淡々とした筆致だからこそ、残酷さが際立つ

第9回アガサ・クリスティー賞受賞作。著者はすでに「マーチング・ウィズ・ゾンビーズ」で第4回ジャンプホラー小説大賞金賞を受賞している(2018年)。そのデビュー作はポップでせつない青春ゾンビ小説だったが、本作は、同じ作者とは思えないほど作風が異なっている。まるで海外文学の翻訳ものを読んでいるような重厚な戦争ミステリー、人間ドラマだ。

時は1944年、ナチス占領下のフランスの小さな村が舞台。ステファン神父が告解室で、ある女性の不貞の懺悔に耳を傾けていた。その相手の男が、墓守の家で匿っていたレジスタンスの男だと知った神父は驚愕する。なぜならその男は昨夜、何者かに殺されたからだ。住民の混乱を恐れた神父は、その遺体を隠したのだった。

この謎の殺人事件を発端に、村では陰惨な殺人、動物虐殺など、理不尽な事件が次々と起こるようになる。なんとかしようと奔走するステファン神父だが、ことごとく裏目に出てしまう。迫りくるレジスタンス狩りのもと、村人たちは疑心暗鬼に駆られていくのだ。

印象的なのは最初のむごい殺害現場をはじめ、虐殺や自殺など戦時下の「死の光景」が、眉をひそめてしまうほど克明に描かれていることだ。全体的に淡々とした筆致だからこそ、残酷さが際立つ。そこから神父の苦悩と葛藤、揺らぐ信仰心と無力感が浮上してくるのだ。

神父の目を通して描かれるのは、戦争の悲惨さ、人間が持つ残忍さだ。この世の地獄、絶望の果てを目の当たりにした神父の最後の言葉「それ以上でも、それ以下でもない」は深くて重い。現実を受け止め、前を見据えるその先に一条の光が射し込んでくるようだ。

『それ以上でも、それ以下でもない』
著◎折輝真透
早川書房 1700円