテーションを行った。小川佳実氏(審判委員会委員長)とレイ・オリバー氏(同副委員長)も、VARはどうしても必要とされる場面においてのみ用いられるのであり、細かな判定の粗探しをするためではなく試合を変えるような出来事に関する明らかなミスを防止するためにあるのだと強調していた。

 Jリーグの試合を担当する審判員たちも一定期間にわたってVARのトレーニングを行ってきた。“オフライン”テストや、昨年のYBCルヴァンカップ終盤戦およびJ1参入プレーオフでの試験導入もその一部だ。ブリーフィングに招待されたメディア関係者に向け、Jリーグのオフシーズン期間中に行われた大学チームの練習試合での実際のシステム使用例も提示された。

 そのビデオ映像ではVARの利点が明確に示されていた。ある場面では最初はハンドによるPKだと思えたが、別角度の映像を見ると実際には第一印象とは逆の腕にボールが当たっており、PKではなくエリア外からのFKが正しい判定だった。

不満の原因は目的の誤認

 スーパーカップでドウグラスの得点がオフサイドにより無効とされたように、新たな視点の追加が正確な判定を生むことはあっても不正確な判定を生むことはない。日本でのVAR導入が他国のように茨の道になるとは考えにくい。

 日本のファンやメディアはおおむね、他国の場合よりも忍耐と理解を示すことが予想される。VARに対する一部ファンやメディアの不満や怒りは、システム自体の具体的な欠陥よりも、その目的に対する誤解を原因としている場合が多いように思われる。

 JFAブリーフィングに集まった審判員たちは、メディア関係者がVARに関する規定と用法についての予習を行い、自宅から試合を観戦するファンに適切な解釈を伝えるよう努めてほしいという願いも口にしていた。

 この目的のためJリーグは、今季のどのような判定に対してVARが用いられるのかを説明するツイートもスーパーカップ前日に投稿していた。得点か否か、PKか否か、退場か否か、そして違反を犯した選手を罰する上での人間違いがないかどうかの4点だ。
(VARについて説明するJリーグのツイートは次ページを参照)

「VARで取り上げられる判定はそれが現実なので、僕らは受け入れるしかないです」。マリノスの遠藤渓太はスーパーカップの試合後にそう語った。

「正しい結果に繋がるのであればそれでいいと思いますし、フェアな戦いになると思います」

 ヴィッセルのフェルマーレンも同様に冷静な受け止め方を示していた。

システムは完璧ではない

「色々と議論があるのは知っているが、実際のところ僕としては賛成だ。試合がより正しいものになると思うからね」。34歳のDFは新システムについてそう語った。

「いくつかの問題やミスは起こっている。それでも全体的には試合をより正しくしてくれると思う。オフサイドかオフサイドでないか、そういった明白な部分でね。そういう明らかなミスは起こるべきではないし、良いことだよ」

 その点について異論の余地はないとしても、フェルマーレンも指摘するように、システムはまだ完璧なものではない。

 例えばリプレイがスタジアムのスクリーンに映し出されない現状では、観客席のファンはどのような判定が行われているのかについて何の情報も得られないし、何がなぜ混乱や不満の理由になっているのかも分からない。また埼玉スタジアムでの試合では、序盤に2回のVAR確認が行われた結果として、前半だけで5分のアディショナルタイムが取られた。

 プロセスが迅速に実行されなければ、遅延がそれ以上伸びることにもなりかねない。様々な角度から複数回の確認が必要となるような際どい判定においては必ずしも迅速な実行が可能だとは限らない。

 今のところは全ての当事者がフェアに対応しており、「最小限の介入で最大限の恩恵」というスローガンが現実のものとなることを願っている。だがシーズンが進行し、プレシーズンのタイトルではなく本番の勝ち点を奪い合う試合の結果に、VARの判断が影響を及ぼし始めた時、反応に変化が生じてくるのかどうかは興味深く見守っていきたい。

(取材・文:ショーン・キャロル)

【了】