鈴木です。7歳の長男(ポコ)と夫(おとっつあん)と赴任した、ベトナムでの新聞記者生活を終え、帰ってきた特派員としてコラムを書いています。今回は旅についてのお話です。

「このGW、一緒に北海道に行きませんか?」

こんなふうに始まる書き込みを、カンボジアに住む友人の吉川舞さんのフェイスブックで見つけたのは4月下旬のことだった。新型コロナウイルス感染症対策で外出は自粛、旅行などもってのほか、と言われるこのご時世に、ぱっと見、なかなか挑戦的かつ刺激的な書き込みだ。この旅、じつはカンボジアで旅行会社Napura-worksを営む吉川さんが始めた「旅するZoom」という試みだ。ちまたで普及してきた会議システムZoomを使って旅をするという。

その数日前、吉川さんがカンボジアと日本をつなぐZoom旅の接続テストをするというので、日本から参加させてもらった。この連載の「カンボジアへ子どもと虫を食べに行った夏」というコラムで以前、訪問記を書いた、コンポントム州にある世界遺産サンボープレイクック近くの村とつなぐという。接続された画面に映ったのは、前に泊めてもらったホームステイを運営するカンボジア人のお母さんだ。裏庭に生えている植物や作物を使っていつものように料理を作っている。おーいおかあさーん!と画面のこちらから思わず手を振った。ポコやおとっつあんと見たあのカンボジアの青い空。そよぐ緑。きっと牛が近くをのんびり歩いたり、バイクが行き交ったりしているだろう。「ああ、行きたいなあ」と思わず声が出た。

Zoomでカンボジアの農村とつながり、料理をするホームステイのお母さんとお孫さんを見て、私も思わずにっかり=鈴木暁子撮影

接続テストはたった30分だった。その場に行った訳ではないのに、現地の風景を見て、プハー!と深呼吸ができた。そういえば先日、「巣ごもり中のリラックス方法」を紹介するテレビ番組で、「動物に触れあうのはもちろん、その写真を見るだけでもリラックス効果がある」という話を聞いた。それは風景も同じではないか。さわやかな青い空や、懐かしい風景を見たら、やっぱりリラックスする。その効果を実際に感じていたので、北海道へのZoom旅に参加してみようと思った。5月1日、5名限定、2500円でお土産がつくという。

北海道で私たちを待ってくれていたのは、士別市の「イナゾーファーム」でトマトや米などを作る農家の谷江美さんだ。画面に写る北の国の空はグレーで、遠くの山に残雪が見える。初夏の東京にいる私は、うっかり緑の北海道を想像していたが、かの地ではこれから本格的な春がやってくるのだ。「写るところはだいたいうちです」という広い敷地に、ゆうゆうとこいのぼりがそよいでいる。そのポールは森から切り出してきた木だというから、さすがでっかいどう。ビニールハウスの中で、夏の収穫に向けて育てているトマトの苗の様子を見せてくれた。「世間はステイホームですが、わが家はステイファームです」という谷さん。これだけ広いと、コロナ対策の「3密」など密集地域と同じ常識は必ずしも役に立たないだろう。

広い農場、この日はまだ寒そう。自分のいる場所と同じ季節ではないことを今さら思い出した=鈴木暁子撮影

谷さんは4人の子どもを含む9人家族で暮らしている。お子さんが通う学校は総児童数17人だ。新型コロナウイルスの経験をへて、「リモート学習などが普及すれば、いい学校に行くためだけに都会に住む必要もなくなるかもしれない。そのためにも、田舎がこれからの雇用の受け皿を用意しないといけないと思う」と話していた。農家としても、これからのことを考えている。「コロナ対応で、今はキュウリもブロッコリーもプラスチックで小分けして売られている。店側で小分けするには人手もいるし、感染リスクもあるからと、夏には『トマトも出荷側で小分けして送って』と求められるのでは」。ただ、プラスチックを大量に使うことにも抵抗があり、谷さんはコストがかかる箱入りで売ることも考えていると話した。

旅するZoomでつながった北海道の谷江美さん。トマトの小分けに使おうか思案している箱を見せてくれました=鈴木暁子撮影

参加者からは、「消費者目線だと、プラでも箱でもどっちでもいいかな」「少人数の学校で社会性を学ぶことはできるのかしら」「でも社会性ってなんだろう」といった質問や意見がそのつど出た。初めて会う人たちと谷さんちの居間にお邪魔しているみたいな、ざっくばらんな楽しさがあった。なんだろう、大人の社会科見学のような知的な楽しさ。接続を終えてから、わが家でもおとっつあんと「紙の箱だとよりエコだといえるか」といった話をした。

移動できないと旅はできないのか?旅ってなんだろう。

コロナ対策で国境も閉ざされ、人々が自由に外出しにくくなり、今までの常識が一変する中で、吉川さんにこの問いが湧いたことがすべてのはじまりだったという。ある日、吉川さんがカンボジアの村の庭先からZoom会議に参加したところ、そこに写る村の普通の暮らしの景色に「ほっとした」と話す人がいた。Zoomで旅をすることで、ちょっと元気になれるのではないか。思いがけず、参加した人たちの間ですごい話が出てきたりするかも。「家から出たらすべて旅」ということ、その可能性に吉川さんは気がついた。

わが家もポコを連れてしょっちゅう旅をしてきた。いつもと違う場所の空気を吸い、土地のものを食べ、温泉につかる楽しさは、疑う余地がない。でも、人と出会う「旅」はもっと気軽にできるのかもしれない。そんなことを考えていたら、ピンポーンと玄関のベルが鳴った。旅のお土産、谷さんの農場で作っているトマトジュースが届いたのだ。「田舎にいても、家にいても新たな出会いがあることは喜びです。でもいつかリアルにお会いできたらいいですね」と、手書きの温かいカードが添えられていた。今回の旅、在宅勤務で人と話す機会がなくなり、ちょっとさびしい気持ちになっている同年代の友人にすすめたいなと思った。吉川さんは親子向けや、カンボジアを舞台にした「旅するZoom」も実践している。どんどん面白いことが始まりそうな気がする。