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臓器移植の問題は長引きそうです…。

この新型コロナ禍の中、ニューヨークで膝の移植手術を受けたBrian Kahn記者が、未知のウイルス蔓延下での臓器移植の現状を調べてみました。

4週間前、私はマンハッタン眼科耳鼻咽喉科病院の無人の待合室へと入っていきました。そこにはケーブル局のニュースを流しているテレビ、モグラ色のイス、人工観葉植物と普通の外来病院ならではの装飾がそろっていました。しかし、普段なら患者と付き添いの人たちが待っているはずの場所にいたのはたったひとり、私だけでした。

パンデミックの中、移植手術を受ける

私は、Northwell Healthというニューヨーク州内で6万8000人の従業員を持つ病院ネットワークのリストに載っていた待機手術(緊急手術ではない、計画的に行なわれる手術)の最後のひとつを受ける患者だったのです。私の膝は大腿骨から外れた骨片が軟骨をえぐっているせいで時限爆弾のような状態でした。主治医に今、処置を施さなかったらいつ外れてもおかしくないと警告されて、このパンデミック中に緊急の移植手術を受ける危険を冒しました。

個人用防護具、スタッフの時間そして安全性といった意味で、ちょっとだけトロッコ問題のようだと感じました。しかしNorthwellがほとんどの待機手術をキャンセルしていても、「グレーゾーン」ステータスだったおかげで、私はスケジュールに残っていたのです(医学的な観点からすればあまりありがたくないステータスですね)。同種移植と呼ばれる手術は予定通りに進んで、整形外科医が骨片と損傷した軟骨とを片付けて、そこに完璧なサイズのドナーの骨と軟骨を入れてくれました。私はただひとりの患者として回復室で目覚め、グラハムクラッカー数枚とジンジャーエールの小さな缶をいただきました。お見舞いにきた妻には「史上最高の食事だった」と言ってたそうで…。その後すぐに退院となり、10分もよそ見したら変わってしまう世界へと放たれたのです。

新型コロナは臓器移植のスピードを減速させた

私は手術にギリギリ間に合って幸運でした。しかし何千もの人々が待機手術をキャンセルさせられる憂き目にあっています。待機手術とは、私のような同種移植から新しい腎臓や角膜を待つ人々、さらには乳房切除術といった特定の種類のガン治療までも網羅する包括的な用語です。コロナウイルスによって病院の資源がすり減っており、多くの場所では待機手術が保留になってしまいました(奇妙なことに、それもまた多くの病院を財政的に弱めています)。

キャンセルになったことは手術を待つ患者と、臓器、組織そして骨の移植においてはそれらを支援するためのドナーバンクやシステムの両方に影響を及ぼしました。大急ぎで膨大なリサーチをしているにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染については未知の部分が多いままです。つまりドナーバンクや生体臓器提供を奨励する他のプログラムは、ドナーと移植希望者の選別に関して厳しくなる必要があるということ。このパンデミックは、生体臓器移植の供給と需要の両方を減速させたのです。

臓器移植での新型コロナ感染リスクは低いとの見解

米国内の臓器移植システムを監督する全米臓器分配ネットワーク(UNOS)は、同団体のコロナウイルスについてのページに、このウイルスが臓器移植で感染するかどうかは「現段階ではわかっていない」と記載しています。また、米国移植学会は臓器提供経由の新型コロナウイルス感染のリスクは「低い」としています。それでもUNOSでは医療手術がコロナウイルスの対応の集中にしたことより、臓器摘出と需要の両方における大きな減少を確認しています。

私の膝の場合、ドナーの部分は私の寸法に合致する必要がありました。主治医いわく、適切なドナーを探すプロセスは平常時で6〜12週間ほどかかるそうで、そういったこともあって他の待機手術がキャンセルになっても手術を受けるべきだと勧められたのです。提供された骨移植を受けなければ、次に合致するドナーが現れるのはいつになるのかは見当もつきませんからね。

損傷した膝に移植する軟骨は生体である必要があり、そういった移植片の生存期間はドナーの体から摘出後4週間ほどです。JRF Ortho社の流通・マーケティング部門のKeith Byers部長は兄弟メディアのEartherに対し、「骨移植での新型コロナウイルス感染のリスクはとても低いが、まだ多くのことが不明だ」と話していました。結果として、今では私のヒザにある移植片を摘出した企業であるJRF Ortho社は、慎重な予防措置を取ることに。

移植片の摘出について「保留する必要があった」と、Byers部長は語ります。

需要も落ちている中で、同社はこのパンデミックが米国で深刻化する前に摘出した移植片を送る場所が、基本的にない状態です。それらを無駄にしないため、「学生らが研究して作業できるよう医大に送っている」と語っていました。

角膜移植は新型コロナ感染の可能性がある

新型コロナウイルスがもたらした問題は、他の生体組織においてはさらに重大でした。角膜移植の場合、生存期間は約14日間ですが、ロッキー・マウンテン・ライオンズ・アイバンクの専務取締役John Lohmeier氏によれば、ほとんどの医者は7日以内の移植を好むとのこと。彼は、現時点における最善の科学が新型コロナウイルスは目の粘膜を通して感染し得ると示していると語っていました。つまり、角膜移植や他の眼科関連の手術で感染する可能性があるということです。そのため同バンクは、既に厳密なプロセスだったドナーのスクリーニングをより入念に行うようになりました。

同氏はEartherに「弊バンクでのドナー摘出手術を通常時の8%ほどに減らした」と語っていました。「(ドナー臓器を)送る場所がないから多くの臓器提供を停止して復旧しないことになった。今は海外のクライアント用に週に数件、行なっている。我々のサービスエリアで緊急のリクエストがあった際に備えて、バンク内に組織の供給を維持している」とのこと。

必要不可欠の医学的定義に疑問

目の場合、緊急手術は待機手術ではない、眼球の外科的治療を行なう手術を指します。その一方で、視力を救う手術は必要不可欠なもののような響きにもかかわらず、緊急を要さないと考えられています。ひょっとすると「必要不可欠」の医学的な定義こそが、私がこの記事のための試練とリサーチで学んだ中で最も不愉快なものかもしれません。膝に時限爆弾を抱える身としては、確かに手術は必要不可欠なように感じられました。しかし、もし彼らが一致するドナーを見つけていなかったら程度の差こそあれ、あと数カ月は生活を続けられていたでしょう。

言うまでもなく、このパンデミックの真っ只中でさらにつらい状況に耐え必要な手術を受けられていない、私よりもかなり悪い状態の人々はいます。腎不全を患う人々だと、移植を受けることが緊急でないとみなされる場合もあります。体には多くのストレスをかかっているとはいえ、透析をすることで健康な人と同じ腎臓の働きを再現できるからです。つまり、不運な腎臓移植希望者の場合、最悪のシナリオではパンデミックの犠牲者になるかもしれません。

「生体ドナーがあっても何もしてあげられることはない」と生体臓器提供の手配をサポートする団体Living Bankのソーシャルワークサービスの主任であるShelley Spector氏はEartherに語っていました。「透析が受ける時間が長ければ長いほど、長生きできないリスクが高まる」とのこと。

ロックダウン解除後にも影響が及びそう

何百万ものアメリカ人が自宅に隔離しているからといって、待機手術の需要は急に止まるわけではありません。待機手術を再開できるようになれば、生きている人が腎臓や肝臓の一部を必要としている人に提供することを含む生体臓器の提供は必ずしも問題にはなるわけではありません。Lohmeier氏によれば、少なくともコロラド州とワイオミング州は国内でもオプトイン臓器提供(移植希望者が意思表示をして臓器提供を受ける形式)の割合が最も高い州なので、眼のドナーの供給はあまりに大きな懸念にならないはずとのこと。

しかし、生体臓器の提供では行なえない、心臓の提供や他の移植手術を待っている人たちの場合は、待つ時間がとても長くなりそうです。Byers部長いわく、平常時なら同種移植のウェイティングリストには200人いて、毎週50名以上の患者を回復させていたとか。ひとたびフル稼働に戻れたら、臓器バンクや企業はバックログ(未処理案件)という課題に対処することになるでしょう。これもまた新型コロナウイルスによるアメリカ医療システム崩壊の一例で、ロックダウンが解除された後もしばらく影響を受け続けることになりそうです。

Source: Healthcare Finance, UNOS, American Society of Transplantation, The Lancet,