年間約20万人が発症する「脳梗塞」のうち、5%(1万人)が「奇異性脳塞栓症」という種類の脳梗塞とされる。通常の脳梗塞は動脈硬化や不整脈(心原性)が原因で起こる。しかし、奇異性脳塞栓症の場合は、心臓の右心房と左心房の間の壁に小さな穴(卵円孔)が開いていることが原因で起こることが多い。

 卵円孔は胎児期に胎盤から血液を胎児の全身に送る穴で、生後自然と閉じるが約4人に1人は残るとされる。卵円孔があっても9割の人は問題ないが、脳梗塞の原因になり得るのだ。その奇異性脳塞栓症を発症した患者に対して昨年12月、卵円孔を塞いで再発を予防するカテーテル治療が保険適用になった。

 これまで約10人の患者に治療を実施している東邦大学医療センター大橋病院・循環器内科の原英彦准教授が説明する。

 「奇異性脳塞栓症は、脚や骨盤の静脈にできた血栓が脳血管を詰まらせる脳梗塞で、50代以下の若年層にも起こるのが特徴です。通常のエコノミークラス症候群は、脚の静脈の血栓が心臓の右心房から右心室を経由して肺動脈を詰まらせます。一方、奇異性脳塞栓症は右心房に入った血栓が卵円孔から左心房へ入り込んでしまい、大動脈を通って脳血管を詰まらせてしまうのです」

 脳梗塞の再発予防は、抗血栓薬(抗血小板薬や抗凝固薬)を飲み続け、血液をサラサラにするのが一般的だ。検査で卵円孔が原因の脳梗塞と診断された場合には、新たな再発予防の治療の選択肢が増えたわけだ。ただし、対象となるのは原則60歳未満の患者となる。

 実際の治療ではX線透視下で、右太ももの付け根の静脈から直径3ミリほどのカテーテルを挿入していく。カテーテルの先端には折り畳み式器具が付いていて、卵円孔に到達したら器具を開く。形状記憶合金でできた器具は、傘が2枚付いたような構造になっていて、卵円孔の穴をその傘で挟み込むように塞ぐのだ。

 局所麻酔または全身麻酔で行われ、治療時間は1時間ほど。入院期間は前日入院で3泊4日だ。術後1カ月くらいは激しい運動は控え、半年間は血液をサラサラにする抗血小板薬を飲む必要があるという。

 「臨床試験では、カテーテル治療で卵円孔を閉鎖することで、内服薬単独による治療よりも再発予防効果が高いことが示されています。従来は薬を生涯飲み続ける必要がありましたが、薬を止めることができる可能性もあります」

 脳梗塞の再発予防のカテーテル治療は、脳卒中専門医と循環器専門医で構成される「ブレインハートチーム」によって実施されることになっている。それらの基準を満たしている医療機関は、現在、全国約30施設ほどに限られるという。(新井貴)