妥協の産物としての自衛隊艦船派遣 ペルシャ湾付近で日本ができること

妥協の産物としての自衛隊艦船派遣 ペルシャ湾付近で日本ができること

中東地域は、極めて不安定な状況にある。

2019年5月にイランが核合意の履行停止を宣言して以来、ホルムズ海峡周辺ではサウジやノルウェー船籍のタンカーが攻撃され、安倍首相がイランを訪問している最中に日本のタンカーが攻撃されるといった事件も起こっていた。また9月にはサウジアラビアの石油施設が攻撃を受け、一時的ではあるが、世界の石油供給量の5%が市場から消えるといった事態も起きた。中東地域の原油や天然ガスに依存する日本としては、こうした危険な状況が頻発することは自国のエネルギー安全保障上、大きな問題である。

しかも、これらの事件の真相はいずれも明らかになっていない。5、6月のタンカー攻撃や9月の石油施設への攻撃はイランの関与が疑われているが、イランはそれを否定しており、被害を受けたサウジアラビアやUAEもイランの関与を示唆しつつも、イランの責任を問うことはしなかった。イランに対し「最大限の圧力」をかけているアメリカはイランの仕業であると断定的に非難しているが、既に制裁の余地は少なく、追加の制裁を加えても大きな変化がない状態である。

そんな中で、アメリカは海洋安全保障イニシアチブと呼ぶ有志連合を形成し、軍事的なプレゼンスを強化することでペルシャ湾内の安全を確保しようとしている。しかしながら、このイニシアチブに参加する国は、イランに自国船籍のタンカーを拿捕されたイギリスや、イランと対立するサウジなど数カ国に留まっており、多くの国はアメリカの呼びかけに反応していない。

安全保障をアメリカに強く依存する日本はアメリカの圧力に対して脆弱であり、何らかの形でアメリカの期待に応えることが日本の安全保障にとって有益であると考えている。しかし、イランはアメリカの有志連合の形成を警戒しており、アメリカの介入は認めないという姿勢を強く押し出している。日本は1979年のイラン・イスラム革命以降もイランとの友好関係を維持しており、6月に現役の首相として安倍総理が40年ぶりにイランを訪問したばかりである。イランとの関係を悪化させる可能性のある有志連合への参加はできる限り避けたいと考えている。

さらに、日本は憲法第九条に代表される平和国家であり、自衛隊を派遣したとしても実際に取れる行動は限られている。自衛隊が武器を使用できるのは自らを守る場合か、そうでなければ日本の存立が危機にさらされた状態、ないしは日本船籍のタンカーが危険にあり武器を使用しなければ危険を回避できない状況に限られる。しかし、日本に輸入される原油などを輸送するタンカーは日本船籍とは限らず、外国船籍のタンカーを保護することは法律上困難である。

これらの条件を満たす方法として、日本政府はアメリカの有志連合には参加せず、独自で自衛隊艦船を「調査・研究」の名目で派遣し、ペルシャ湾内には入らずにオマーン湾からアラビア海、バブエルマンデブ海峡までの海域を活動範囲とすることが検討されている。これは自衛隊艦船を派遣することでアメリカに対して直接有志連合には参加しなくても何らかの貢献をする意思を示し、他方で有志連合に入らず、ペルシャ湾を避けることでイランを刺激することを避け、武器使用を巡る国会論戦を避けるために「調査・研究」の目的で派遣するという妥協の結果としての判断である。

こうした妥協の産物として自衛隊を派遣したところで、日本に輸入されるタンカーを保護することはおそらく無理である。しかしながら、6月にイランが米軍のドローンを撃墜した後、トランプ大統領が報復攻撃開始10分前に中止を命じる事態があって以来、ペルシャ湾情勢は落ち着きを見せている。9月にサウジの石油施設が攻撃されたが、これはサウジアラムコIPOのタイミングに合わせた攻撃の可能性があり、ホルムズ海峡を通過するタンカーを狙ったものではない。またイランは「ホルムズ海峡平和構想(HOPE)」を提唱しており、UAEなどはイランとの関係改善を模索している。

このような状況を考えると、日本が自衛隊艦船を派遣せずとも日本のタンカーの安全は実現する可能性もある。しかし、仮にイランが挑発的な行動を取ったり、アメリカが過剰に反応した場合に、自衛隊の艦船が「調査・研究」の枠を超えて行動するようなことがあれば、この微妙なバランスで成り立つ妥協は破綻する。そうならないよう、細心の注意を払ってペルシャ湾の緊張緩和につながる外交政策を展開することが重要となるだろう。


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