自分の人生をコントロールする感覚を取り戻して子どもが自発的になるには何が必要なのか?

自分の人生をコントロールする感覚を取り戻して子どもが自発的になるには何が必要なのか?


数年前、「パフォーマンスが高い子どもは大きなストレスにさらされていて本当の意味でのモチベーションに欠けている」ということに、臨床神経心理学者のWilliam R. Stixrud氏とチュートリアル・サービス「PrepMatters」の代表であり作家のNed Johnson氏の2人は気づきました。調査を開始した2人は、子どもたちのストレスに対する解毒剤は「自分自身の人生に対するコントロールを与えること」だという結論にたどり着きます。ただし、これは「親が全ての裁量を放棄すること」を意味しないとのことで、2人の共著「The Self-Driven Child」の中では、子どもたちをストレスから解放して自分から新しい課題に取り組ませるための方法が記されています。

The Case for the "Self-Driven Child" - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/the-case-for-the-ldquo-self-driven-child-rdquo/

自分で意味があると見なしたことを行い、成功や失敗を通して感じる「自分自身で人生をコントロールしているという感覚」の低さが不安・うつといったメンタルヘルスと高い割合で関連し、加えて1960年代から子どもたちのストレスに関連したメンタルヘルスの問題が増加していることも判明していました。特に、ここ6〜7年は若い人の不安やうつの発生率が急上昇しているとのこと。

神経学的な見地から見ると、健康的なコントロール感覚があるとき、情動反応の処理と記憶において主要な役割を担う扁桃体は前頭前皮質に制御され、大きな不安を感じることはありません。しかし、子どもたちが大きな不安を感じている時は、本質的に扁桃体がよりアクティブになり、無力感や行き詰まりを感じやすくなります。

Stixrud氏によると、子どもたちが情熱をもって目標を設定し、達成を楽しむためには自己動機付けができるようになる必要があり、それには「自主性」がカギになってくるとのことですが、Stixrud氏が出会った子どもたちの多くは自己動機付けができなかったそうです。彼らのモチベーションのパターンには「成功への強迫観念」「頑張ることは意味が無い」という2点が見られたとのこと。そして、これらの子どもたちは自分に対する要求に圧倒され、常に疲れていて、十分に休む時間もありませんでした。


自己コントロールの問題は新しいものではありませんが、1960年代と2002年の大学生たちを比較すると、2002年の大学生たちは自分の人生を自分自身でコントロールしているという感覚が劇的に低いことがわかっています。このような自分の人生に対するコントロール感覚の低下は、子どもたちの遊び時間の減少や、アクティビティがスケジュール管理されること、スマートフォンなどのデバイス画面に向かう時間が増加したことによって引き起こされていると見られています。さらに、近年の子どもたちは睡眠時間が減っており、15歳以上のティーンエイジャーの50%は、平均睡眠時間が7時間以下だと言われています。少年少女たちが疲れを感じないためには平均9時間の睡眠が必要であることから、睡眠時間の短縮で前頭前皮質と扁桃体のつながりが弱くなり、前頭前皮質が扁桃体を適切に制御できなくなっていることも考えられます。疲れによりコントロール感覚が低下した子どもたちは容易にストレスを感じ、物事の対処スキルが低下し、挫折や失望を経験しやすくなってしまうとStixrud氏は説明しました。

もちろん、テクノロジーの登場も子どもたちの人生に対するコントロール感覚の低下に大きく関わっています。SNSに写真を投稿し、周囲の人々からジャッジされるのを待つという行動は、まさしく自己コントロールを低くする行為です。2018年1月には、アメリカの10代の若者の幸福度や満足度は2012年以降に大きく低下しており、スマートフォン所有率がこの現象に大きく関わっているという調査結果が発表されました。調査の中でビデオゲーム中毒の少年は「すべきでないという事はわかっているけれど、止めることができない」と述べており、これこそが「コントロール感覚の喪失」を示すものだとStixrud氏は述べています。

スマホ・PC・TVなどディスプレイ越しの活動が幸福度を低下させる、と研究結果 - GIGAZINE

人間が本質的に持つ「自律性」「有能性」「関係性」という3つの欲求を満たすことでモチベーションが高められるという考え方を「自己決定理論」と呼び、自己決定理論によると、この3つの欲求のうちいずれかが欠けているとモチベーションは下がるか、あるいは「恐怖」をベースにしたモチベーションが構築されてしまいます。そのため、自分の子どもをコントロールし「自律性」を奪う行為はモチベーションに悪影響を及ぼす行動だと言えます。

例えば数学の成績が悪いからと家庭教師を雇おうとし、しかし自分の子どもがそれに対して抵抗した場合を考えてみます。子どもの抵抗を押し切って家庭教師を子どもに付けさせる行為は「自分と子どもとの関係性」にストレスを与え、たとえ成績を上げることができたとしても、「自律性」と「関係性」を損なってしまい、大きな視点から見ると得られるものよりも失うものの方が大きくなります。親が「子どもの意見は関係ない」「自分の方がよくわかっている」というシグナルを子どもに送った時、子どももまた自分自身の判断についてそのように見なすためです。

子どもは学校で多くのストレスにさらされており、「家」は本来であればそのストレスから解放されて休息できる場所となるべきものですが、親が不安を抱いて子どもをコントロールしようとすれば、子どもは休息することができません。その場合、子どもは他に休息できる場所を探し出し、より深刻なケースでは慢性的なストレスにさらされた脳は病気を引き起こすことも。

そのため、親は子どもたちには安心できる場所を提供した上で、「扱える範囲内での」課題を与える必要があるとJohnson氏は述べています。テレビゲームはこの点に優れており、プレイヤーのレベルが上がるにつれて課題が難しくなっていき、かつ失敗しても再びやり直すことが可能です。現実世界においても子どもはゲームと同様に「成功」を積み重ねていきたがるものであり、子どもが情熱を燃やすものの能力を伸ばす機会を与えるべきとのこと。自分の好きなものを行った時に得る「熟達」や「自律」の感覚が子どもの人生における別の側面でも生かされる、とJohnson氏。


つまり、自己コントロールや動機付けができる子どもを生み出すためには、休息を取れる場所を与え、睡眠をしっかりと取らせ、遊びの時間を与えることが重要ということになります。Johnson氏が見てきた子どもの多くは、自由な時間に親が予定を詰め込んでくることに不満を言っていたそうです。休息は怠惰とは別物であり、活動の基礎となってくる部分です。スマートフォンもスクリーンも抜きで、デフォルトモードネットワークと呼ばれる神経回路を活性化させ、前頭前皮質と扁桃体の関係を適切に保つことが必要だとJohnson氏は語りました。
Photo by Senjuti Kundu


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