【海外メディア最新事情 Vol.104】Vienna ナチスとの併合80周年「過去」の教訓とメディアの役割

文=ジャーナリスト
稲木せつ子

村上春樹とナチス

 一時帰国の楽しみは、オーストリアではお金をかけないとできない「日本の日常」を楽しむことだ。欧州の高級料理「ラーメン」をお手軽に堪能し、読みたかった和書を手にとって読むと幸せな気持ちになる。今回の優先リストには村上春樹の新作読破もあった。読み進んで驚いたのは、『騎士団長殺し』に80年前のオーストリアが登場することだった。

 1938年3月に、オーストリアがナチスドイツに併合されたのだが、その頃の事件が小説の展開にかかわっている。村上氏は、国民の大多数が支持した併合について、半ば強制的に賛成させられたと、今のオーストリアに寛容なのだが、ちゃんと同国にもナチス信奉者は数多くいたし、ユダヤ差別はその前からあった。併合がきっかけで過激化したのは事実で、その意味でオーストリア人は「加害者」でもある。今年はその併合から80周年となる。

 ウィーン市の中心には、ホロコースト記念碑があるが、もっと身近なところでも、過去に触れることができる。この国では簡単には「忌まわしい過去」を封印できない。

 例えば9年前に完成した地下鉄駅の通路には、オーストリアの地名とナチスの強制収容所があった場所とを線で結んだメモリアルアート(次ページ写真)がある。ユダヤ人が多く住んでいた2区を散歩すると、実にさりげなく、建物の壁面に「ここに(人名)が住んでいたが、XX年に追放され、ホロコーストで殺害された」といった記念板(同写真左下)に出合う。集中しているエリアには「記念の小道」として、追放された人々の旧居を周るルートまである。気をつけて道を歩けば、街そのものが記念館なのだ。

 「戦争の教訓を忘れない」ためだろうが、調べてみると、2区に限らずウィーン市内や他の都市にも同様の記念板があるようだ。地震がないオーストリアの建物は何百年も壊れないので、こうした記念板は末長くオーストリアの人々の暮らしの場で、反戦や反ナチスを訴え続けてくれるのだろう。


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