どこの会社にもいる「必要悪」への優しいまなざし

ある地方都市で食用油を商う中小企業に、ヘッドハンティングで中途入社した三芳部長(44歳)は、カタカナ用語を好むアイデアマン。身なりはお洒落だが部下にはパワハラ気味で、社内では「チャラ男」とあだ名されている。本作はどの会社にも必ずいるこの種の人物について、周囲の人々が順に語る形式で綴られる長編小説だ。

「チャラ男」は社長付きの総務課の女(24歳)には〈このひとの話すことって、コピペなんだ〉とすぐさま見抜かれるが、消費者サポート部門の女(33歳)とは社内恋愛をしていたこともある。情報システム部の男(41歳)は彼からいじめに近いハラスメントを受けて悩み、自社に引き入れた社長(69歳)でさえ「チャラ男」には〈器じゃない〉〈小物〉との評価を下すが、他方で〈悪い人とは思えない〉との意見もある。なにより「チャラ男」自身、己が〈ほんとうに何もない男〉だということをよく知っているのである。

社内の地位も世代も異なる12人の関係者と、三芳部長本人が語るモノローグを読み進むうち、ああそうか、とわかってくる。日本の中小企業にとって「チャラ男」型の人間は一種の必要悪、いわばトリックスターなのだ。物語の終盤、この中小企業は新規事業に乗り出す。その過程で起きた事件により「チャラ男」は窮地に陥り最後は破滅するのだが、その様子を見守る同僚の目は意外にも優しい。

グローバリゼーションやIT化といった荒波は、この中小企業のある地域社会にも否応なく押し寄せる。そのなかで懸命に生きている人々の抱えた鬱屈やささやかな希望が、それぞれの「チャラ男」をめぐる語りから自然に浮かび上がる仕掛けになっているのが見事である。

『御社のチャラ男』
著◎絲山秋子
講談社 1800円