古今東西の作家たちを独創的に描いた短篇集

〈作家たちは自分の作品から出たり入ったりする。私もまた同じである〉。そう「跋」に記すフランス文学者にして小説家の鈴木創士は、自作から出た作家たちの肖像を『離人小説集』の中に描く。

晩年の芥川龍之介はいよいよ睡眠薬ヴェロナールに依存し、ますます神経を研ぎ澄まし、〈どこか空中に硝子の皿を垂れた秤(はかり)〉の平衡を留める意志を失いつつあり、内田百閒はそんな朋友の姿をしんと見守っている。

退屈と衆愚を憎んだアルチュール・ランボーは、詩人としての短い人生を〈野蛮な洗練と気難しさ〉をもって駆け抜け、何の未練もなく破壊してしまう。

理想の自画像を託した登場人物エミルになりきった稲垣足穂(いながきたるほ)は、愛してやまない6月の神戸の空の下を夢見がちに歩く。

いくつもの異名を持つポルトガルの詩人フェルナンド・ペソアは、ウルグアイの父親の元に帰る途上でリスボンに立ち寄ったロートレアモン(イジドール・ウジェーヌ・デュカス)によって、目撃される。

身元不詳の作家・原一馬は、鈴木創士に代わって、〈俺〉のアヴァンギャルドでアナーキーな物語を紡ぎ出す。

精神病院に監禁された演劇人にして詩人のアントナン・アルトーは、麻薬の禁断症状に苦しみながら、肉体の檻から出てチベットで啓示的体験をする。

昼間は官職、夜は井戸から地獄に通って閻魔(えんま)の裁きの補佐をしていたと伝えられる、平安時代の公卿にして文人の小野篁(おののたかむら)は、六波羅蜜寺(ろくはらみつじ)の近くに住む波菜ちゃんの家に入り浸る〈僕〉の物語の中で蘇る。

いわゆる「ポルトレ(簡明な人物論)」とも違う、独創的な文人小説になっている全7作。幻視者による優れた仕事だ。

『離人小説集』
著◎鈴木創士
幻戯書房 2900円