新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界のプロゴルフツアーは中断を余儀なくされている。トーナメントが恋しいのはファンや選手だけではなく、試合を陰で支える人々も気持ちは同じ。ゴルフ競技には試合のスムーズな進行を司る「競技委員」という仕事がある。他スポーツの審判にも相当しそうだが、性質は少し違う。20年にわたって日本ゴルフツアー機構(JGTO)の競技委員を務める加納美智雄氏もシーズン再開を心から待つひとりだ。

■年間100近い競技を担当

実際の会場で、あるいはテレビでゴルフ観戦する際に目にしたことがあるかもしれない。選手が打球をペナルティーエリアに入れたりした直後、次のショットをどこから打つか迷っていると、どこからともなく現れ、相談を受けるスタッフ。ボールの処置や罰打の付加などのサポートをする彼ら、彼女たちこそがゴルフルールに精通した競技委員である。

男子レギュラーツアーは4月の「東建ホームメイトカップ」から実施されていない。再開は早くて7月だ。レギュラーツアーは年間25試合だが、下部AbemaTVツアー、各大会の予選等も含めると委員が担当する競技は100近い。そのすべてが中断中だが、10人の委員は試合に向けた準備を進めている。

JGTOでは例年、国内の試合が始まる春先までに「ハードカード」というルーリングの追加の手引書を作成する。ゴルフ規則に基づき、日本ツアーのコース環境をふまえたローカルルールと競技の条件を示したもので、4月の国内開幕に向けた製本は間近だった。ルール改正が行われた2019年は、施行後に解釈が変更されるなど序盤戦は世界的に混乱を招いた。委員は都度、海外ツアーの情報をキャッチしながら検証作業を実施するが、3月19日に行う予定だった全体会議は中止。現在まで個々がパソコンを用いたテレワークが続いている。

■競技委員のおしごと

昨年末、JGTOの競技委員は4人増えて10人になった。日本ゴルフ協会(JGA)の規則委員会アドバイサリーでもある加納氏は新しい戦力の指導役を務めるが、現場研修をできないのが悩みのタネ。「ゴルフ場に集合できないので難しい」と話す。

ところで、競技委員の各大会における仕事とはどんなものだろう。レギュラーツアーでは通常、毎試合を5人が担当する(米国や欧州では10人前後のケースが多い)。ローテーションで責任者になる競技委員長は試合の前週土曜に会場入りし、ゴルフ場の一般営業の合間を縫ってコースをチェック。翌月曜日までに修理地になるエリアなどを洗い出す。「プロの試合にふさわしいセッティング、ロケーションを広く取れるように、OB杭の位置を(一般営業時から)変更することもあります。テレビ放送での見栄えも考えなくてはいけません」

開幕2日前の火曜日には別の担当が、ツアープロのアドバイザーとともに、毎ラウンドのティとピン位置の計画を練る。水曜日に残りの3人が加わり、初日以降は早朝に業務を開始。晴天時で第1組スタートの1時間半前には会場入りし、18ホールをチェック。悪天候時はその限りではない。ティオフ後は選手のルールトラブルに関する無線情報を5人全員で待機する。昨年は大小およそ100の競技で、1381件のルーリング(競技委員が立ち合って処理するケース)があった。そのうち約900がレギュラーツアーで、4割はテレビ放送施設(臨時の動かせない障害物)にまつわるものだった。

試合日以外にも、競技委員長は大会の3カ月前、1カ月前にコースの下見に出向く。毎週の遠征のなかで、次の会場への移動日を利用して会場に立ち寄ることもある。「先方のゴルフ場の都合もあるので、スケジューリングが大変です」という毎日だ。

■優秀な男子ツアーのプレーペース

近年はスロープレー撲滅に向けた動きが各国で盛ん。日本男子ツアーの全体的なプレーペースは世界に胸を張れるものだ。「あまり実感はないんです。確かにほとんどの試合は予定した時間通りに行われるのですが…」と加納氏は言うが、海外ツアーや日本の女子ツアーからも進行について相談されることも少なくない。

そうはいっても、委員は試合中“憎まれ役”になることが多い。「我々は好まれる職業、商売ではないんです」。ときに選手に罰打やルール順守を進言する必要もある。憤慨するプロがいるのも想像できる。「私たちもペナルティーを取りたくて取るわけではありません。1人の罰を見逃せば、公平性を保てない。でも選手たちは人生をかけて必死ですから、みんな熱くなるのは仕方がない。新しく加わった委員には『試合では机の上の話のようにスムースにはいかない』と話しています。今はそういうことも見直すいい機会かなと思って意思疎通を図っています」。ルールの番人たちの仕事も、やはり試合があってこそだ。(編集部・桂川洋一)