新型コロナウイルスの感染者数が450万人以上、死者数が15万人以上と、世界でも最も多い米国。働き手のほぼ3人に1人がいったん失職し、4〜6月期の実質国内総生産(GDP)が年率換算で前期比32・9%減となるなど、1930年代の世界恐慌期以来となる不況が襲っている。その危機を脱するヒントとして、まさにその世界恐慌に立ち向かった大改革が再び脚光を浴びている。「ニューディール政策」だ。(江渕崇)

世界恐慌は、自由放任型経済が20年代に隆盛を極めた末に起き、ニューディールは政府が経済に深く介入する転換点となった。コロナ危機で顕在化したのも80年代から続く自由放任路線のゆがみ。ニューディールにならい、政府の役割を見直す動きが広がる。

米東部マサチューセッツ州ケンブリッジのジャン・デブロー(61)はツイッターで見かけた「感染追跡者」の求人に応募した。コロナ感染者がどうウイルスにさらされたのかを調べたり、接触した人に検査を促したり。突然の連絡に驚く人々に週5日間電話をかけ続けた。

州は4月以降、失業者ら1000人以上を採用。時給は27ドル(約2900円)と国勢調査員並みに高く、医療保険もつく。元市議のデブローは「感染抑制と良質な雇用。財源さえあれば、一石二鳥の仕組みだ」と話す。

こうした働き手を、連邦政府がお金を出して全米で何百万人も雇ってはどうか――。米エール大法科大学院教授のエイミー・カプチンスキーらは「コミュニティー医療部隊(CHC)」の創出を訴える。モデルはニューディールで生まれた市民保全部隊(CCC)だ。

米カリフォルニア州の河川の工事現場で撮影された市民保全部隊(CCC)(Franklin D. Roosevelt Presidential Library & Museum)

33年、民主党のフランクリン・ルーズベルトは大統領に就くと金融危機を鎮め、失業対策にとりかかった。ダム建設などの公共事業のほか、政府が直接失業者を雇う試みも始めた。その一つがCCCだ。職のない若い男性が何十万人も集まって合宿し、国立公園などで建設工事や植林にあたった。いまも各地の国立公園に彼らの像がある。ほかにも金融規制や預金保険、公的年金、最低賃金、労組の保護など、この時期にできた仕組みの多くは、長く米国の経済社会の基盤をなしてきた。

TVA(テネシー川流域開発公社)によるダム建設現場の写真(Franklin D. Roosevelt Presidential Library and Museum)

西部ユタ州はCCCと同様、失業者を公園整備にあたらせる計画を立てた。ニューヨーク州は、再生可能エネルギーに力点を置く。米国では高速ネット接続ができない地域も多い。次世代の高速通信「5G」の敷設に失業者を充てるアイデアも出ている。

ニューディール熱は米国内にとどまらない。「英国もルーズベルト的アプローチを取る時だ」。英首相のボリス・ジョンソンは、病院や道路などのインフラ整備による経済対策を、ニューディールになぞらえた。韓国の文在寅政権も「韓国版ニューディール」を模索する。

Tag Erneuerbare EnergienドイツのRWEリニューアブルズ社のアルコナ洋上風力発電所。新しい「ニューディール」でも再生可能エネルギーへの投資が増える可能性がある=ドイツ北部のバルト海、同社提供

■米大統領選を左右する可能性も

実は米民主党の左派では、コロナ前からニューディール待望論が広がっていた。「米国は幸運にもムソリーニやヒトラーのイデオロギーではなく、大胆で先見性のあるルーズベルトのリーダーシップを選んだ」。2016年に続き民主党の大統領選候補者選びに名乗りを上げた上院議員、バーニー・サンダースは自らをルーズベルトに重ねてきた。左派の新星、下院議員アレクサンドリア・オカシオコルテスは、何兆ドルものインフラ投資などで温室効果ガス排出をゼロにする「グリーン・ニューディール」を昨年ぶち上げ、大論争を巻き起こした。

ニューディール型の経済政策は、インフレと不況が同時に進む「スタグフレーション」によって70年代に支持を失った。08年のリーマン・ショックを経験した後ですら、政府が膨れ上がることへのアレルギーは、共和党だけでなく民主党主流派にも根強かった。

この構図をコロナが変えた。財政による「人工呼吸器」なしでは経済が持続できなくなったからだ。トランプ政権と議会の与野党は計3兆ドル(約320兆円)を超す経済対策にあっさり合意。1人最大1200ドルの現金給付や失業保険の大盤振る舞い、救済企業に対する解雇や自社株買いの規制など、以前なら考えにくい左派的な政策を実行した。

トランプ米大統領

これにより政府の債務残高はGDP比で100%を超え、第2次世界大戦時より悪化する見込み。「インフレさえ起きなければ財政赤字を気にせず支出できる」と説く現代貨幣理論(MMT)を地で行くような財政の拡大ぶりだ。歴史家のニーアル・ファーガソンは米テレビで「『金のなる木』は存在しない。いずれ財政を安定させなければ」とクギを刺したが、こうした懸念は後景に退いている。

米大統領選は3カ月後。民主党候補となる前副大統領ジョー・バイデンはコロナ禍からの復興を「ルーズベルトが直面したものを陰らせるほどのものだ」と語った。党主流派の代表格だが、候補者指名を争ったサンダースも「ルーズベルト以来、もっとも進歩的な大統領になりうる」とエールをおくる。

支持者を前に演説するジョー・バイデン前副大統領

全米に広がる黒人差別反対運動も、米経済が抱える構造的なゆがみに光を当てた。米労働史に詳しいニューヨーク市立大教授、ジョシュア・フリーマンは言う。「大恐慌時にニューディールが実現したのは、失業や住宅をめぐり政治に対処を迫る国民的運動が盛り上がったから。バイデンが『次のルーズベルト』になれるのかも、そこにかかっている」

合わせて読む

コロナショックを受け各国が経済対策を打ち出すなか、政府がすべての国民に最低限の生活費を継続的に支給する「ベーシックインカム(BI)」が注目を集めている。大恐慌以来の危機に、政府ができることは何なのか。そんな課題をコロナが突きつけた。

コロナ禍で注目のベーシックインカム 日本でできることを考える