香港への「国家安全法」導入方針を決めた中国政府が28日から全国人民代表大会(全人代)常務委員会を開き、いよいよ法案を可決、成立させる構えを見せている。

 法案が成立すれば、香港には中国直結の「国家安全維持公署」が新設され、中国共産党の影響力が圧倒的に強まる。「逮捕者は本土に移送される」という噂も飛び交う。香港の「高度な自治」や「1国2制度」は風前のともしびだ。

 中共が法案成立を急ぐのは、香港の議会である立法会選挙の立候補届け出が7月半ばに迫っているからだ。「親中派」は昨年11月の区議会選でボロ負けした。立法会選挙でも敗北すれば、中共の威信は決定的に傷つく。その前に「民主派」を圧殺したいのだ。

 民主派は集会やデモで対抗してきたが、残念ながら、中共を翻意させるほどの力はない。これまで行方不明になった市民は数知れない。本土移送の脅しは、民主派の勢いをそぐのに十分だろう。

 頼みの綱は、国際的な「中国包囲網」である。米国と英国、オーストラリア、カナダの4カ国は共同声明を出して、中国に翻意を求めた。欧州連合(EU)も同様だ。日本を含む主要7カ国(G7)も「重大な懸念」を表明した。

 鍵を握るのは米国だ。

 米国議会・共和党は10日、約150人の下院議員が参加した研究会の報告書を発表し、新たな中国制裁を提言した。

 香港問題については、中共最高幹部である「チャイナ・セブン」の1人で、中央政治局常務委員の韓正氏と、中国・駐香港連絡弁公室主任の駱恵寧氏の2人を名指しして、制裁を求めた。

 さらに、香港マカオ事務弁公室主任の夏宝竜氏や、公安部部長の趙克志らも制裁対象に挙げている。

 個人を制裁対象にするのは一見、遠回りのように見えて、実は大きな効果がある。なぜかと言えば、制裁によって、彼らが海外に蓄えてきた秘密資産が凍結され、米国に入国できなくなれば、本人に強烈な打撃になるからだ。

 多くの共産党幹部たちは「将来の逃亡」に備えて、米国など西側各国に秘密資産を隠し持っている。習近平国家主席も例外ではない。私は昨年、信頼できる筋から、「習氏が大阪のデパートで30億円のダイヤの原石を買った」と聞いた。海外資産が泡と消え、かつ本人も入国できないとなったら、元も子もない。

 制裁は本人だけでなく、家族も含めている。そうなると、留学のような形で、いち早く米国など西側に逃しておいた子弟や愛人の暮らしも危うくなってしまうのだ。

 こうした圧力はすぐ効果が表れなくても、ジワジワと真綿で首を締めるように、習近平体制に打撃を与えるだろう。「オマエのおかげでオレの将来が危うくなる」と習氏への反対派が怒り狂うからだ。すでに「習政権の足元は揺らいでいる」という観測もある。

 米国には「香港ドルと米国ドルの交換停止」という切り札もある。民主派にとって、ここはしばらくの辛抱だ。

 ■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア−本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。