韓国の財閥令嬢がパラグライダー事故で北朝鮮に落下、エリート軍人と恋に落ちる……。韓流ドラマ『愛の不時着』が話題だ。発売中の『婦人公論』7月14日号で、主人公たちと同世代の古市憲寿さんと、『冬ソナ』ブームで韓流にハマった中瀬ゆかりさんが、ドラマの魅力について語り合った(構成=上田恵子)

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すべてを兼ね備えた最強のヒーロー

中瀬 『愛の不時着』を観始めたのは、新型コロナウイルスによる自粛生活がきっかけ。毎晩あった会食もなくなり、4月の中旬にはテレビにも飽きてきて、何かドラマでも観ようとネットフリックス(定額制動画配信サービス)をつけたら、毎回ランキングの上位に紹介されているから気になって。

※「愛の不時着」の名場面スライドショーはこちら

古市 僕は、早くから観ていた友達に面白いよと言われ、3月に視聴を始めました。もともとまわりに中国、韓国ドラマを観ている人が多かったんですが、明らかに日本のドラマよりも脚本のレベルが高いんですよ。『星から来たあなた』とか『太陽の末裔』とか。

中瀬 私は2003〜04年の『冬のソナタ』ブームにハマって片っ端から韓流ドラマを観たものの、その後しばらく遠ざかっていたのね。今回も「今さらこの年で恋愛ものでもないしなあ」と思っていたんだけど、昔の大映ドラマ並みにベタなタイトルに惹かれちゃった。


古市憲寿さん(社会学者・作家)

古市 ドラマの設定もいいですよね。ヒョンビン演じるリ・ジョンヒョクは、北朝鮮の名家の息子で人民軍の中隊長。ソン・イェジン演じるユン・セリは、韓国の財閥令嬢で自身も会社を経営する実業家。金と権力を持つ2人が、38度線という軍事境界線で分断されている。韓国の恋愛ドラマには身分の差をはじめとした障壁がつきものだけど、北と南、これ以上の困難があろうかという設定がまず強い。

中瀬 セリが事故で北朝鮮に不時着したことで2人は出会い、ジョンヒョクは成り行きでセリを自宅にかくまう。そこで彼が見せる献身が素晴らしいの。彼女のために粉からこねて麺料理を作り、香り付きのキャンドルがほしいと言われれば市場で探して買ってくる。

古市 物資がないなかで豆を自ら焙煎してコーヒーを淹れてあげたり、自身の立場を最大限に活用してセリを守ったり。ラブストーリーでお金がない男を描くって難しいんです。いくらそばにいてくれても、どうしてもお金持ちのほうが格好良く見えてしまう。中瀬さんもお金持ち、好きでしょ。

中瀬 ま、まあそうだね……古市ほどじゃないけど。(笑)

古市 ジョンヒョクは北朝鮮の中では裕福だし、コネと権力ですべてをなぎ倒していく豪胆さも併せ持っている。ちょっと抜けてるところもあるものの、貧乏男の素朴さと金持ち男の強さが合体した、最強のヒーローと言えるのでは。


中瀬ゆかりさん(新潮社出版部部長・コメンテーター)

中瀬 彼はクールに見えているけど優しいし、控え目だけど実はユーモアもある。しかも腕っぷしが強い軍人なのにピアノまで弾けるという、盛り過ぎなくらい完璧な男。反対にセリは仕事しかできないけど、自立した勇敢な女性に描かれている。そういう意味ではヒロインの美徳とされる純朴さ、かわいさみたいなものもジョンヒョクが背負っていると言えるのかも。