原作に加わった伸びやかな描写

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの著作のコミカライズ作品。Web連載が始まったときは本当に驚いた。2015年にノーベル文学賞を受賞したアレクシエーヴィチは1948年ウクライナ生まれのジャーナリストであり、『戦争は女の顔をしていない』は彼女が30代のときの第1作だ。第二次世界大戦時ソ連では数多くの女性が従軍し、兵士として前線で戦った。だが、それゆえ戦後は差別的な目で見られることになり、戦争体験を隠して生きなければならなくなった。そういう女性たち500人以上を訪ね、一人一人の思いや記憶に寄り添い、語られる言葉に耳を傾け続けた結実としての著作なのだ。

そんな言葉を、マンガでどうやって表現するのか――。しかし読み始めるとすぐ危惧は消えた。言葉から立ち上がるイメージは、伸びやかで誠実な描写によって奥行きのある絵となり、目の前に広がる情景がエピソードのなかで動き出す。そこには、洗濯部隊に配属されたワレンチーナや狙撃兵のマリヤや戦闘機の飛行士だったアントニーナたちが確かに存在していて、生々しい情感に引き込まれていく。監修の速水螺旋人によれば、原作のインタビューではわからない軍隊の制服や階級章なども調べたうえで正確に描かれているとか。

強く美しい女たち、などという陳腐な讃美はいらない。愚かさも残酷さも持った彼女たちはその時代の戦場をただ必死に生きた。私たちができるのはそれをなかったことにしない、黙ったままで終わらせないことだと思う。Web連載で反響を呼んだ後、単行本として1月に出版されて10万部(紙+電子)を突破。岩波現代文庫の原作も重版された。

『戦争は女の顔をしていない』
作画◎小梅けいと 
原作◎スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
監修◎速水螺旋人/KADOKAWA 1000円