第6回(最終回) 実際にゲームをプレイしてみよう<4>忘れてはいけない「補給」、そして勝敗の判定方法とは?

 

さて、雑誌「歴史群像」(ワン・パブリッシング刊)最新号の付録ゲーム「ノルマンディーの戦い」を題材とした、歴史ボードゲームの解説も、いよいよ最終回です。

 

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軍事作戦を支える補給(兵站)

前回までに説明したのは、戦闘部隊を表すユニットの移動や戦闘、戦線の張り方などでしたが、実際の軍事行動においては、それらの行動は「補給」という後方部隊の地味な作業によって支えられています。

 

軍事組織の補給は「兵站(ロジスティクス)」という言葉で呼ばれることもありますが、前線の戦闘部隊がいくら強力でも、軍の司令官が補給または兵站を軽視していれば、弾薬や食糧、燃料の不足により、前線部隊の戦闘力が低下して、作戦が失敗に終わる可能性が高まります。ナポレオンのロシア遠征や、ヒトラーのソ連侵攻が失敗に終わったのも、兵站の軽視が大きな原因の一つでした。

 

ボードゲーム「ノルマンディーの戦い」では、自軍の「補給源」から前線の各ユニットまで、敵ユニットやその「支配地域(ZOC=ゾック)に邪魔されない形で「補給線」と呼ばれるヘクス列を設定できれば、補給を受けていると見なされます。

 

前回の「戦闘」の解説では、話が複雑になるので触れませんでしたが、この判定は、戦闘を解決する瞬間(攻撃・防御を問わず)には必ず行わなければなりません。また、ターンの手順の最後、フェイズ6の「両軍補給フェイズ」では、すべてのユニットに対してこの判定を行います。

 

《ターンを構成する手順》

1.連合軍上陸フェイズ

2.連合軍移動フェイズ

3.連合軍戦闘フェイズ

4.ドイツ軍移動フェイズ

5.ドイツ軍戦闘フェイズ

6.両軍補給フェイズ

 

フェイズ2、4の「戦闘フェイズ」において何らかの戦闘に参加するユニット(攻撃側・防御側とも)は、戦闘解決の瞬間に補給線を設定できない場合、コマに印刷されている戦闘力の数値が半分になります(端数切り上げ)。十分な銃弾や砲弾の補給がなければ、部隊の戦闘力は半減してしまうということをルール化しているわけです。

 

また、両軍補給フェイズに補給線を設定できないユニットがマップ上に1つあるごとに、それが所属する軍の損害値が1ずつ増加します。これは、マップ上のそれぞれのプレイヤーの手元に近い側にある「損害記録トラック」のマーカーを動かして反映させます。

 

「ノルマンディーの戦い」の場合、補給線の長さの上限は、両軍とも8ヘクスで、連合軍は「上陸海岸ヘクス」、ドイツ軍は陸地の地図端が、自軍の補給源となります。敵ユニットのいるヘクスや、味方ユニットが存在しない敵ゾックのヘクスには、自軍の補給線を通すことができません。

 

この図では、ドイツ軍ユニットの補給線が設定できるかどうかを説明する。ドイツ軍の補給源は、グレーに塗られた地図端(図では画面下。マップ全体では、マップ左端にも同様のドイツ軍補給源エリアが設定されている)。みどり色のヘクスは、連合軍の支配地域(ZOC=ゾック。但し、この図では、説明をわかりやすくするために、ゾックの起点となるユニットがいるヘクスにも色をつけてあります)です。「移動」の場合とは異なり、補給線を引けるかどうかの判定では、自軍ユニットが存在するヘクスは敵のゾックを打ち消せます。なので、へクス番号1413の第352歩兵師団と1913の第21装甲師団、2113の装甲教導(Leh)師団は、補給線を設定できる(つまり、図の下方にあるグレーの補給源エリアとそれぞれのユニットは敵のゾックにさえぎられることなく、8へクス以内に収まる形でつながっている)。しかしへクス番号1712の第716歩兵師団は、周囲のヘクスすべてを敵ゾックに囲まれてしまっているため、補給線を設定できない。もし戦闘解決時(攻撃・防御とも)にこの状況になれば、第716歩兵師団は戦闘力が半分の1になる(補給線が引けない場合、そのユニットの戦闘力は本来の数値の半分になるが、小数点以下の端数は切り捨てとなり、3÷2=1.5で、0.5を切り捨てるため)。もし各ターンの第6フェイズの「両軍補給判定フェイズ」でこの状況になれば、ドイツ軍の損害が1ポイント増加する

 

 

頼もしい助っ人、増援部隊の登場のさせ方

また、ドイツ軍はゲーム途中の定められたターンに、定められた場所から、増援ユニットを登場させることができます。これらのユニットは、ノルマンディー上陸作戦の開始時には、マップエリアの外の「ドイツ軍増援ユニット」に置いていたドイツ軍部隊で、史実においても、連合軍の侵攻を阻止するために、前線へ向かうよう命じられました。

 

ドイツ軍の反撃は、これらの増援部隊が中心となって行われるので、どこの地図端から登場させるかは、後の展開に大きな影響を及ぼします。戦車を装備する装甲師団ユニットは、歩兵師団に比べると移動力が大きい(歩兵3に対して装甲は5)ですが、敵ゾックからの離脱には追加で1移動力が必要となることもあり、いったん前線に投じられたら、そう簡単に他の地区に転進することはできなくなります。

 

↑ドイツ軍の増援ユニット。マップ上には、グレーに塗られた二つの補給源エリア(NW=北西とSE=南東)があり、ドイツ軍プレーヤーは各増援ユニットを、指定されたターンに、指定された補給源エリアに隣接するへクスのうち、任意のヘクスに配置する。ただし、他のユニット(敵・味方問わず)がいるへクスや敵ゾックのヘクスには登場させられない。SEから登場する増援ユニットは、登場場所の自由度は高いが、いったんマップ上に投入すると、移動力の関係で大きな配置転換はできなくなる(特に3移動力しかない歩兵)ので、数ターン先を見越して慎重に場所を選ばなくてはならない

 

連合軍の増援も、ゲームの途中にいくつか登場しますが、こちらは第3回で説明した通り、当該ユニット(部隊コマ)の右上に記載されたターンの「連合軍上陸フェイズ」でイギリス本土から出撃し、次のターンに上陸海岸ヘクスへと上陸することで登場させます。

 

ゲームの勝敗はどうやって判定するか

「ノルマンディーの戦い」は全7ターンのゲームで、史実の6月12日を表す第7ターンの終了と共に、勝敗を判定します。

 

このゲームの勝敗は、連合軍プレイヤーが獲得した「勝利得点(VP)」が何点だったかで決まります。連合軍プレイヤーが勝利得点を得る方法はいくつかありますが、基本的な獲得方法は、マップ上に計10か所ある「勝利得点ヘクス」を占領し、そこにある「VPマーカー」を奪い取ることです。

 

【終了時のマップの状況(例)】あるプレイで第7ターンが終了した時のマップ上の状況。連合軍は、勝利得点(VP)ヘクスを7か所占領し、VPマーカーを7個獲得したが、大都市ヘクス(カーン[右下]、シェルブール[左上])はひとつも取れなかった。獲得したVPマーカーは裏面のまま「連合軍獲得VPボックス」(図中の赤丸部分)に置かれる。

 

連合軍ユニットが勝利得点ヘクスを占領(そのヘクスに進入)すると、ゲーム開始時にそこに置かれていたVPマーカーは、マップ上の「連合軍獲得VPボックス」に置き直されます。この時、両プレイヤーとも、VPマーカーの裏面に印刷された数字を見ることができません。そして、第7ターンが終了した時点で、連合軍プレイヤーは自分が獲得したVPマーカーを裏返し、いくつの勝利得点を獲得したのかを計算します。

 

↑表面には赤地に「VP」の文字が白抜きされたVPマーカーは、ゲーム終了までマップ上の「連合軍獲得VPボックス」に置かれるが、両プレイヤーとも、裏面に記された数字を見ることができない。第7ターンの終了後、それらのマーカーをめくって黄色地に数字が印刷された面を上にする。このプレイでは、7個のVPマーカーで、計14VPだった。ただし、連合軍は損害が上限の13に達しているので、ここからマイナス1VPとなり、最終的な獲得VPは13VP。勝敗判定では、11〜14VPの「引き分け」となった

 

なお、プレイ中に連合軍が占領した勝利得点ヘクスを、ドイツ軍ユニットが反撃や前進によって取り返した場合、ドイツ軍プレイヤーは連合軍獲得VPボックスから、VPマーカーを1つ選んで、奪回した勝利得点ヘクスに戻すことができます。

 

これでわかるように、ドイツ軍プレイヤーがゲームに勝つためには、積極的に反撃を行って、連合軍ユニットを退却させ、連合軍にVPマーカーを取らせないようにするか、または、取られたとしても奪い返し、VPマーカーをできるだけ連合軍の手に渡さないようにする必要がありますが、そこで鍵となるのは、第5回で説明しました「損害の蓄積」です。

 

もし、連合軍の損害値が上限に達していれば、ドイツ軍の攻撃で防御側の連合軍に損害が出るたびに、その連合軍ユニットはその損害と同数の退却を強いられます。逆に、損害が上限に達していなければ、ドイツ軍の攻撃で防御側の連合軍に「1」の損害が出ても、「損害記録トラック」上で損害マーカーを1つ進めるだけで終わり、マップ上のユニットの位置には変動がありません。

 

このように、多くの場合、ドイツ軍は、ただ漠然と戦線を守るだけでは、ゲームに勝てないのです。

 

また、連合軍プレイヤーは、マップ上の大都市ヘクスを占領していれば、1ヘクスにつき2VPを得ることができます。その一方で、連合軍の損害数が上限に達していたり、上陸海岸ヘクスをドイツ軍に奪われていたり、第1ターンの上陸阻止射撃の結果があまりに小さければ、連合軍の獲得した勝利得点から一定数差し引かれてしまいます。

 

そして、最終的に残った連合軍の勝利得点の合計が15以上なら連合軍の勝利、10以下ならドイツ軍の勝利、11〜14なら引き分けとなります。

 

この勝利判定の条件については、このゲームに付属のルールブック詳しく書かれているので参照してください。

 

2人用のボードゲームを1人で遊ぶ方法

この連載記事でご紹介した「ノルマンディーの戦い」は、本来は2人用ゲームとしてデザインされたものです。しかし、歴史ボードゲームのおもしろさは、「2人用ゲームを1人でプレイすることもできる」というポイントにもあります。

 

それってどういうこと? 前線で対峙する敵と味方を1人でプレイすれば、それは「戦い」にならないんじゃないの? わざと一方を勝たせることもできるのでは?

 

そんな疑問を抱かれる方も多いかと思います。確かに、勝ち負けを競うという「ふつうの遊び方」をしたのでは、2人用ゲームを1人で遊ぶ意味はないように見えます。

 

しかし、プレイヤーの視点を「歴史的な戦いを上空から見下ろす」偵察機やヘリコプター、ドローンのような形に設定してみてはいかがでしょうか。

 

タイムマシンで過去に戻ったような気分で、マップ上の両軍を俯瞰し、それぞれのコマを「その軍の司令官ならこうするだろう」という「自分の考える最善手」で動かし、戦闘を行わせます。

 

連合軍の移動フェイズや戦闘フェイズでは、連合軍の司令官になったつもりで、ドイツ軍の移動フェイズと戦闘フェイズでは、ドイツ軍の司令官になったつもりで、それぞれのユニットに移動や戦闘を行わせます。

 

このようなプレイの方法では、対戦ゲームのような「敵の裏をかく」というテクニックは使えませんが、しかし両軍がそれぞれ最善手を取った場合、戦局がどのように推移していくのかを上空から観察するような形でのプレイは、題材の戦いをより深く理解するためのヒントをプレイヤーに感じさせてくれます。

 

実際、2人用ゲームを1人でプレイするという遊び方(ソロプレイ)は、歴史ボードゲーム(ウォーゲーム)の本場であるアメリカでも、草創期からよく見られたもので、日本を含め世界中にいる「ゲーマー」は、対戦相手がいないという消極的理由だけでなく、有名な戦いの雰囲気を味わう、あるいは戦いの経過を眺めて愉しむという積極的理由から、2人用ゲームの「ソロプレイ」を愛好しています。

 

例えば、米国SPI社(本連載の第1回で紹介したボードゲーム形式のウォーゲームで先駆的メーカーのひとつ)の創設者で中心的なゲーム・デザイナーでもあったジェームズ・ダニガンは、日本語版が1982年にホビージャパンから刊行された著書『ウォーゲーム・ハンドブック』の中で、次のように述べています。

 

【ひとりでゲームをプレイする、という人はかなり多い。その最も一般的な理由としては、いっしょにゲームする相手がいないという場合もあるが、相手なしでプレイする方が好きだから、ということがあげられる。(中略)ウォーゲームには、歴史的体験を味わう手段としての性格がかなり強い。(中略)また、対戦相手がいることを好むプレイヤーにとっても、特定ゲームについて戦術とテクニックの腕を磨き、勝利の確率を高める上で、ひとりでのプレイは重要な意味を持っている。】(p.81)

 

↑ジェームズ・F・ダニガン著『ウォーゲーム・ハンドブック』(ホビージャパン、1982年)。伝説的なウォーゲーム・デザイナーによる、ボードゲーム形式のウォーゲーム(シミュレーション・ゲーム)全般について網羅的に解説した書物で、1980年代に日本でウォーゲームの「ブーム」が起きた時には、日本のゲーマーの間でバイブル的な存在となった。

 

今回で4回目となった「歴史群像」の付録ゲームですが、「ノルマンディーの戦い」だけでなく、過去の「モスクワ攻防戦(1941年秋〜冬のドイツ軍のモスクワ侵攻とソ連軍の反撃、第150号付録)」と「第二段作戦(1942年5月〜6月の太平洋戦域における日米両海軍の空母戦、第156号付録)」も、2人用ゲームでありながら、1人でもプレイできるように、ゲームシステムを工夫してデザインされています。

 

新型コロナウイルスの感染拡大で、友人と会う機会もなかなか見つけられなくなっている方も多いかと思います。「歴史群像」の最新号(8月号)には、最初から1人用に設計された「米軍空挺部隊の戦い」と、2人用の「ノルマンディーの戦い」の2つの歴史ボードゲームが付録として付いていますが、ぜひ一度、「ノルマンディーの戦い」も、試しに1人でプレイしてみてください。きっと、新しい知的な発見があると思います。

 

ここまで6回にわたって歴史ボードゲームの内容について説明してきました。言葉で説明すると、個々のルールが複雑に思えたかもしれませんが、野球やラグビーのルールも、文字で読めば難しく感じる反面、実際にやったり試合を観戦すれば意外とすんなり理解できるもの。歴史ボードゲームのルールも同じで、なぜそのルールがあるのかという理由を想像しながら読み、試しに少しプレイしてみれば、見た目ほど難しくないことがわかっていただけるはずです。実際、1980年代の「ブーム」の頃には、大人はもちろん、日本中の中学生や高校生が、今回ご紹介した「ノルマンディーの戦い」よりもはるかに難易度が高いゲームに熱中していたのですから。

 

第1回で説明しました通り、歴史ボードゲーム(ウォーゲームあるいはシミュレーション・ゲーム)は半世紀の歴史を持つホビーで、この間に古今東西のあらゆる戦いがゲーム化されてきました。今では、戦史書で扱われる戦いで、ボードゲームになっていないものを探す方が難しいほどです。実際に起きた戦いを再現する歴史ボードゲームは、その題材の戦いを知る人にはより深く理解するヒントを、知らない人にはその戦いがどのようにして発生し、戦場ではいかなる戦闘が繰り広げられたのかという「流れ」を知る機会を、与えてくれる存在です。そしてもちろん、プレイヤーが知力を競い合い、戦術や作戦、戦略の優劣で勝敗を決するという、勝負の面白さもたっぷり味わえます。

 

欧米では、プロの歴史家や軍人が、ゲームの制作に携わることも珍しいことではなく、最新のリサーチ(歴史調査)の結果が、両軍の部隊編制の内容に反映しているケースも少なくありません。知れば知るほど、奥が深いのが歴史ボードゲームの世界ですが、「歴史群像」の付録に付くゲームはいずれも、それほどマニアックな関心がない人でも短時間でプレイできる、シンプルでダイナミックなゲームに仕上がっています。

 

もし、この連載企画をお読みになって「歴史ボードゲームって、面白そうだな」と感じた方がおられましたら、ぜひ最初の「入り口」として、「歴史群像」8月号を購入され(価格は内容の充実した雑誌と別冊付録のゲームを合わせて税込みで1210円)、付録ゲーム「ノルマンディーの戦い」をプレイしてみてください。最初は、戸惑うことがあるかもしれませんが、そんな時はこの6回の企画を読み直していただければ、疑問は解消されると思います。まずはとにかくやってみてください。何度かプレイすればすぐにコツを覚えて、歴史ボードゲームの魅力を感じ、より良い作戦を自分で考えてみようという気分になるはずです。6日間、お疲れ様でした。それでは、ご武運を!

 

 

解説:山崎雅弘(やまざき・まさひろ)

1967年大阪府生まれ。戦史・紛争史研究家。軍事面だけでなく、政治や民族、文化、宗教など、様々な角度から過去の戦争や紛争に光を当て、俯瞰的に分析・概説する本と記事を「歴史群像」などで執筆。同様の手法で現代日本の政治問題を分析する原稿を、新聞、雑誌、ネット媒体に寄稿。著書多数。

また、1989年からオリジナルの歴史ボードゲーム(ウォーゲーム)をデザインし、日本とアメリカ、フランス、中国のメーカーから出版されて高い評価を得ている。1992年には、第二次世界大戦中のスターリングラード攻防戦を再現したゲーム「スターリングラード・ポケット」で、共同制作者のアメリカ人と共に優れたウォーゲームに与えられる賞「チャールズ・S・ロバーツ賞」を受賞。これまでに制作した歴史ボードゲームは、30点以上にのぼる。

 

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