「地域と世界を混ぜる」最新のブランディング戦略

「地域と世界を混ぜる」最新のブランディング戦略

地球規模でアイランダーを呼び込む石垣島の観光デザイン、世界の新潮流SBNRにフィットした伊勢市の「The Study of ISE」、地域から海外へと発信する最新のブランディング戦略。

渡邉賢一は地域活性化のプロフェッショナルだ。独自の手法で地方創生のプロジェクトをいくつも成功に導いてきた。

「自分のいまやっている仕事というのは10年前にはなかったものです」。
 
こう言いながら、渡邉はノートを開き、白いページの真ん中に「大義」と記した。そして「大義」のまわりに「G」「C」「C」「M」「E」という文字を書いていく。

「Gはガバメント、行政。Cはカンパニー、企業。もうひとつのCはコミュニティで、Mがメディア、Eが教育。この5つを、大義を中心に絡めていく。自分の仕事の新しさはそこにあると思います」。
 
渡邉は、2010年に元気ジャパンという一般社団法人を起ち上げ、地方創生やソーシャル・プロデュースに取り組んできた。彼がとる手法は、GR(Government Relationship)というもので、必ず「G」、つまり行政を巻き込んだかたちで、公的な政策として展開していく。しかし、プロジェクトの中心には、いつも地域の環境保全や、伝統文化の継承などの「大義」というものが存在している。

「企業取引だと利益の最大化が中心にあるが、自分の仕事は『大義』というものがそこにある。地域の人々に必ずプラスとなる方向に進めていくのです」。
 
現在、渡邉はXPJPという地域活性化専門エクスペリエンス・デザインの会社を設立し、海外クリエイターやフリーランスのプロフェッショナル人材とチームを組み、本格的に地域の活力アップに力を入れている。渡邉が取り組む最新の仕事をのぞいてみよう。
 
石垣島は、13年3月に新空港の供用がスタート、観光客が大幅に増加。12年の約77万人に対し、17年は約124万人で過去最高を記録。空港内では混雑や行列が常態となり、施設も圧倒的に不足した。際限ないリゾート開発や島の伝統文化の衰退もある。加えて温暖化に伴い、サンゴの白化現象も深刻だ。

「いま石垣島はキャパシティを超える観光客が訪れているため、収容能力をきちんと見極めながら開発すべきではないかという意見が出ています」。
 
観光とキャパシティの問題は、全国的にも深刻で、世界遺産の白川郷で有名な岐阜県白川村は、人口約1700人に対し年間の観光客は約180万人。人のラッシュで「原宿の竹下通り状態」、小学生が通学時に人の波に押し流されてしまう状況だ。

「石垣島では、島の持つ精神的な価値を高めていこうということで、新しいプロジェクトをスタート。世界中のアイランド文化に関心がある人に絞った地域ブランディングを行うことにしたのです」。
 
つまり島を愛する人たちだけに来てほしいと発信し始めたのだ。音楽の力でアイランダーたちを結びつけようと、「The Islanders」というラジオ番組をエフエム東京と組み世界に向けて流している。

「地元のBEGINや吉本多香美さんに出演していただき、島のアイデンティティを高めていく。世界中のアイランダーにも登場してもらい、交流し始めています」。

YouTubeにアップロードした「The Islanders」では、島で暮らす人々のライフスタイルを美しい作品に仕立て、欧米中心に150万再生を記録。
 
今年11月には「アイランダーサミット」を開催し、世界の島国の人たちを呼んで、島のソーシャル・デザインを考える拠点にしようと計画している。
 
今回のプロジェクトは内閣府と石垣市と連携している。石垣島をモデルとして、島の人たちの精神性を大切にした新しい開発プランを確立したい。それが成功したら、日本各地にそのモデルを広げていく。その実験でもあるので、渡邉がGRの仕事として引き受けた。冒頭の5つのうち、「G」の行政と「C」のコミュニティ、海外向けラジオで「M」も絡んでいる。しかし、その中心には島の文化や自然を守るという「大義」が存在している。

「The Study of ISE」は、伊勢市と伊勢神宮と関係が深い皇學館大学、そして南カリフォルニア大学(USC)の日本研究所が共同で進めるプロジェクトだ。

「いま世界の新潮流として、SBNRという指標があります。これはSpiritual But Not Religious、つまり宗教ではないが精神的なもの。アメリカの著名な世論調査で、18歳以下の78%がSBNRで、特定の宗教に帰属していないがスピリチュアルなものに興味があるという結果が出たのです」。
 
実は、最初、伊勢市から渡邉のもとに依頼があったのは、海外ブランディング戦略についての相談だった。伊勢市は伊勢神宮を中心としたPR動画を海外で展開しており、膨大な再生数があった。

「伊勢市の方々はとても気概があって、伊勢神宮を通じて日本全体の神社文化をブランディングしていこうという高い意識がありました。アメリカでの最新の日本研究では、『神=ネイチャー』と訳します。自然と融合した生き方や価値観への関心が高まっています。これは伊勢市の海外ブランディングの方向性として素晴らしいのではないかと考え、The Study of ISEというプロジェクトを始めました」。
 
写真家の宮澤正明が監督した伊勢神宮の映画「うみやまあひだ」をアメリカのUSCで上映し、神社本庁と皇學館大学とカリフォルニアの日本研究者の間で文化シンポジウムを開催、自然と同調した生き方を根源とする神社文化について理解を深めた。その後、渡邉はかねてから研究していたSBNRの話を持ちかけ、世界のムーブメントにフィットするかたちで伊勢市を発信していこうとしている。
 
石垣島や伊勢市のプロジェクトはどちらも「主語」は地域だが、渡邉自身が主体となってすすめているプランがある。LXD 、
ローカル・エクスペリエンス・デザイン(Local Experience Design)の略で、自身が培ってきた地域活性化のノウハウを積極的に地域の人々にも伝えていこうというものだ。

「これが自分にとっては最も熱のこもった仕事です。自分がやっていることというのは、実は誰にでもできるのではないかと思っています。何がこの地域にとって大切なのかという発見の仕方や、その発信の方法を、全部教えてしまいます」。
 
Adobeと1泊2日のプログラムを組み、基礎スキルから地域取材、編集、配信など、それらを地域の人々に教えていく。「大義」まわりで言えば、「E」にあたるエデュケーションに重心を置いたものだ。

「福島・猪苗代町の土津神社の神主さんや日本青年会議所(JC)の方々がつくった地域PRの映像が大変カッコいい。ニューヨークを中心に流したら1日で2万回再生され、周辺のJCにも地域デザインを担当する部ができた。もう東京の会社に発注する時代ではないのです」。
 
渡邉の仕事は9割方が行政からの依頼だ。最初は政策として地域活性化を進めるのだが、その過程で「大義」を突き詰めていくと、最後は地域の「ジブンゴト化」に突き当たるという。「ジブンゴト化」というのは、「他人事」の反対概念だ。

「プロジェクトを進めるにあたって、地域に住んでいる人たちが誇りを持って生きていくためにどんな仕掛けが必要なのかを常に考えています。地域にいながらその良さがわからないということは多い。それを、自分たちの住んでいるところも面白いのだと自己発火させてゆきたい。そうしたジブンゴト化がたくさん起きることで、地域の活力も上がると思います」。
 
地域が自分たちの力だけで、活性化を進めていくようになると、自身の仕事がなくなるのではという問いに、渡邉は事もなげにこう答えた。

「そのほうが日本はもっと元気になると思っているので」。

わたなべ・けんいち◎国際電信電話(現KDDI)、朝日新聞社、内閣官房地域活性化統合事務局に勤務後、2010年に元気ジャパンを設立し、世界各国を舞台にインバウンド、輸出促進、文化交流分野の事業を展開。慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所研究員。日本ガストロノミー学会プロデューサー。

稲垣 伸寿


関連記事

おすすめ情報

フォーブス ジャパンの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

経済 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

経済 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索