「悔しい気持ちをぶつける場がない」

明治安田生命Jリーグ再開の目処は立たず、今夏に控える東京五輪は延期の可能性が取り沙汰されている。思いがけずおとずれた中断期間に、東京五輪世代の選手たちは何を思うのか。川崎フロンターレの大卒ルーキー・旗手怜央にその胸中を聞いた。(取材・文:元川悦子)
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「田嶋ショック」がいまだに癒えない日本サッカー界。新型コロナウイルスのさらなる感染拡大を阻止するため、Jクラブの多くが取材制限強化に乗り出した。常日頃からファンとメディアを大事にすることをモットーにしていて、休止期間に入った2月下旬以降も取材対応を継続していた川崎フロンターレも、協会会長の感染という衝撃的ニュースを機に非公開練習に踏み切ることを決定。公式戦再開まで選手の一挙手一投足を見ることができなくなった。

 その直前の14日。季節外れの雪が舞う厳寒の麻生グランドで、選手たちがトレーニングに挑んでいた。順天堂大学から加入したルーキー・旗手怜央も元気そうな姿で参加。試合再開を切望する思いを改めて吐露した。

「ホントは試合をやりたい気持ちはいっぱいある。1月のタイ(AFC U-23選手権)もそうだし、2月22日のJ1開幕戦(対サガン鳥栖・△0-0)の悔しい気持ちをぶつける場がないっていうのもありますね」

「でも、それに対応していくのもプロ選手の1つの役目。自分の課題に向き合っていくことも大事なんで、この状況が続いてもしっかりやりたいと思います」

「五輪のことは特に考えなくてもいい」

 そんな旗手にとって気になるのは、やはり東京五輪の動向だろう。世界中に感染者が広がり、オリンピック代表選手からも「このままでは開催できない」という危惧が聞こえてくるが、まだ先行きは不透明だ。97年11月21日生まれの彼は、今年中に大会が延期されるのであればU-23の年齢制限に引っ掛からないが、万が一、大会が来年以降にズレてしまうと出場資格が失われる厳しい立場にいる。

「1年延びる可能性が高いって今、言われてますけど、そうなったら出場できる年齢が変わるのか……。そういうのも全然分かんないですね。まあでも、自分の場合は今のままやったら出られへんし、五輪に行きたければフロンターレで試合に出るしかない。もともと厳しい立場にいたんで、五輪のことは特に考えなくてもいいかなという感じです」と今は目の前のことに集中しているという。

 確かに、出場資格が現状通りだったとしても、同じアタッカーのポジションには欧州組の久保建英や堂安律、前田大然、三好康児など数多くのライバルがいる。1月のタイに参戦できたのも、彼ら欧州組の大半が招集できなかったからだ。そこで強烈なインパクトを残していたらまた話は別だったのだが、旗手は惨敗したチームの一員になってしまった。だからこそ、今季の川崎Fでの活躍に賭けていた。その場がいつ巡ってくるか分からないのは、やはり辛いし悔しいはずだ。

「一瞬のコントロールや判断が足りない」

 それでも、本人が話すように、この期間に自分の課題と向き合うことは非常に重要だ。鳥栖戦でも後半途中から送り出されながら、決定的なチャンスを逃してゴールを奪えなかった通り、「ここ一番の勝負強さ」を身に着けることが最重要テーマと言っていい。

「個人としては今、技術の部分を磨きたい。一瞬のコントロールや判断が足りないから肝心なところで決め切れない。それがタイのU-23や鳥栖戦で結果となって表れたと思います。ホントにちょっとしたところを埋めるのは大変だけど、日々の練習を積み重ねるしかない。そういう気持ちで再開まで取り組んでいきます」と彼は自らを鼓舞する。

 ゴールやアシストという目に見える結果を残せる選手にならなければ、攻撃陣にタレントがひしめく川崎Fでは出場機会を増やせない。旗手は4-3-3の右ウイングで起用されるケースが多いが、同じポジションには2018年JリーグMVPの家長昭博や若手のホープ・宮代大聖らがいて、競争は極めて厳しいものがある。

「自分はウイングでもよさを出せるし、インサイドハーフでもっていう思いはあります。『特にここなら自分は生きる』というのはないし、与えられたポジションをどこでもこなせるのが自分のよさだと感じてます。まあでもゴールに近いポジションでやりたいという気持ちは強いんで、右ウイングでも左ウイングでもどこでもいい。この期間でしっかりアピールして『旗手はこういう選手だ』ともう1回アピールできれば、それで監督の信頼ももらえると思うんです。僕はタイに行っていた分、プレシーズンの合流も遅くて、なかなかアピールできずに開幕を迎えたんで、そういう意味では今の時間はホントにチャンス。今を大事にしたいです」

 今季の大卒ルーキーの中で非常に注目度の高い旗手。森保一監督からも熱視線を送られているが、川崎Fでスタメンを確保しなければ、輝かしい未来は開けてこない。本人は「いつかUEFAチャンピオンズリーグの舞台に立つことが目標」と夢を語っていたが、それだけの高みを目指すなら、今の環境で何とか序列を上げていくしかないだろう。現時点ではウイングのスーパーサブという位置づけだが、この中断期間を生かしてチームの大黒柱に登り詰める術を見出すことが何よりも肝心だ。公式戦再開が4月3日なのか、それより後になるかはまだ分からないが、その時の韋駄天アタッカーのパフォーマンスが今から非常に興味深い。

(取材・文:元川悦子)

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