腕はどこまで?

6月27日から再開される明治安田生命Jリーグでは、2020/21年の競技規則が適用される。例年では後半戦に差し掛かる8月ごろから適用されるが、新型コロナウイルスによる公式戦中断の影響もあり、前倒しで採用されることになった。主な改正ポイントに加えて、今季のみ暫定的に採用される交代枠の増加などの特別ルールもさらっておきたい。(文:加藤健一)
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 ハンドの反則を適用する際に、これまでは「腕をどこまでとするか」が抽象的だった。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が主要大会で導入されて映像によるチェックが可能になったこともあり、その境界線がどこなのかは度々議論を呼んでいた。

 2020/21シーズンの改正では、「手を下げた場合、脇の下の最も上に位置するところ」までがハンドの反則における「腕」と定義された。ハンドの解釈については19/20シーズンの改正でも触れられたが、さらに「腕をどこまでとするか」が明文化されている。

 偶発的に腕にボールが当たった場合でも、それが直接得点となる、腕に当たった直後に得点となった場合は反則となるが、「直後」がどこまでに当たるのかが問題となっていた。

 実際の現場でも、「直後」と言えないようなゴールのいくつか前のプレーで適用されることがあった。そこで、今回の改正では「直後」の基準が明確化。腕に当たったボールが直接ゴールになるか、その本人か味方選手がそのままゴールに入れた場合はゴールが認められない(ハンドの反則がとられる)。

 一方で、「直後」でなければ反則にはならない。つまり、腕に当たった後にドリブルやパスなどでボールがある程度の距離を移動していれば、その後のゴールは認められる。ただし、これは偶発的に当たった場合のみに適用されるもので、意図的に腕を使った場合はもちろんハンドとなる。

PKでの罰則が整理

 ペナルティーキック(PK)では、相手選手がキックするまで、GKは少なくとも片方の足がゴールラインかその上方になければならない。ラインの後方でも前方あっても、キックする前に動いてしまった場合は反則となり、警告が提示されていた。

 しかし、昨夏から導入されたこのルールで警告を受けるGKも多く、昨年の女子ワールドカップでは決勝トーナメントから警告を与える規則を一時的に廃止。今回の改正では罰則が整理された。

 上記のようなGKによる反則があった際、ゴールに入らなかったり、クロスバーやゴールポストに跳ね返ったりした場合、キッカーがその反則の影響を受けていなければ反則とはならない。このとき、GKは罰せられず、PKが再び行われることもない。

 キックをGKがセーブした場合はPKのやり直しとなるが、1度目は注意のみ、繰り返した場合に警告が提示される。また、GK以外の守備側の選手がキックの前に侵入してゴールにならなかった場合は、その影響の有無にかかわらずPKはやり直しとなる。なお、キッカーとGKの両方が同時に反則を犯した場合は、ゴールかどうかにかかわらず、キッカーに警告が与えられることになっている。

 また、試合の決着がPK戦に委ねられた場合、試合中(延長戦を含む)に与えられた注意や警告はPK戦に繰り越されない。つまり、試合中に警告を受けていた選手がPK戦に警告を受けても、2つ目の警告として退場になることはない。同様に、試合中のPKで注意を受けていたGKがPK戦で注意を受けたとしても、警告ではなく1度目の注意となる。

アドバンテージと罰則の軽減

 決定的な得点機会の阻止(※DOGSO)の反則があった場合でも、主審がアドバンテージを適用したり、素早いリスタート(フリーキック)を認めたりすることがある。このとき、現在の競技規則では退場となるべき反則をした選手には警告が与えられることになっている。本来であればレッドカードに値するプレーでも、アドバンテージや素早いリスタートによって攻撃側は決定機を失っていないため、DOGSOにはあたらないと解釈できる。

※DOGSO(Deny an Obvious Goal Scoring Opportunity:決定的な得点の機会の阻止):その反則がなかった場合、決定的な得点の機会になっていた反則を指す。以下の4つの条件を満たす場合、反則を犯した選手は退場を命じられる。
1.プレーの方向(ゴールに向かっているか)
2.反則とゴールとの距離
3.守備側競技者の位置と数(GK以外に防げる選手がいるか)
4.ボールをキープできる、またはコントロール出来る可能性

 今回の改正により、警告が与えられるプレーにもこの解釈が応用されることになった。大きなチャンスとなるような攻撃を妨害されたチームにアドバンテージが適用されたり、素早いリスタートが行われたりした場合、警告が提示されるはずだった選手に警告が与えられることはない。

リスタートの妨害への罰則

 ドロップボールによりプレーが再開される際、チームを問わず、それに参加する選手以外は4m以上離れなければならない。

 これまでは、フリーキックやコーナーキック、スローインの際に規定の距離を取らなかった場合、その選手に警告が与えられていた。今回の改正でドロップボールでも同じように既定の距離(4m)をとらなかった選手に対して警告が与えられることになる。

VAR運用の微修正

 明白な判定の間違いや、見逃された重大な事象があった場合、VARは主審に「どのような判定を下すべきか」を伝えることを禁止されていた。しかし、「最終の判定は常に主審が行う」という原則があるため、判定に対する助言の内容について言及する必要がなくなり、今回の改正ではこの文章を削除している。

 また、主審は「レビューを行う前」と「判定を覆す決定をするとき」にモニターを描くシグナル(TVシグナル)をすることが決められていた。しかし、VARの助言だけで判定を変更する(オン・フィールド・レビューを必要としない)オフサイドやゴールかどうかの判定の際は2度続けてTVシグナルを行うのは不自然であることから、シグナルは1度で十分ということになった。

 公式戦での導入からまだ2年しか経っていないVARについて、今回の規則改正はいずれも判定に関わるものではなく、運用面での微細な修正にとどまっている。

GKのハンドに対する罰則

 自陣のペナルティーエリアであっても、GKは味方選手からのパスを手や腕を使ってプレーすることができない。さらに、ゴールキックなどでプレーが再開された後、敵味方問わず他の選手が触る前にGKが再び触った場合も反則となっている。

 今回からこういった反則については懲戒の罰則(警告、退場)の対象となることになった。そのバンドが相手の大きなチャンスとなる攻撃の妨害や得点機会を阻止となった場合は、警告や退場が宣告される。例としては、GKがゴールキックでプレーを再開したとき、パスが短くなり相手選手に触られそうになってしまい、GK自らボールを再び触ってしまった場合などが考えられる。

オフサイド

 オフサイドのポジションにいる攻撃側の選手は、守備側の選手のプレーを妨げる動きをした場合を除き、守備側の選手が意図的にプレーしたボールを拾ってもオフサイドとはならない。たとえば、攻撃側の選手が出したパスを、守備側の選手がプレーした後で、オフサイドポジションにいた攻撃側の選手が受けた場合が当てはまる。

 ただ、これまでは守備側の選手の「意図的なプレー」にハンドが該当するのかが曖昧だった。しかし、今後はハンドを含めた「不正なプレー」も含まれることとなっている。

 通常はハンドの反則があれば、プレーが停止されて直接フリーキックやペナルティーキックが相手側に与えられるが、そのプレーが攻撃のチャンスにつながる場合はファウルと同様にアドバンテージを適用することが可能。守備側のハンドは意図的なプレーなので、攻撃側のオフサイドは取られず、アドバンテージが適用されれば攻撃側はプレーを続けることも可能となる。

コロナの影響による暫定ルール

 新型コロナウイルスの感染拡大により、Jリーグをはじめ日本国内の各種サッカー大会は中断、中止を余儀なくされた。すでに再開された欧州の主要リーグでは過密日程による選手への影響を減らすための暫定ルールが導入されているが、Jリーグでも採用される暫定的なルールを紹介したい。

 試合中の交代は3人から5人まで増やされた。交代の回数は3回までだが、ハーフタイムは交代の回数に含まれない。たとえば、3回で5人を交代するには、1回に複数の選手を交代しなければならないことになる。欧州ではベンチ入り人数を増やしているリーグも多いが、Jリーグでは現行通り7名のままとなっている。

 また、選手の体調なども試合へのエントリー条件に加えられた。試合当日は、GK1名を含む14名以上がエントリー可能であれば、試合を開催できる。基準人数に満たない場合は、村井満チェアマンの最終判断の下、中止か否かの判断がされることになっている。

 YBCルヴァンカップでは「2020年12月31日において満年齢21歳以下の日本国籍選手を1名以上先発に含めなければいけない」というルールがあるが、今シーズンに限りこのルールは適用されない。また、今年度の同大会では決勝戦のみ90分で試合の決着がつかない場合は延長戦が行われるが、その際は交代人数が1名増やされる。同時に交代回数も1回追加されるが、後半終了時や延長戦のハーフタイムは交代回数に含まれない。

 暫定ルールは2020年12月31日までに終了する大会を限定とした暫定措置。ワールドカップ予選は翌年以降も続くため、日本代表の公式戦では適用されない。ただし、来年1月1日に決勝が行われる天皇杯では、リーグと同様に暫定ルールが適用されることが決まっている。

 また、今シーズンよりVARがJ1リーグとルヴァンカップのプライムステージ(決勝トーナメント)で導入されていたが、再開後は採用されないことが決まった。短期間での試合消化が優先されたことで、派遣できる審判員の数に影響が出ることが考慮されている。

 未曽有の事態により、サッカーは緊急的なルール改正が行われた。選手やチームスタッフは難しいコンディショニングや選手起用を強いられるが、審判をはじめとする試合を運営する側も同じように難しい対応に迫られている。

(文:加藤健一)

【了】