丸山珈琲の「思い」を叶えた、日本型クラウドファンディング

丸山珈琲の「思い」を叶えた、日本型クラウドファンディング

あなたの「自己満足な投資」は、どのように社会にいい影響を及ぼしているのか。その過程を見ていくと、様々な人の「思いの好循環」があった。軽井沢で生まれたコーヒー専門店、丸山珈琲の場合──

はじまりは、2014年8月。

年間150日以上、海外17カ国のコーヒー豆生産地を訪れ、個性豊かな世界各地の最高品質コーヒー豆を直接生産者から購入、その販売事業と飲食店事業を手掛ける丸山珈琲代表の丸山健太郎(49)は、地方銀行からの紹介で、マイクロ(小口)投資プラットフォーム「セキュリテ」を運営するミュージックセキュリティーズ社長の小松真実(41)と出会った。

「僕の一番好きなコーヒーは、生産者の農園で、彼らがつくったコーヒーを一緒に飲むことです。僕が現地で感じて、感動する一つひとつの農園の物語を伝えたい。地域特有の地形や気候があり、つくり手がいて、農園ごとに様々な工夫をしている。それにより、コーヒーの味に違いが生まれていること。人の営みがコーヒー豆の味につながっているんです」

丸山は、1991年に長野県軽井沢で丸山珈琲を創業。02年、コーヒー生産国で毎年開催される国際品評会にはじめて参加し、同年から生産地訪問を開始、同品評会に世界で最も多く参加している国際審査員となったいまでも、そんな原点となった思いを持ち続けている。

「つくり手が切磋琢磨し、高い品質のコーヒー豆をつくった人を称賛するスペシャルティコーヒーの文化を広め、世界的に優れた生産者であっても、下手したら床のないような家に住んでいる現状を変えたい。ワイン生産者のような世界的なスターにしたいんです」

スペシャルティコーヒーの文化は着実に広がっていく一方、丸山は壁にぶち当たっていたという。

高品質のコーヒー豆の多くは標高の高い地域でつくられ、生産者の多くはコーヒー豆が唯一の換金作物である小規模農園主。コーヒー豆市場は先物取引であるため価格変動が激しく、2000年代前半には取引価格が暴落。生産コストにも満たない価格で豆を出荷しなければならないこともあった。

それに加え、納品から支払いまでの期間も長く、銀行からの高利の貸し付けを利用せざるをえず、結果的に廃業する生産者も多い。この悩みの種である「キャッシュフロー」問題の解決に丸山珈琲は単独で取り組んでいた。国際市場価格を上回る価格での買い取りだけでなく、決済を前払いで行うことで、経済的に厳しい生産者の生活安定の役に立とうとしていた。

「そうしているうちに、僕らの負担になった。年1回まとめて購入したコーヒー豆を、1年かけて売っていく。しかも前払いのため、僕らのキャッシュフローが厳しくなり、成長のための手も打てなくなった。金融機関からの調達もうまくいかない時期だったこともあり、我々と同じ思いを持つ人たち、優れたコーヒーから喜びを得ている人たちと負担をシェアできないかーと考えたんです」(丸山)

丸山から相談を持ちかけられた小松は当時をこう振り返る。

「丸山珈琲さんは、生産者を支えるというコンセプトに社会的意義がありました。事業計画もしっかりし、堅実に事業拡大をされていた。事業者にとって難しい両立を実践されていたので、”ぜひ”と」

小松が運営する「セキュリテ」は、投資運用業務の許可機関(第二種金融商品取引業者)が運営し、匿名組合契約を活用して実施される「投資型クラウドファンディング」のプラットフォーム。そのため、事業者の審査に「定量的な評価と定性的な評価との両立」を重視する。

「集めたお金をどう使うのか」という事業者が立てる事業計画(=定量)と、「なぜ、それを実行したいのか」という思い(=定性)、どちらが欠けても成立しない。

そして、14年11月、最初のファンド「丸山珈琲の厳選コーヒーファンド」を募集開始。1口5万2850円、募集総額2100万円ー。中南米の生産者からコーヒー豆を買い付けるための資金を募集した。

「集まるかどうか不安だった」という丸山の気持ちをよそに、278人が出資し組成。コーヒー愛好家だけにとどまらず、丸山の思いに共感した人たち、社会貢献や国際問題の解決に関心のある人たち、「セキュリテ」ファンの人たちも広く投資したという。同ファンドは、すでに償還も終わり、償還率110.2%となった。

その後、丸山は「セキュリテ」上で、8本のファンドを組成した。2年半で組成したファンド全てを合わせると、募集総額4億8045万円、出資人数はのべ2301人にのぼる。個人投資家、生産者、ミュージックセキュリティーズ、丸山珈琲とそれぞれの信頼関係が醸成されていくうちに、ファンドの内容も「丸山の思い」に寄り添ったものになっていった。

丸山は現在、「コミュニティ・サポーテッド・コーヒー」という取り組みをはじめている。ファンドで購入した小規模高品質生産者のコーヒー豆をシリーズ化し、直営店舗やオンラインショップで販売している。美味しいスペシャルティコーヒーを楽しんでいただきながら、生産者の生活安定を支え、高品質なコーヒー豆の安定買い付けにつなげるー。こうした好循環を生み出し、持続的なコーヒーの品質向上につなげていく狙いだ。

丸山は「多くの個人からの意思のあるお金」でコミュニティをつくり、それぞれが有機的に成長していくことに意味があるという。

「我々の思いについて、社会貢献の側面も含めて共感して応援していただくことは、丸山珈琲にとっても生産者にとっても歩みを進めていくうえで、大きな勇気になります」(丸山)

IDB、JICAも注目する金融支援手法

ファンド総数695本、事業者456社、ファンド募集総額71億2495万円ー、日本最大規模を誇り、丸山珈琲をはじめとした中小事業者の新たな資金調達手段となったミュージックセキュリティーズのマイクロ投資クラウドファンディングはいま、世界から注目を集めている。

「Empathy Driven Funding(共感性に支えられた新たな金融手法)」。17年5月、中南米地域の地域開発金融機関である米州開発銀行(IDB)は、国際協力機構(JICA)との共同調査による報告書を発表した。英語、スペイン語で書かれた同レポートには、マイクロ投資クラウドファンディングが、中南米地域の地場中小零細企業向けの新しい金融支援になる、と記されている。

両組織が高く評価したのは、「共感性に支えられた個人投資家との関係」。多くの個人投資家は、事業者や事業自体が持つ「物語性」「創造性」「独自性」に共感し、また「地域への愛着」「挑戦を応援したい気持ち」を感じ、資金提供をしている。

小松曰く、「共感とリスク許容度は相関関係にある」ため、個人投資家は、事業期間中の分配や特典といった経済的リターンだけでなく、投資対象となる事業者や事業自体への関心が高い。そんな事業者と個人投資家の新しい関係を生む金融支援の手法が、中小零細事業者の持続的な成長をうながすとして注目されたのだ。小松はその価値を次のように話す。

「従来の金融は、『信用』を大事にしてきました。信用は、家柄、財産、国籍によって最初のスタートラインが違う。信用を獲得しようと思ったら、土地を担保に入れ、保証人を用意しなければならず、タダではない。いま、我々がやっている『共感』をベースにした金融は、そうした不平等がない。共感は無料で手に入れることができ、資産家であれ、少年であれ、スタートは一緒。誰にでも開かれている、平等な金融です」

そして、同社のマイクロ投資の特徴である「匿名投資組合契約に基づく有価証券の一種」が、世界にない独自の金融手法として「JAPANモデル」と評価された。

「匿名投資組合は、鎌倉時代に発祥した日本古来の地方金融システム『頼母子講(たのもしこう)』と共通点が多い。金融の融通を目的とする相互扶助組織に似た仕組みを法整備しているのは日本だけ。インターネットのテクノロジーと、その金融手法が結びつくと、小規模な事業者は思いやこだわりを持ちながら、新しい挑戦ができ、個人投資家との結びつきも強くなる。法整備が整えば、中南米をはじめ世界でも有効な金融支援につながる」(小松)

これは小松が00年にミュージックセキュリティーズを創業し、ミュージシャンを応援するためのマイクロ投資ファンドをはじめた時からの「思い」と同じだ。

小松は以降、その思いが届く範囲を拡大させてきた。09年からはジャンルを問わない、事業者のためのマイクロ投資プラットフォーム「セキュリテ」を開設。11年には、東日本大震災からの復興を目指す企業を支援するための「セキュリテ被災地応援ファンド」を立ち上げた。

現在、30の地方自治体と協定を結び、70の地域金融機関と業務提携し、地域企業向けの「ふるさと投資ファンド」も組成している。

さらに、IDBとも連携し、ペルーの日系人がつくったアバコ貯蓄信用協同組合への資本増強を行うファンドを組成するなど、ミュージックセキュリティーズが提唱する、「共感を大事にする金融へのパラダイムシフト」はいま、着実に世界に広がりつつある。

さらなる進化を目指す

「個人投資家の『インパクト投資』プラットフォームになる」ー 。小松はこれから、新しい挑戦をはじめる。

インパクト投資とは、J.P.モルガン、ロックフェラー財団、GIINの共同レポートによると、「利潤最大化を目的とした伝統的投資と社会的インパクト最大化を目的とした寄付の動機をひとつにした新しいタイプの資本」。ESG投資のひとつで、ゴールドマン・サックス、ブラックロックなど世界的金融機関が実施。投資運用残高は20年には1兆ドル(約109兆円)という予測も出ている、新しいトレンドだ。

小松は、その個人投資家版のプラットフォームをつくるという。「これからの使命は、定性的な『共感性』が及ぼした影響を定量的な『データ』で示していくこと。あなたの1万円が、どれだけ経済的、社会的なインパクトを出し、社会をよくしているのかをしっかりと数字で伝えることだと思っています」

丸山珈琲への投資も、小松が考える個人投資家の「インパクト投資」のひとつだ。コーヒー豆生産者への日本人投資家の投資が、生産者と家族、その地域の経済を豊かにし、子どもたちの教育水準を上げ、さらなる地域の持続的な発展につながるかもしれないからだ。

最後に小松は一言付け加えた。

「このインパクト投資を前進させるのは、我々がこれまで積み上げてきた、日本人投資家の『共感』『思いのある投資』ではないか、と思っています。一部の富裕層だけではなく、一般の人たちが積極的に参加するのは日本の文化。個人金融資産も膨大にあるため、欧米の大資産家による篤志よりも、社会に与えるインパクトが大きくなる可能性もある。これからは、社会的インパクトを期待して投資をする個人投資家を増やし、『JAPANモデル』を世界に広め、日本発グローバルな個人投資家のための『インパクト投資プラットフォーム』を目指していきたい」

誰もが持つ無償の財産、「共感」「思い」はお金と掛け合わされることで、我々が想像もできない、新たな価値を生み出していくかもしれない。

小松真実◎ミュージックセキュリティーズ代表取締役。学生時代に「アーティストを支援するための音楽ファンド」のアイデアを思いつき、2000年に起業。13年には世界経済フォーラムよりYoung Global Leadersに選出された。

丸山健太郎◎丸山珈琲代表取締役。1991年に創業し、自らバイヤー、カッパーとしても活動。2004年、ヨーロッパ スペシャルティコーヒー協会若手起業家賞受賞。現在はカップ・オブ・エクセレンス国際審査員なども務める。

山本 智之

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