2000年ごろから急速に深化したグローバル化。その原動力は「国を開く」ことだった。

社会主義国の中国は20世紀後半に改革開放に転じて外資を誘致。人口10億人超の巨大国家に「中間層」をつくった。中国の後を追い、他の新興国も国際分業体制に組み込まれ、国民を豊かにする基盤が整った。

これにより人の移動が爆発的に増加。国連世界観光機関の統計では、国際観光客は1995年の5億3100万人から18年には14億人を超え、国際観光収入も1兆4500億ドル(約160兆円)に達した。特に中国人観光客の「爆買い」はすさまじく、世界の国々を潤した。日本も国別で9位の410億ドル。訪日外国人旅行者が13年に初の年間1000万人を突破し、「インバウンド」(訪日外国人)が脚光を浴びた。政府は20年の目標を4000万人としていた。

だが、新型コロナウイルスの感染が広がり、「鎖国」の世界が現れた。グローバル化の歯車が逆回転を始めた衝撃は大きい。国際通貨基金(IMF)は4月、今年の世界経済の見通しを前年比3%減に大幅に引き下げ、1929年からの大恐慌以降、最悪の景気後退になると予測した。あのリーマン・ショック後の2009年でも0.1%減。さらに悪化する懸念もある。人類にかつてない移動の自由と繁栄をもたらしたグローバル社会は、初めての大きな試練を迎えた。

パナマ運河近くの港に積まれたコンテナ群=五十嵐大介撮影

ヒト、モノ、カネが国境を越えて移動するグローバル社会。新型コロナウイルスが引き起こした「鎖国」を経て、新しい姿に生まれ変わるのだろうか。

大阪大教授の秋田茂(イギリス帝国史)は「いまの時代は庶民でも若者でも気軽に国境を越えられるようになった。歴史上例のないことで、この流れは変わらないだろう」とみている。

19世紀後半は蒸気船や鉄道が発達し、移民を中心に大量の人が自由に国境を越えて移動した。第2次世界大戦後、植民地からの独立を果たした国々では、自国の発展を優先し、国境の管理が強まった。再び移動が活発になったのは、石油危機を経て、経済のグローバル化が本格化した1980年代から。冷戦終結や航空網の拡大も後押しした。

いまや企業活動はボーダーレスが大前提。例えば多くのスマホは、ソフトが米国、組み立ては中国頼み。すべて自前だと高価になり、買えない人が増えて経済が縮小しかねない。「経済の相互依存によって大量消費社会は支えられている。もはや若い世代にとって、外とつながらない世界を想定するのは無理だろう」

ただ地域統合の理想とされたEUでさえ、新型コロナの脅威を前に加盟国は自らを守るのに精いっぱいで、逆に国境を閉じる動きが進んだ。「地域統合の持つ脆弱性が表面化し、ナショナリズムが息を吹き返した。国民国家を見直す動きが強まるのではないか」と、グローバル社会が修正を迫られる可能性も指摘する。

グローバル化が反転した場合、外国の人々との距離が広がり、共生への意欲が下がることが心配だという。自国のことだけ考えて外国への関心が薄れれば、他国の異なる多様な文化に共感できないメンタリティーが定着しかねない。「オンラインだけだと限界がある。フェイス・トゥ・フェイスの交流が一番大切だ」

一方、「今回の世界的な感染拡大でグローバル化の弊害も見えてきた」と言うのが、大和総研主任研究員の神尾篤史。「国を開くのはいいことだ」という価値観の下でグローバル化が進み、2国間や多国間で関税の引き下げや非関税障壁の撤廃が進んできた。中国がグローバル化の主役になれたのもWTO(世界貿易機関)に加盟したからだ。

ダボス会議での特別講演で登壇したトランプ米大統領=スイス・ダボス、世界経済フォーラム提供

ところがグローバル化が全ての国民の利益にはならないことが、ブレグジットや米トランプ政権の移民政策などで表面化。トランプ大統領は中国をやり玉にあげ、自国中心主義に走っている。今回の危機で国境の壁を低くしすぎたと考え、グローバル化を見直す国が出てくる可能性もある。そうなれば多国間の協定に影響が及ぶかもしれない。「ヒト、モノ、カネの動きが活発になるべきだという考えは揺るがない。ただ『鎧を着る部分は鎧を着る』ということになるだろう」

これまでは国家間がぎくしゃくしても、民間が関係を前進させてきた面があった。「ただ、今回は国・民間の両方で距離が生じる可能性がある。経済的にも平和的にも結びつきが弱まる懸念がある」とみている。(太田航、坂東慎一郎)