「ゼロイチ」時代 破壊的イノベーション競争は始まっている

「ゼロイチ」時代 破壊的イノベーション競争は始まっている

この連載企画「The IDEI Dictionary」が持ち上がったのは、およそ1年半前。A to Zでワードを選び語っていくスタイルで、昨年の秋に「Aging Society」からスタートし、毎回楽しく書いてきた。

2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸英一先生のことに触れた「Cross-Coupling」、フランスの男性を魅了した彼女の半生が映画にもなった歌姫「Dalida」、食べることが好きな私の食コミュニケーション「Gourmet」、日本の教育に疑問を投げかけ私の越境人生について書いた「Risu-kei(理数系)」、ワインにまつわる思い出を詰めた「Wine」など、それぞれに生きるヒントを綴ってきた。

いよいよ、今回で26回目、最終回となる。1年以上続けてきただけに、終わってしまうのはホッとする反面、なんとも寂しい気持ちもある。

気持ちをポジティブに変えたZ

さて最終回。しかし本題に入る前に少し小話を挟みたい。1972年、パリ駐在から帰国した30代半ばの私が買った車、日産「フェアレディZ」についてだ。

そもそも私が帰国することになった理由は、日本の本社と意見が合わなくなったからだ。進めていたソニー・フランスの設立前に戻ることになった。「そんなことに負けてたまるか!」という思いから、私はグリーンのZを購入。当時の職場、横浜の流通センターまで、毎日派手にクルマ通勤した。そして、お昼休憩になると、同僚を入れ替わりに助手席に乗せてランチに出かけた。

欧州の生活では冷房が不要だったので、その習慣のままZにもクーラーをつけなかったら、日本の夏の運転は暑くて大変だった。そんな笑い話もあった。

日本は「10→100」と言われる危機感

では本題、Zといえば「ZERO(ゼロ)」だ。私は、生まれ育った時代背景から、零戦(通称ゼロセン)、そして『永遠の0』(百田尚樹著)などを思い浮かべる。

「0(ゼロ)」の発見は革命だった。何もない「無」の状態を意味する「記号としての0」が最初に使用されたのは紀元前、「数としての0」の概念が確立されたのは5世紀ごろ、そして7世紀にはインドの数学者・天文学者であるブラーマグプタが自身の書物において定義している。西洋では、宇宙観やキリスト教の影響で「無」と「無限」が認められず、17世紀まで「0」の概念は受容されなかった。

今、私たちが当たり前のように使用している0は、時代や状況によってその意味や使われ方など様々だが、ビジネス界においての「0」といえば、0→1だ。何もないところから全く新しいビジネスを生み出し、イノベーション起こすことを数字で表している。

日本は、1→100が得意と言われている。つまり、0から何かを創り出すよりも、在るものを改善改良するのがうまいのだ。であれば、0→1を生み出すスタートアップ大国イスラエルと、1→100が得意な日本が組めば上手くいくのではないかとも思った。

しかし、実際イスラエルを訪れてみると、0どころかマイナスからビジネスを立ち上げているような印象を受けた。さらには、「日本はでき上がったルールの上でしか動かない10→100のような国だ」という声も聞き、慎重すぎて決断が遅い日本とイスラエルとは、スピードも感覚も合わないだろうという印象を持った。

これまでの日本は、既存のビジネスモデルを維持し、改良しながら発展していけばよかったかもしれないが、これからは0→1も生み出し、1→100も日本なりに行っていかなければいけないという時期にきている。日本は、”硬直”を溶いて動かなければならない。

世界では、すでに様々な変革が起きてきている。ハードの企業がソフトの企業と提携して新しい在り方を模索したり、アリババが展開する生鮮販売のフーマーでは、最近中国でよく聞くOMO(Online merges with offline、オンラインとオフラインの融合)が実践されている。大企業も、今の時代に合った0→1を生み出そうとしている。

今後、ますます技術の進化スピードが速くなる。それに伴い社会全体の変化も早めていかなければならないだろう。そうした中で、社会的ニーズを掴み、どんどん新しいものを創っていかなければいけない。

クリエイターになり、アドベンチャーでいこう

0→1に関する本は数多くあるが、印象に残っている本が2冊ある。まずは、米国のオンライン決済サービス・ペイパル創業者が書いた「ZERO to ONE」(ピーター・ティール著)。この中には、ハッとさせられる言葉がある。

「新しい何かをつくるより、在るものをコピーする方が簡単だ。おなじみのやり方を繰り返せば見慣れたものが増える、つまり1がnになる。だけど僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる」

「人間は、天から与えられた分厚いカタログの中から何かを選ぶわけではない。むしろ僕たちは新たなテクノロジーを生み出すことで、世界の姿を描き直す。それは幼稚園で学ぶような当たり前のことなのに、過去の成果をコピーするばかりの社会の中ですっかり忘れられている」

そしてもう一つは、日本でビジネスイノベーションに成功した伝説のゲームクリエイター、コーエーテクモ代表の襟川陽一氏の著者。「0から1を創造する力」(シブサワ・コウ著、ペンネームで執筆)には、戦国時代をテーマとした歴史シュミレーションゲーム「信長の野望」を生み出し大ヒットさせた発想術が列挙されている。

破壊的イノベーションを生み出す社会

0→1を生み出すのはクリエイティブクラスで、新しいものや正解のないものをどんどん創り出していくのは、クリエイター的発想だ。これから必要なのは、改良イノベーションではなく、ディスラティブ(破壊的)イノベーションであり、よりクリエイティブにならなくてはいけない。

今と同じ社会がいつまでも続くと思っている人が多いが、歴史を振り返るとそうではない。移動が馬車から車になり、真空管が半導体に置き換わるなど、これまで何度も破壊的なイノベーションは繰り返されてきた。今ある技術は古くなり、新しい技術による新しい社会が生まれていくことは避けられない。しかもそれは、倍速のスピードで訪れる。

クリエイティブな感覚を養うには、子どもの教育も大きく変えていく必要がある。例えば米国では、教えられるエデュケーションではなく、自発的に学んでいくラーニングと組み合わせたスタイルが注目されている。

子どもの頃から失敗を恐れず、破壊的イノベーションにアドベンチャー精神で臨むことのできる、”0→1を生み出す社会”を早急につくっていかなくてはならない。世界中でその競争は始まっている。

「Z」はアルファベットの終わりで、この連載も終了するが、「0」は始まりの意味も持っている。これから新たなことがスタートすると思うと、とてもわくわくする。

この連載を読んでくださった皆さん、さあ、これからがアドベンチャーだ!

The IDEI Dictionary 〜変革のレッスン〜
過去記事はこちら>>

出井 伸之


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