「指輪物語」に影響を与えたイギリス最古の叙事詩「ベーオウルフ」はたった1人によって書き著されたのかもしれない

「指輪物語」に影響を与えたイギリス最古の叙事詩「ベーオウルフ」はたった1人によって書き著されたのかもしれない


ファンタジーの源流ともいえる内容でJ・R・R・トールキンにも大きな影響を与えたとされる長大な叙事詩「ベーオウルフ」について、研究者らは長年にわたって「1人の著者が一貫して書いたのか、それとも複数人の著者が書いたのか」という謎を議論してきました。そんな謎について、ハーバード大学の研究者らが「統計的分析の結果、ベーオウルフは1人の著者によって書かれた可能性が高い」と主張しています。

Large-scale quantitative profiling of the Old English verse tradition | Nature Human Behaviour
https://www.nature.com/articles/s41562-019-0570-1

Tolkien was right: Scholars conclude Beowulf likely the work of single author | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/04/tolkien-was-right-scholars-conclude-beowulf-likely-the-work-of-single-author/

英文学における最古の伝承の一つであるベーオウルフは、英雄ベーオウルフの冒険を語る叙事詩です。スカンジナビア半島を舞台にして、勇士ベーオウルフが巨人のグレンデルやドラゴンを退治するというファンタジックな設定は、「ホビットの冒険」「指輪物語」の著者として知られるトールキンにも大きな影響を与えたとされています。

そんなベーオウルフは8世紀から11世紀の間に書かれたとされており、ベーオウルフが書かれた正確な時期を特定することは、研究者らにとって大きな関心事となっています。それに加え、「ベーオウルフは1人の著者によるものではなく、複数人の著者が書いたものをまとめたのではないか」という説についても、長年にわたって議論されてきました。ハーバード大学の研究者であるマディソン・クリーガー氏によれば、ベーオウルフの著者に関する疑問は1815年から提起されていたそうです。

「私たちは高校生のころからグレンデルやドラゴンとの戦いについて知っていますが、全体を読み返してみるとベーオウルフの水泳のうまさに触れていたり、数百年前の王について語ったりと、ちぐはぐな印象を受けるでしょう」とクリーガー氏は指摘しています。また、現存する写本では1939行目から2人目の書き手に交代していることが確認されているとのこと。

1936年までは「ベーオウルフは複数人の著者によって書かれたものだ」という見解が一般的だったそうですが、トールキンは1936年にベーオウルフに関する分析を発表し、「ベーオウルフは単一の著者によって書かれたものだ」という説を支持しました。トールキンはベーオウルフが8世紀ごろに、1人の著者によって書かれたものだと考えていたそうです。

このベーオウルフの著者に関する謎に、クリーガー氏は統計的手法を用いて分析することを考案したとのこと。「詩の内容や作者の信念に基づく研究はもちろん重要ですが、文体に基づく研究も同様に重要です」とクリーガー氏は主張しており、文体に基づく分析は定量的で測定可能であるという点も大きな利点だと述べています。

クリーガー氏の分析は、詩の韻律や単語の組み合わせのパターンなど、誰もが微妙に違ったスタイルで文章を書くことに着目したものです。フレーズが登場する順番や語彙の豊富さなどの多岐にわたる項目を統計的に分析することで、ある文章と別の文章を書いた人物が同一人物であるのかどうかを識別できるとのこと。たとえばポーランドの研究者が行った研究では、わずか12語の単語からなる英文で個人を識別できることがわかりました。


ベーオウルフについて分析したクリーガー氏らの研究チームは、「韻律」「文章の休止」「単語の選択」「語句の組み合わせ」といった項目について測定を行いました。測定項目について分析した結果、ベーオウルフのテキストは一貫して強い共通性が見られたそうです。

「ベーオウルフの文章について文体は一貫していて、文章中に大きな文体の変化は見られません」とクリーガー氏は述べ、ベーオウルフが単一の著者によって書かれたという説を支持しています。今回測定した項目以外の文体要素についても測定することにより、さらにベーオウルフが単一の著者によって書かれた可能性を高めることもできるとのこと。

とはいえ、今回の研究結果はあくまでも統計的な分析によるものにとどまっており、必ずしも著者が1人であると決定するものではありません。それに加えてカーネギーメロン大学の研究者であるSimon DeDeo氏は、「著者が誰であるかを特定するのは難しいものです」と指摘。

例えば1995年、ウィリアム・シェイクスピアの研究者であるドナルド・フォスター氏が、コンピューターを使った分析の結果、「『Funeral Elegy for Master William Peter』という詩がシェイクスピアによって書かれたものだ」と主張しました。ところが、後にその詩を書いたのは同時期の作家であるジョン・フォードだと判明し、フォスター氏は過ちを認めました。

クリーガー氏もフォスター氏の一件が明らかにした著者帰属の難しさについては承知しているとのこと。しかし、あくまでも今回の研究結果は著者の正体を明らかにするものではなく、ベーオウルフの著者が複数人ではなく1人である可能性が高いとするものであり、著者を特定する作業とは区別して考えるべきだと述べました。

Photo by JJ Jordan


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