NHK連続テレビ小説『エール』で、窪田正孝さんが演じる主人公・古山裕一のモデルは、「栄冠は君に輝く」「六甲おろし」などを手掛けた名作曲家・古関裕而だ。ドラマでは、二階堂ふみ演じる「音」との結婚が話題になっている。史実でも、愛妻家として知られる古関。のちに妻になる・金子(きんこ)と何度も手紙を交わして、愛をはぐくんでいた。『エール』の風俗考証をつとめ、遺族にも取材している刑部芳則さん(日本大学准教授)によると、古関が作曲した「竹取物語」が縁になったという。 ※本稿は、評伝『古関裕而 流行作曲家と激動の昭和』(刑部芳則・著/中公新書)の一部を、再編集したものです

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イギリスの国際コンクールに入選

「竹取物語」は、ストラヴィンスキーの「火の鳥」からヒントを得て、古関裕而が商業学校の5年生のときに書きはじめたものである。

「竹取物語」は、(1)生い立ち、(2)つまどい、(3)仏の御石の鉢、(4)蓬莱(ほうらい)の玉の枝、(5)火鼠(ひねずみ)の裘(かわぎぬ)、(6)龍の首の珠(たま)、(7)つばくらめの子安貝、(8)天の羽衣、と8つの舞曲から構成されていた。

古関はロンドンの「チェスター楽譜出版社」で発行している音楽雑誌『チェスターリアン』を、昭和3年(1928年)1月から購読していたところ、管弦楽作品の懸賞募集の記事を目にし、翌4年に舞踊組曲「竹取物語」を含む5曲(他の4曲は具体的に不明)を応募している。


『古関裕而 流行作曲家と激動の昭和』(刑部芳則・著/中公新書)※電子版もあり

昭和4年12月8日付で古関〔編集部注:当時20歳〕が恩師丹治嘉市に宛てた書翰(しょかん)では、この「竹取物語」を含む五曲が「作曲家協会」の二等に入賞し、翌5年7月に「竹取物語」が「英国コロムビア」からレコード化される予定であることを伝えている。指揮はグーセンス、演奏はロンドン・フィル・ハルモニック・ソサイティである。

この情報がどこから漏れたかははっきりしないが、昭和5年1月23日付の『福島民報』で「市内一青年の作曲が認められて世界の舞台へ」、『福島民友』で「世界的に認められた!、一無名青年の曲、一流音楽家に互して二等当選、福島市の古関裕而君」と大々的に報じられたのをはじめ、『東京日日新聞』などでも取り上げられた。

新聞記事によれば、入賞の賞金は4000円で、シベリア経由でイギリスに渡り、「竹取物語」のレコード化では自ら指揮をし、その後は古関が憧れるフランス在のストラヴィンスキーに弟子入りする予定だという。

「かぐや姫」内山金子からの手紙

古関がイギリス国際作曲コンクールで二等を獲得したという記事は、愛知県豊橋市に住む17歳の内山金子の目にとまった。明治四五年に内山安蔵とみつの三女として生まれた金子には、長兄勝英と、長女富子、次女清子、四女松子、五女貞子、六女寿枝子(すえこ)の五人の姉妹がいた。

父安蔵は陸軍獣医として明治27年の日清戦争と、同37年の日露戦争に出征し、その後は愛知県豊橋市で陸軍の師団や連隊に馬具などを納入する商店を営んでいた。金子は愛知県立豊橋高等女学校(現在の愛知県立豊橋東高等学校)を卒業し、声楽家になることを夢見ていた。