2018年まで巨人で6年間プレー、24歳で現役を引退した辻東倫さん

 本拠地・東京ドームからすぐ近くの少年野球グラウンドで、辻東倫さんはジャイアンツアカデミーで子供たちに野球を教えている。先輩の高橋由伸氏に憧れ、同じ左打ちで積極打法から、“由伸2世”と評価され、巨人の主軸になることを期待された男。一昨年に24歳の若さで現役を引退し、新たな人生を進む姿に迫った。

 突然の宣告に、言葉を失った。2018年シーズン、夏に右太もも肉離れしたとはいえ、最終的には広島とのクライマックスシリーズ1stステージにメンバー入りし、代打で安打を放っていた。

「CSに出させてもらって、安打も打てたので、来年へ弾みとなるシーズンだったかなと自分の中で思っていました」

 しかし、予期せぬ戦力外通告を受けた。“まだできる”とNPBトライアウトに参加したが、NPB球団から声はかからかなかった。

「お誘いがあれば、もう一回、もう一年だけでもと思っていたんですが……ジャイアンツから職員の仕事のお話をいただき、6年間、育ててもらったところ恩返しをしたいと。お世話になろうと思いました」

 三重・菰野高校時代は高校通算36本塁打を記録する左の大砲だった。軸足でしっかりと立ち、右足を高く上げるフォーム。憧れだった前巨人監督の高橋由伸氏に自主トレを志願し、様々なことを教えてもらった。“由伸2世”とも言われ、将来を期待された。

「(高橋氏に)現役を引退することは電話で報告しました。監督も退任された年だったので、『お互い、新たな道だな。これまで裏方さんにサポートしてもらっていたんだから、今度は自分たちがサポートしてあげよう』という言葉をいただきました」

 打撃の技術的なアドバイスや打席の中での考え方など、多くのことを学んだ。ティー打撃ひとつとっても様々なやり方、考え方があると学んだ。今は、小学生以下に野球の楽しさを伝えるジャイアンツアカデミーのコーチとして、野球と触れ合っている。学び、楽しさ、そして喜びを伝え、感じることに年齢は関係ない。

ジャイアンツアカデミーのコーチとして現在は子供たちに野球の楽しさを伝える

「アカデミーで心がけているのは、自分勝手に話をせずに、相手の目線に立って話をすることです。野球の技術を言葉にするのは最初は難しかったです。今はすごく楽しい。積極的に聞いてきてくれたり、言ったことが伝わると楽しいです」

 これまで感覚でやっていた野球を、言葉に表現して、相手に伝えることは容易ではない。でもプロという高いレベルにいたからこそ、伝えられることもある。

「子供の質問にはさすがに全て答えられます! バットの使い方の質問をされても、こうやって体を使うんだよ、と違う視点からアプローチをしてあげたりすると答えが導き出せたます。そういうことを心がけていますね」

 引退して2年が経った。ふと視線を上げると東京ドームの屋根が見えた。
 
「ジャイアンツのユニフォームを着て、4、5万人の前でプレーさせてもらっていたんですよね。すごいことをしていたんだなと思います。自分は活躍できませんでした。当たり前ですが、もう現役選手に戻れない。どんな形であれ、チームや選手のサポートをして、自分のような悔しい思いを持ってユニホームを脱ぐ選手が少なくなってもらえればいいなと思います」

 プロだった時代がすべてではない。辻さんの進む道はまだずっと長く続いていく。誇りを胸に、今日も子供たちの笑顔に会いに行く。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)