開催が不透明な五輪

依然として明治安田生命J1リーグ再開の目処は立っていないが、選手たちはいつか分からないその日に向けて準備を続けている。延期の可能性が報じられている東京五輪でエース候補として期待されていた上田綺世もその一人。来る勝負のシーズンに対する上田の心境に迫った。(取材・文:元川悦子)
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 日本サッカー協会の田嶋幸三会長が新型コロナウイルスに感染するなど、サッカー界に激震が走っている。Jリーグも3月18日再開予定が叶わず、現時点では4月3日の再開に向けて準備が進められている。とはいえ、状況は予断を許さず、さらなる日程の後倒しの可能性も大いに残されている。最悪の場合は5月初旬再開もある得る状況で、Jリーグ側もその後の超過密日程などを考慮して「今季は降格なし」というイレギュラーなルール導入に踏み切ることを決めたところだ。

 感染が世界中に広がり、7月24日開幕予定の2020年東京五輪も延期か中止の声が日に日に高まっている。五輪が1年後、あるいは2年後に開催されることになれば、U-23の世界大会であるで男子サッカーの年齢制限問題が気がかりだ。現在は「97年1月1日以降生まれ」の選手に出場資格があるが、来年になれば97年生まれの選手たちは年齢制限に引っかかり、再来年になれば98年生まれも出場不可能になってしまう。

 昨年のコパ・アメリカ2019(南米選手権)にも参戦したエース候補の上田綺世は98年8月28日生まれ。1年後なら参加OKとなるが、今は東京五輪のことはあまり気に留めていないという。

「五輪のことはそんなに気にしてないです。3月の2試合(U-23南アフリカ代表戦とU-23コートジボワール代表戦)のこともいいかなと。僕はあくまで鹿島アントラーズの選手なんで、そっちが優先かなと思います」

 中断期間に突入して約10日経過した3月上旬の練習後、彼は静かにこう言った。

満足できない結果

 上田が「鹿島集中」の姿勢を示しているのも、J1の壁にぶつかったからだろう。昨年6月のコパ・アメリカ敗退後、大学選抜の一員として7月にユニバーシアード競技大会に参戦した本人が決意したのは、法政大学サッカー部を退部してプロの世界に飛び込むことだった。

 7月31日の浦和レッズ戦でJデビューを飾り、8月10日の横浜F・マリノス戦で初ゴールを挙げたところまでは順調だったが、その後は試合に出たり出なかったりが続いた。常勝軍団も終盤に入って失速し、まさかの無冠に終わる。「日本代表の絶対的1トップ・大迫勇也(ブレーメン)の後継者有力候補」と目された上田にとって、J1・13試合出場4ゴールという結果は決して満足できるものではなかったはずだ。

 加えて言うと、昨年12月のEAFF E-1サッカー選手権、今年1月のAFC・U-23選手権でも不発に終わった。日本を勝たせるゴールを奪えなかったことは、本人にとっても悔しさが募ったに違いない。その後、合流したザーゴ新監督率いる新生・鹿島でもケガで出遅れており、2020年のスタートは非常に険しいものだった。

ザーゴ監督が求めるもの

 だからこそ、予期せぬ中断期間が訪れたことは、彼にとってはプラスだったかもしれない。

「これをいい準備期間にすべきだと思うし、いいチャンスと捉えてできてるんじゃないかと感じています。ザーゴ監督はポジションごとに『ああしてくれ』『こうしてくれ』っていう監督ではなく、オーソドックスな型だけを伝えて、それに合わせて自分の武器や特徴を出すことを求めています。基本の型というのはビルドアップだったり、前ハメ(前からのプレス)だったり。そこにはこだわっている印象はありますね。これまでよりは長い時間、ボールを持ちつつ、守備の時間を減らしていくスタイルになるのかな。そういう中で自分が結果を出せるように努力していきたいです」と上田はより具体的なイメージを持てるようになってきた様子だ。

 3月に入ってから、鹿島はジェフユナイテッド千葉、ザスパクサツ群馬、いわてグルージャ盛岡、大宮アルディージャ、北海道コンサドーレ札幌と練習試合を実施。キャンプでは一度もやらなかった実戦を積み重ねて戦術浸透を図っている。その中で上田も新外国人FWエヴェラウドやファン・アラーノ、移籍組の和泉竜司や永戸勝也らとのコンビネーションを高めている。

 点取り屋がゴールという結果を出そうと思えば、周りとの連係は必要不可欠だ。ルーキーイヤーだった昨季の半年間はその部分に苦労したように見受けられたが、指揮官も主要メンバーもガラリと変わった今季はなおさらだ。そこを本人も強く意識しながら、この中断期間を最大限、有効活用しようとしているのだ。

今の鹿島に大事なのは

「日々、練習試合もありますし、合ったところ、合わなかったところをコミュニケーションを取りながらすり合わせる作業がすごく大事なんだと思います。細かいところに目を向ける時間がもらえたのは、僕自身もチームにとってもプラス。今の鹿島は成功体験をつかむことが大事。公式戦が再開された時に1勝できればチームの勢いになるし、自信にもつながると思うんで、まずは練習でガツガツやりながら、成功につなげていければいいと思います」

 そんな上田が見据えるのは、再開後の快進撃だ。ザーゴ体制発足後の鹿島は、1月28日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)プレーオフのメルボルン戦を皮切りに、YBCルヴァンカップ・名古屋グランパス戦、J1開幕のサンフレッチェ広島戦で3連敗という最悪のスタートを余儀なくされている。

 その悪い流れを断ち切り、常勝軍団らしい強さを取り戻すためにも、伸び盛りの上田のゴールラッシュが強く求められてくる。五輪開催がどう転んでも、クラブで活躍していれば、A代表定着やワールドカップ出場の道は必ず開けてくる。彼には長期ビジョンを持って一歩一歩、着実に進んでほしいものである。

(取材・分:元川悦子)

【了】