金銭的な利益と社会に良いことの両立をめざす社会的企業、あるいはソーシャルビジネス。日本でもすっかりおなじみになってきたが、お隣の韓国はアジアで初めて「社会的企業育成法」を制定するなど、社会的企業がさかんな国だ。どんな政策がとられ、どういう社会的企業が活動しているのだろう。現地で取材した、韓国の社会的企業の様々な姿を報告する。(朝日新聞編集委員・秋山訓子)

「社会的企業」とは、前述のように金銭的な利益と社会に良いことの両立をめざす。たとえば途上国の資源や産物、労働力を一方的に搾取するのではなくて、適正な価格で輸入したチョコレートや花を販売する「フェアトレード」、オーガニックな素材のみを使ったレストラン……などが挙げられる。ビジネスでお金儲けをしながら、社会をよりよくするのが目標だ。

韓国で社会的企業を支援する法が制定されたのは2007年のことだ。「社会的企業育成法」といい、一定の収益がある、利潤の3分の2以上を社会的目的に使う、有休の労働者を雇用する…などの条件を満たしている企業を国が「認証」し、認証されると一定の期間に人件費や商品開発に対する補助金や税制優遇などの支援が行われる。2018年5月までに、1930社が認証されている。

この法律を作った背景には、所得の低い人や高齢者や障害者など、社会的に弱い人たちを救おうという目的があった。彼らに社会的サービスを提供し、かつ雇用の機会もつくろうとしたのだ。といっても、経営的には苦戦している企業が多く、補助金を除いて黒字を出している企業はまだ多くない。日本では1998年にNPO法が制定されたが、認証して法人格は付与されるが、特に法律で財政的な支援は行っていない。また、社会的企業を認証するような法律はない。

韓国といえば財閥系企業が強いが、財閥系企業でも社会的企業に関心を持っているところもある。たとえば、SKグループは自社グループを中心に企業の「社会的価値」について調べる研究所「社会的価値振興院」を設けている。崔泰源(チェ・テウォン)オーナーに、企業のあり方、ビジネスのやり方がこれからは変わってくるという問題意識が強く、つくったのだという。

どんな社会的企業があるのだろう。実際に韓国・ソウルを訪れてみた。朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長はもともと市民活動家であり、社会的企業にも関心が深い。社会的企業の育成策として、国の施設の跡地を使って作った複合施設「革新パーク」の中に、社会的企業が集まるオフィスを作った。

そこに入居する、社会的企業育成法で認証された企業の一つである「クムジャドンイ」はプラスチック製のおもちゃの再生や、それを通じた子供たちへの環境教育を行っている。

もともと牧師をしていた朴準星(パク・ジュンソン)さんが98年に設立した。牧師時代から青少年の貧困問題に取り組んでいた朴さんだが、「イギリスのオックスファムというNGOを見て、ああいう社会的に役立つことをしたいと思って起業しました」という。「クムジャドンイ」とは韓国の伝統的な子守歌の中にある歌詞のワンフレーズ、「金(きん)のようなうちの子を大切に育てろ」という意味だという。

クムジャドンイのオフィスには、子供たちが作ったカラフルな再生おもちゃが並ぶ

おもちゃのほとんどがプラスチックで作られるが、再活用はほとんどできていない。「捨てられるおもちゃ類は韓国だけで年間240万トンに及びます。プラスチックのおもちゃの最大の問題は、分解する労力が大変なことです。30分かかって分解しても、1キロ当たり5円でしか売れません」

そういった問題を子供たちに理解してもらおうと、「スルモ」という教育プログラムを作った。スルモ、とは「使い道のないおもちゃの変身」という意味だ。子供たちはおもちゃの分解をして、そこからまた「アップサイクル」して、自分オリジナルの作品を作り出す。

「子供たちはスルモを通じてプラスチックのリサイクルについて楽しみながら知識を得て、環境問題への感受性が上がります」と朴さんは言う。これまでに40万人がスルモを受けた。「環境問題は民族を超えたグローバルな問題です。日本でもぜひいつかやりたい」と語る。

クムジャドンイのオフィスには子供たちが作ったのであろう、見るだけで楽しいカラフルなプラスチックの再生おもちゃが並んでいた。ほかにも中古のおもちゃ販売も行っており、収支はきちんと回っている。

朴さんは社会的企業の認証を受けた理由を「公的な信頼感を得たかったから」と語る。ただ一方で、「本来社会に良いことは自発的に行わねばならないのに、政府に認証してもらうというのはなじまないのでは」というジレンマも抱えている。

やはり社会的企業の認証を受けた「共感万歳」は、高斗煥(ゴ・ドゥファン)さんが2009年に創業した旅行会社だ。社員は40人以上、年間売り上げは4億円にのぼる。

高さんはもともと、大学時代に大学新聞の記者として活動、その後はフィリピンのNGOで研修し、そこで韓国のラジオ局の通信員などをしていた。大学時代には大学の学費値上げ反対運動などにも参加していた。生粋の市民活動家といってもいいかもしれない。「国立大学の法人化が進んで、学費がいきなり二倍くらいになって、自殺する学生が増えて、これはひどい。みんなが生きやすい社会を作りたいと思いました」

社会問題に対する憤りや変革に挑戦するマインドの持ち主だった高さんだったが、就活はしなかったのだという。「学生の時から市民運動をしていて、でもみんなは昔ながらの市民運動にあまり共感してくれず、孤立感やさみしさがあった。何かもっと楽しく社会を変えることができないか、と思った時、“フェアトラベル”と出会いました」

フェアトラベルとは、一方的にただ観光するのではなく、地域の人々との交流を楽しみながら、社会課題について学び、地域を知る旅のことだ。「消費ではなく、関係を作る旅ともいえます」と高さんは言う。開発途上国の産品を適正な価格で購入する「フェアトレード」とも似たコンセプトで、一方的に収奪するのではなくて、相手との関係性を大切にする旅といえるだろうか。

たとえば、「共感万歳」ではタイのチェンマイに近い町、ナカウキウへの旅を行っている。美しい自然が豊かな地域だが、人口減少が続き、小学校の廃校が相次いでいる。ここをたずねて自然を楽しみ、地元の人たちと交流。旅の収益で地域に図書館をつくり、さらに本を増やすために寄付をしている。

また、フィリピンのルソン島中北部には美しい棚田が広がる地域がある。長い稲作の歴史があるが、過疎化が進み荒れている田んぼも多い。ここでホームステイをして、田んぼの手入れをする旅も行っている。

「たとえば、タイへの旅に参加した小学生は、列車に乗っているときもスマホを見ずに風景を見て、みんなとのおしゃべりを楽しめたといっていました。地元の人たちが笑顔で優しく接してくれたのがうれしかったそうです」

実は日本への旅も多く実行してきた。たとえば、広島県の神石高原町という人口減に悩む町を訪れて、地元の人々と交流する旅も行っている。2018年から小学生から大学までの学生、公務員や企業研修、家族旅行などで300人以上が参加したという。

平均4泊5日で、近くの倉敷市や尾道市なども訪れながら、神石高原に最低1泊はするのだという。農業体験をし、過疎対策やまちおこしなどの政策について町役場を訪れて話を聞き、現場を回る。参加者からは「韓国も過疎に悩む地域が出てきているので、参考になった」「韓国の地方の未来を考える機会になった」「自然の中で過ごせて楽しかった」などの感想が寄せられているという。

神石高原町では地元民家にホームステイして交流。料理を楽しむ中学生(「共感万歳」提供)

一方で、社会的企業の認証を選ばなかった会社もある。

「インパクトスクエア」はシェアオフィスを運営し、スタートアップの社会的企業を支援する「アクセラレーター」をしている社会的企業だ。都賢明(ト・ヒョンミョン)代表が2010年に設立した。

都さんはもともと2005年から08年まで韓国を代表するIT企業、NAVERで働いていた。「その頃はまだNAVERも小さくて、スタートアップ企業がどう運営されるかを学びました。もともと人の役に立つ仕事をしたかったので起業しました。一つのことだけをするというより、多様なことに興味があったので」支援する仕事を選んだのだという。

今は20の会社に投資をし、また大企業のCSRの支援先として、社会的企業を結びつけることもしている。「CSRのコンサルタントと考えてもらえれば」。たとえば、投資先の一つとして環境に優しい素材を使ったスニーカー作りをしている会社「LAR」がある。今は9割が生分解性の材料で作られており、今年には10割を達成できそうだという。すなわち、履いた後には土に完全に戻る、というわけだ。

都さんが支援している、生分解性の素材でつくったスニーカー

社会的企業の創設者たちは、技術的にすぐれていたものを持っていても、それを説明することが苦手な人たちが多いという。「だから、自分たちのやっていることにどれだけの価値があるのか、ビジョンを明確にして外部にわかるようにできるよう支援します」。人事や組織の管理もアドバイスする。

GPSを利用して遊牧民が放牧する家畜を管理できるシステムを開発している会社も支援している。LMSといい、livestock management system(家畜管理システム)の略だ。カザフスタンで実際に事業を行っているのだという。ここに韓国を代表する企業、サムソンを紹介してCSRとして支援金を出してもらった。
「大企業の信頼を得るのは大変ですが、それでも少しずつ変化が出てきました。今の文在寅大統領が社会的企業に関心が強いので、社会もだいぶ変わってきたように思います」

ホテルに社会的な価値を入れて改装することで人気を得た例もある。たとえばソウルの人気地区、江南にある「ホテル・カプチーノ」。環境に優しい素材やアップサイクリングしたインテリアを使い、レストランでは支払いの一部は寄付に回す。ホテルには洋服のリサイクルボックスを設置し、新しい服を買ったら古い服はここに入れてとPR。利用した人にはコーヒークーポンを贈呈する。

「これが競争力となって今では人気ホテルです」。「最初の5年は本当に大変でした」というが、今は追い風が吹いている。でも、都さんはまだまだ先を見据える。「消費者が社会に良い価値をもった商品がほしくても、その選択肢がない。あらゆる分野にそういう商品が広がるといいと思います」

都さん。シェアオフィスのビルに併設するカフェで

日本でも、このような社会的企業へのアクセラレーター的な役割をする組織も最近出てきたが、韓国のほうが歴史が長い。日本ではそもそもアクセラレーターの支援を受けられるほどに成長のポテンシャルがある社会的企業自体が少ないからだ。今後社会的企業が成長するためにはこのようなアクセラレーターの役割は大事だろう。

ちなみに都さんは社会的企業の認証を受けなかった。「法律には当初、自分たちのような事業は認証の対象として含まれていなかった」からだという。法律は「社会的企業への議論を盛り上げ、成長させるのに意味があったけれど、イノベーションを生むという社会的企業の役割が、政府の観点によって制約されてしまうという副作用もあった」という。

クムジャドンイ、共感万歳、インパクトスクエア、認証の有無にかかわらず、3社に共通するのは社会に新しい価値をつくりだしていこうという、そしてそれを世の中にわかってもらおうという努力を常にしていることだ。社会的企業育成法も課題はあるものの、社会的企業を根付かせる一定の効果はあるようだ。ただ、政府の関与がどの程度が望ましいのかは、常に議論が必要のように思える。