山崎夏生さんの“審判小噺” 落合氏はボールと思ったことをストライクと判定されると…

 1982年からパ・リーグの審判員を務めた山崎夏生さんは、2018年に審判技術指導員を退職した後、審判の権威向上を目指して講演や執筆活動を行っている。これまでも多くのパ・リーグのスターたちを近い距離で見てきた。西武・清原和博、近鉄・野茂英雄、ロッテ・落合博満……今回は思い出の打者と最近のプロ野球について、語ってもらった。

――パの打者で印象に残っている選手はどなたですか?

「僕が見てきた中で、傑出した打者といえば右の(ロッテ)落合博満選手、左の(オリックス)イチロー選手ですね。共通しているのは、バットコントロールが素晴らしい。手とバットが“繋がっている”ような感じがします。例えば、140キロのボールって、多少、野球をかじった人間だったら、グローブで獲ることはできるでしょう。けれど(2人は)140キロのボールを捕球するような感じで手と繋がっているバットでとらえているような感じがしましたね」

――近いところから見ていて、打席に入る時の雰囲気はどのように感じましたか?

「見た目通りですね、ちょっと、そっけない感じです。軽く会釈する程度で、知らーん顔している。イチロー選手もそうですね、打席入ってきた時の集中力はすごい。審判のことなんか何も見てないって感じで」

――では、審判の判定にモノを言うこともなかった?

「落合選手も、イチロー選手も、一切なかったですね。落合選手は選球眼もよかったですね。王(貞治)さんが日本一の四球のタイトルを、持っていますけれど、2位が落合さんなんです。王さんはホームランを恐れて敬遠(四球)も多かったと思いますが、落合さんのは選びとった四球が、かなり多いと思いますね」

――選球眼がよかった2人、見逃し三振の数は?

「2人とも少なかったと思いますよ。ファウルを打つのも、2人ともうまいですが、落合さんは打てない球をファウルにして、それで甘い球が来るのを待つ。追い込まれてからも強かったですね。普通2ストライクまで追い込まれると、どんないいバッターでも打率が1割、2割下がってしまうんですよ。けれど、落合さんは2ストライク後が高い。よっぽどのバットコントロールとファールにする技術を持っている。追い込まれても怖くなかったんでしょうね」

――見逃すボールも、審判の基準とほぼ変わらないですか?

「僕も判定で『あっ、しまった』と思ったことがありました。インコースの外れた球をストライクと言ってしまった。そしたら(落合は)こっちをちらっと見て、『おい、外れてただろ』と。もちろん、その後は暴言などもなくスッと帰っていきましたけどもね。やっぱりわかっているなと思いました。昔、よく言われたんですよONボールと……」

――王(O)ボールと長嶋(N)ボールですか?

「王さんも長嶋さんも、選球眼が良かったんですよ。きっちりと見切っている。だけど、周りが見ると同じように見えるから『王さんだから忖度したんじゃないか』と穿った見方をされるんですが、そんなことはないんですよ。王さんも長嶋さんも審判と同じように磨いているんですよ、選球眼を。何万球、何十万球と打ってきている人ですからね。自分の中にちゃんとしたものが出来ていると思いますね」

今は一ファンとして見ている野球は「悪いけど(試合が)かったるいんですよ」

――選手を退場させたことで記憶に残っていることは?

「日本ハムの広瀬哲朗くんとかね。彼がとんでもない勘違いをしたんじゃないかな。楽々、サードベースの上を通過した打球だったんだけど、『ファウルだ、ファウルだ』と騒いで、いきなり僕の胸を突いたことがあった。その時は即、問答無用の退場でしたけどね。なんであんな文句言われたかと思った。次に打球落ちたところがファウルゾーンだったから、もう問答無用だったです。遺恨が残るようなことはないですね。彼が謝るようなことはしないですね、こっちから言いもしませんしね。一試合、終わればご破算ですから」

――ほかに退場宣告をした選手で印象に残っていることは?

「現役最後に退場させたのは楽天の山崎武司くん。初球がインコース膝もといっぱいのストライクだったんですよ。でも、不満そうでした。2球目は空振り、3球目も空振りで3球三振。でもそしたら1ボール2ストライクだって言ってね。1球目はボールだといって。そしてベースに砂かけていったんですよ。けれどベースは審判にとっての聖域ですからね。そこを汚されたと思ったから問答無用で、即退場です。その後は(翌日)移動で仙台に行く予定だったんですよ。それで朝の新幹線の席がすぐ近くで。ちょっと気まずかったですね。それでスポーツ新聞読んだら『山崎が山崎を退場』とか書いてあって、なんじゃこりゃって(笑)。同じようなスポーツ新聞読んでいたと思います」

―今のプロ野球に感じることは?

「すごく選手同士仲がいいんですよ。だけど、あの頃はやっぱり、西武対近鉄だとか、乱闘なんかしょっちゅうあったし、お互いにピリピリ感があった。真剣勝負の「承知せんぞ!」見たいな。例えばこっち(顔の近くに)来ていたりなんかしたら。いい意味でも戦場のようなものを感じていました。清原選手は、喜怒哀楽が表に出るタイプだったですね。ホームランなんか打てばドヤ顔して、野茂くんは打たれても三振取っても、本当、変わらん表情だったですね。嬉しくないのかなぁ、悔しくないのかなぁというのが読み取れないピッチャーだった。淡々としていました」

――物足りなさなどは感じますか?

「一昨年に退任して、仕事としてプロ野球を見ることはなく、一ファンとして見ていると、悪いけど(試合が)かったるいんですよ。試合時間が長くて、長くて。なかなか、最終回まで見ることなく、大体7回、8回で帰ってしまう。野球は好きだから、昨季も30試合くらいは見に行ったかな。一方で、アマチュアの試合をよく見るようになったんですよ。高校野球、大学野球、社会人野球。そしたら彼らの野球はスピーディーなんですよ。どうしても彼ら(プロ)の野球はダラダラ感があって。サイン交換は、やたら長いし、打席よく外すし、ピッチャーの間合いも長い、攻守交替もなんか長い。そんな理由で、ちょっと見るのはしんどいです」

――どのように改善していければいいですか? 私案があれば、教えてください

「もう30分は早めてほしいですね。僕が入ったころは3時間超えるってあまりなかったんですよ。2軍戦だったら2時間半以内に収まるのは当たり前だったし、僕は入った当初は3時間超えたら新しいイニングに入らないというルールもあった。延長戦規定で。みんな2時間で収まっていたのが、1980年の終わり頃から超えるようになって、そこからどんどんどんどん長くなって。今は各球場のロッカーにはスピードアップのための励行事項というのが貼ってあります。まぁ悪いけど、本気で取り組んでいるというようには感じないです」

 今、日米問わず、野球界も改善点と向き合っている。ただ、山崎さんの言葉はプロ野球を愛し、ファンを大事にしているからこそのこと。魅力あるプロ野球になることを期待したい。(Full-Count編集部)