ナレーションなしの挑戦〜ノーナレ「ミアタリ」

ギャラクシー賞月間賞:ノーナレ「ミアタリ」

6月23日放送
22:50〜23:15
日本放送協会

「手が独り歩きしておしゃべりをしだすと厄介なのです」。近年亡くなられた彫刻家の佐藤忠良氏は常々、彫刻制作の折の表現の難しさを語っていた。番組制作におけるナレーションもまた、そのおしゃべり加減が取り扱いにくい部分ではないだろうか。名番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」がおしゃべりすぎとは言えないが、ともするとナレーションが美談へと導いていく効果(?)は持ち合わせているようだ。その点、今回の「ノーナレ」の試みはテーマと合致した抑制の効いた作りとなっていた。

 大阪府警の指名手配犯専門の刑事集団。膨大な数の顔を覚え街中を歩いて捜すという「ミアタリ」というアナログな手法で、これまでに4000人を検挙してきた。この驚くべき数字は不断の努力に裏付けられたもので、画面からは夢に見るほどに被疑者のことに考えを巡らせ、自らの足で追い続ける執念と人間臭さが立ち現れる。取材の中心人物はこれまでに300人以上を検挙してきたという通称「ミアタリの神」森本警部。退職を控えながらもなお邁進する彼は、写真と会話するという独自の手法で、変装や整形を見抜く眼を日々磨いてきた。「自分の中によびこんでまう」という会話風景はさながら儀式のようでもあり、ドラマの1シーンでもあるかのようだ。AIの専門家は「疑似画像を脳内に膨大に作っている」と推測するが、「裏付けできる方程式などない」というのが本人の弁。そこに論理は存在しない。張り込みでは時には焦りがすれ違う人の顔を被疑者に似せてしまったり、他の班の手柄に悔しさを滲ませたりと、人間の弱さをも語ってくれるのは大阪人ならではのものか。

 今年5月、監視カメラ大国イギリスでは自動顔認識技術による初の逮捕者が現れた。さて、日本はどうだろうか。彼らの凄まじい執念は、そう簡単に取って代わられることを是としないはずだ。この番組はつぶやきまでも逃さない密着取材とテンポの良い編集により、ノーナレーションとしての挑戦が見事に開花した力作であったといえよう。 (鈴木誠一郎)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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