タイ映画界の新世代の旗手が描く断捨離ストーリー

今年は春先からのコロナ禍で、巣ごもり中に片付けをした人が多いそうだ。使わなくなった物は捨てる。わかってはいても、それができないから断捨離は心身ともに消耗する。タイの俊英ナワポン・タムロンラタナリット監督の『ハッピー・オールド・イヤー』では、年の瀬を迎えて断捨離を敢行するヒロインの迷いと決断が共感を誘う。

ジーンは若手デザイナー。スウェーデン留学から帰国し、学んできた北欧風のミニマルなライフスタイルを実践したいと、バンコクの自宅をデザイン事務所に改装することを思い立つ。しかし、母と兄と3 人で暮らす家には物が溢れている。家を出て行った父を忘れられない母は、父が残した物を捨てられないのだ。親友にリフォームを依頼すると、家族をきちんと説得し、年内には家を整理するようにと念を押される。時は11月25日。ジーンは兄を味方につけて行動を起こす。

洋服、レコード、CD、アルバムなど手当たり次第にゴミ袋に詰め込み、何を捨てたのかは深く考えない。だが、その中には、友人からのプレゼントや、借りたまま返していない物まであった。迷わない、思い出に浸らない、感情に流されないと言いつつも、現実には返却行脚の日々となる。さすがに元カレのカメラは手渡しできず郵送返却すると、受取拒否で戻ってくる。これには動揺するのだった。

ジーンを演じるチュティモン・ジョンジャルーンスックジンは『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年)で映画初出演にして主役に抜擢され、カンニング・ビジネスに加担する天才高校生役で鮮烈な印象を残した。本作ではトレードマークの長い髪をバッサリ切り、凜とした長身がクールだ。リフォームに反対する母を押し切る強引な若さ。過去の自分と向き合って傷つき、落ち込む繊細さ。揺れる心の機微を等身大で演じるだけでなく、自虐的な笑いを誘うコメディエンヌぶりも発揮して、イメージを一新した。

彼女を取り巻く人たちにも興味をそそられる。感情を表に出さず、本心がつかめないハンサムな元カレ。美人なのにどこか儚げな元カレの現在の彼女。頼りなさそうに見えても、肝心なところで妹の気持ちを受け入れて支える鷹揚な兄。自分の都合を優先させてきた身勝手なジーンは、そんな周りの人たちの気持ちにふれて、時に戸惑い、時に癒やされる。人の心は仕分けられないと現実のホロ苦さを嚙みしめ、前に進もうとする彼女の横顔はちょっと哀しげだが晴れやか。

断捨離はただ物を捨てるだけにとどまらない。他人には見えていたのに自覚していなかった“自分”が見えてきたり、都合よく記憶していた思い出に気づいたりする。何を捨て、何を残すか。物を通して見えてくるのは社会や人との関係なのだ。

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ハッピー・オールド・イヤー

監督・脚本・プロデューサー/ナワポン・タムロンラタナリット
出演/チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン、
サリカー・サートシンスパー、ティラワット・ゴーサワンほか
上映時間/1時間53分 タイ映画
■12月11日よりシネマカリテほかにて全国順次公開

※公開予定は変更・延期・中止の可能性があります。最新の情報は、上映館にご確認ください