緊急事態宣言解除から1カ月余。

 日常が戻りつつありますが、コロナ流行前とは、何かが違ってしまいました。経済の先行きも見えず、マスクとソーシャルディスタンスを気にしながらの生活では、なかなか気持ちも晴れません。言ってみれば今、この世の中全体がうつ状態です。

 うつ病は英語でdepressionといいますが、この単語は恐慌、不況、不景気といった経済用語としても使われます。

 こうした鬱々とした不安感を前向きにすることは、お薬ではできません。音楽が人を癒やす…そんなときに届いた訃報でした。

 日本の音楽界に偉大な功績を残された作曲家・編曲家の服部克久さんが6月11日に都内の病院で亡くなられました。享年83。死因は、末期腎不全との発表です。

 腎不全とは、蛋白尿や血尿などが持続した結果、腎機能が著しく低下した状態です。数年から数十年単位で徐々に機能が低下する慢性腎不全と、数日から数週間で急激に低下する急性腎不全の2種類に分けられます。

 急性の場合、適切な治療によって腎機能が回復する可能性がありますが、慢性の場合は腎機能の完全回復はなかなか望めず、進行を緩やかにする食生活の改善や薬物療法が中心になります。

 服部さんは昨年秋より腎不全の治療を続けていたということなので、慢性腎不全が進行した結果と思われます。厚労省の調査によれば、わが国の慢性腎不全の総患者数は約30万人で、その多くは糖尿病が基礎疾患になっています。

 自覚症状としては、起床時や入浴時に感じる脚のむくみ、体重の増加、そして階段を昇るときなど運動時の動悸(どうき)や息切れ、検査では貧血や電解質異常が見られます。さらに進行すると強い倦怠(けんたい)感や食欲不振、吐き気が起きます。

 そして腎機能が10%以下に低下した状態が、末期腎不全です。ここまで進行すると尿毒症の諸症状が出て、電解質異常や不整脈など生命に関わる危険が高まります。食事や薬物療法では限界となり、人工透析ないし腎移植が必要となります。週3回の人工透析を続けることで、就労も可能となり日常生活を10年単位で楽しむことができます。

 6月20日放送の音楽番組『ミュージックフェア』では、服部克久さんの追悼特集が組まれました。沢田研二さんやTHE ALFEEなどのヒット曲が、服部さんのアレンジによりポップスとクラシックの垣根を超えまったく新しい世界観を紡ぎ出していくことに、改めて驚きました。

 新しい生活様式になっても、音楽を止めてはいけない。人は音楽で繋がれる−−それが服部さんの遺言のような気がしています。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。