新型コロナ 世界からの証言⑤ 中国から

新型コロナウイルスは昨年暮れに中国で感染者が初めて確認されて以来、瞬く間に世界に広がった。地域、世代、職業を問わず、世界中でだれもが日々の暮らしに様々な制約や変化を強いられた。人々はどんな変化に直面し、どんな思いを抱き、未来にどんな展望を描いているのか。グローブ編集部の記者が聞いた、統計数字からは見えてこない市井の人々のリアルな声をシリーズでお届けする。
5回目の今回は、中国・北京市在住、会社員栗思佳さん(32)が2002〜03年に流行した、重症急性呼吸器症候群(SARS)の教訓について語った。(構成・益満雄一郎)

中国の感染者数と対策

中国は世界で最初に新型コロナウイルスの感染が拡大した。感染が最も深刻だった湖北省武漢市を「封鎖」するなど強権的な防疫対策をとった結果、国内の感染は終息に近づいている。3日時点の感染者数は8万4200人、死者数は4600人(米ジョンズ・ホプキンス大の集計から)。

新型コロナの中、世界の人々はどう生き、何を考えたのか。世界各地からの証言です。

<ブラジルから>「保障も支援も理解もない」コロナ感染者急増のブラジルから、最前線の医師の訴え

<米国から>「感染したかも」病院で受けたコロナの検査、相手は防護服 残った複雑な思い

<フランスから>オンラインでは想像力も制約される 新型コロナで実感、何げない対話の価値

<イタリアから>コロナと子供 爆発的な感染拡大のイタリアで、母として保育士として感じたこと

<中国から>SARSの体験があったから自由の制限を我慢できた ある北京市民の実感

<台湾から>「不便」と言えば改善される コロナ対策で世界が注目、台湾は自信を取り戻した

<フィリピンから>検問でID、罰則に腕立て伏せも…地区ごとに細かなルール、フィリピンの感染対策

<ベトナムから>外出制限の暮らしの中で、大人も子供も身につけた知恵がある

<ザンビアから>オンライン教育と言われてもネットがない コロナに見舞われた途上国の苦しみ

<フランスから>働きながら子供2人のオンライン授業を支える母の苦労 でもいいこともあった

――新型コロナウイルスの感染拡大によって、身の回りの生活はどう変わりましたか。

中国では感染拡大後、人の密集を避けるため、多くの商業施設が閉鎖されたり、営業時間が短縮されたりしました。映画やショッピングセンターに行ったり、友人と食事をしたりできなくなりました。

最も不便になったと感じたのは宅配です。私の日々の生活から宅配を切り離すことはできません。しかし、自宅までは届けてくれないので、団地の入り口まで取り行かないといけません。ちょっと不便ですね。

北京市内の弁当などの出前には、配達者らの体温が書かれた紙が添えられるようになっている=2020年2月、平井良和撮影

子どもと一緒に公園に何度も行きましたが、北京の公園は前日までに予約する必要があります。多くの人が公園に集中して遊べなくなる事態を避けるために、私はとても良いことだと思います。

新しい動きといえば、友達の多くがちょっとした商売を始めました。みんな、SNSの微信(ウィーチャット)上でモノを売り始めたんです。卸売市場から調達した品物を転売して稼いでいます。給料が減ったので、穴埋めするのが目的です。

感染拡大が始まったころ、スーパーでは個別の商品が品切れになったことがありましたが、1月下旬の春節が終わってから状況は好転しました。

栗思佳さん(本人提供)

――家族や友人との関係に変化は。

春節期間中に感染が爆発したので、今年は父母や家族と一緒に年を越すことができませんでした。家族の健康を考えて、こうするしかなかったのです。

親戚や友人とはウィーチャットで、できるだけたくさん連絡を取るようにしています。直接会うことができないは残念ですが、これも悪くはないですよ。もどかしい面もありますが、生命の安全と比べれば大した問題ではありません。

感染が最も深刻だった数週間は、金融業に従事する夫と一緒に2週間ほど自宅で仕事をしました。夫は普段、出張が多いので、一緒にいる時間が増えました。とても良いことだと思っています。共同で生活する際、自分が使う空間と家族が使う空間をしっかり分けることが良いのではないでしょうか、そうすればお互いに干渉する事態を避けられます。

北京市内の民間検査会社のPCR検査場。発熱などがなくても希望者は誰でも受けられる。屋外で検体を採っており、車に乗ったままの「ドライブスルー」も受け付けている=2020年4月、平井良和撮影

■「テレワークの方が良い」

――働き方はどう変わりましたか。

私は会社で社内の人材育成に関係する仕事をしています。私は春節後、自宅でテレワークを始めました。子供は5月に生後9カ月となりました。私はテレワークのほうが好きかな。気ままに子供の世話もできます。夫の母に子供の面倒を任せてしまったら、母はとても疲れるでしょう。一般的にしゅうとめとの関係は微妙なことが多いですが、私たちはずっと関係が良いです。

ただ正直にいえば、私個人のプレッシャーは少し大きいとも思います。なぜなら、仕事をしながら子供の世話もしなければならず、夜はぐっすり眠れません。夫が職場での仕事を再開したので、夜も私が子どもの世話をしなければなりません。テレワークを行うには、計画的に物事を考える力とプレッシャーに耐える能力がなければ、仕事と生活のバランスがとれないのではないかと思います。

北京市内のファストフード店。席数が減らされ、一つの机の周囲には1人しか座れなくなっていた=2020年3月、平井良和撮影

――テレワークに変わって、どんな課題に直面していますか。

仕事と生活の二つの圧力があります。やるべき事が切れ目無く続きます。仕事が終わったらリビングに移り、すぐに子どもの世話をしないといけません。通勤していれば、路上で心を落ち着かせて休むことができたのですが、今はできなくなりました。

実は、テレワークを始めて間もないころ、上司との間にちょっとしたトラブルがありました。コミュニケーションの取り方が変化したので最初はなかなかなじめなかったのですが、努力を重ねて上司との関係は良くなりました。新しい労働習慣は一定の期間を経て、磨かれていくのではないでしょうか。今は完全に慣れましたよ。

――ワクチンの開発などにより流行が収束した後、以前のような元の社会や経済に戻ると思いますか。

やはり変化があるでしょう。テレワークはますます増えるでしょう。多くの人が自宅勤務をしても仕事の効率は落ちないことに気づいたと思います。中国や日本、韓国らアジア人は出勤して仕事をする習慣が欧米と比べて根強いと思いますが、今後、考え方は変わるんじゃないかかな。

■「SARSの経験がいきた」

――感染者がすごい勢いで増えた時期もありました。恐怖感はありましたか。

私は北京で2002〜03年に重症急性呼吸器症候群(SARS)を経験しました。あのときはたくさんの人が死亡し、本当に怖かったことをよく覚えています。だから、みんな今回、自由は制限されたとしても、命のほうが大事だからしっかり自宅にとどまったのだと思います。欧米では外出の自由を求める要求が強く、最終的には爆発的な感染につながってしまいましたが、私たちはSARSを経験したので我慢できたと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、北京市内の地下鉄ではすぐにマスク着用の義務化や入り口での体温検査が導入された=2020年1月、平井良和撮影

――経済活動は今後どうなると思いますか。

景気は今後、一定の期間内には正常に回復しないと感じています。私たちはいつもネットショッピングを利用し、出前サービスを使い、自宅に届けてもらっています。リアルな店は今後、おそらく競争力を失うでしょう。

――コロナウイルスの感染拡大で経済活動が停滞し、環境問題は改善されるとの見方もあります。

環境保護と経済発展は対立させるべきではありません。今回の感染を通して、私は科学の進歩が社会の発展に及ぼす重要性を感じました。科学技術の進歩と同時に経済を発展させ、環境を守るべきです。

■「相互に気配り、称賛に値」

――世界中が一斉に同時体験したコロナ禍によって見えた「世界」とは何でしょうか。

みんな相互に気配りをして、いたわるようになったことは、とても称賛に値します。一緒に努力してこそ共同で勝利できます。現在の地球はお互いにつながっています。国家や人種の違いで差別してはいけません。もしウイルスに勝てない国家が一つでもあれば、全人類の勝利ではなくなります。したがって、ワクチンや解決方法ができるだけ早く研究・開発されることを期待します。

――新型コロナ流行に関係して差別を受けたことはありますか。

私は今のところ、差別を感じたことはありません。外国の同僚は中国の感染が最もひどかったとき、私に対して配慮を示してくれました。しかし、その後、外国にも感染が拡大し、華僑や中国人が外国で差別を受けたと知り、差別を受けることについて心配になりました。少し過敏かもしれませんが、外国人が中国に反感を持つことを心配しています。

警察に封鎖された中国広東省広州市の通路。この地区にはアフリカ出身の黒人が多く暮らすが、外出を禁じられ、ひっそりしていた=2020年4月、益満雄一郎撮影

――国や自治体、会社からどのような支援を受けましたか。

私の会社は臨時手当を支給してくれ、4月の給料に追加されました。少し意外だったのですが、私の収入はまったく減りませんでした。会社がこのように配慮してくれて、とてもうれしかったです。

もし、公的な現金給付があれば支持します。感染拡大期間は食品価格が上昇しました。固定の収入がない人にとっては大きな困難となったでしょう。

低所得者層には現金を給付すべきだと思います。一方、現金給付には限界もあります。たくさんのお金をあげることは不可能ですし、根本的な問題の解決にはなりません。