新型コロナウイルス感染症の予防ワクチンを複数国で共同購入する国際的な枠組み「COVAXファシリティー」に日本も参加を検討している。3日、公明党の会合で政府が明らかにした。日本内には一時、COVAXに米国や欧州連合(EU)も巻き込み、8月末にも開かれる予定の主要7カ国(G7)首脳会議で目玉にすることを期待する声も上がったが、国際的なワクチン獲得競争に血眼になる各国が同調せず、実現に至らなかった。浮かび上がったのは、国際社会を牽引する国がない「Gゼロ」時代の国際協調の難しさだ。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

新型コロナが世界全体を覆う問題となった今、新型コロナのワクチンは発展途上国だけでなく、先進国も必要とするグローバルな商品になった。今後生産されるワクチンをどう分け合うか。全米医学アカデミーは、国際社会の医療学術関係者らと協力し、WHOや、ワクチンの普及に取り組む国際機関「Gaviワクチンアライアンス」、「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」などの支援を受け、共同購入の枠組みとしてCOVAX構想を立ち上げた。この構想では、先進国用と途上国用でワクチンの価格に差をつけるほか、先進国への供給量には人口の2割までといった一定の制限を設けたうえで資金拠出を求めるとしている。

ワクチンの大量生産ではCEPIの、各国への分配ではGaviのそれぞれの経験を役立てる考えだった。途上国支援という従来の枠組みに、先進国を資金の供給源としてだけではなく支援対象として巻き込むことを目指した。

世界保健機関(WHO)UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)親善大使を務める武見敬三参院議員によれば、COVAXへの参加を日本に呼びかけたのは全米医学アカデミーのビクター・ザオ理事長だった。ザオ氏は4月初め、ワクチンを大量生産し、数カ月単位での供給を可能にする総額150億ドル(約1兆6千億円)規模の国際コンソーシアムを結成しようと呼びかけた。

武見氏は加藤勝信厚労相に報告し、「感染症の脅威が高まる時代の変化に合わせた新しい国際的な取り組みだ」と説明し、COVAX参加への道を探った。厚労省幹部と共に、ザオ氏とのビデオ会議を重ねた。中国を除く、米国、欧州連合(EU)、日本などの先進・中堅国グループ国が中心になった枠組みを構築することを目指したという。

日本は第2次補正予算で、新型コロナのワクチンや治療薬開発などに600億円、ワクチンの大量生産のための体制整備に約1500億円を投入したが、国際的な獲得競争に勝ち抜く確信を得られないでいた。米国やEUも参加する枠組みなら、ワクチンを間違いなく獲得できるだろうという計算もあった。

武見氏は6月、G7やG20で保健・財務大臣会合を推進していた財務省の承認を得たうえで、米国が主導してCOVAXを提案すれば日本も参加するという基本方針をまとめ、ザオ氏に日本政府の提案として伝えた。もし米国が主導するなら、8月末にも開かれるG7首脳会議で、日米でこのプランを共同提案することも可能だとした。

だが、数日後にザオ氏から来た返事は「残念だが、ホワイトハウスを説得できなかった」というものだった。武見氏はザオ氏の考えについて「米国はすでに英国の製薬会社から3億回分のワクチンを購入する契約を結び、さらに巨額の予算でワクチン獲得を目指していた。トランプ大統領は、国際的な枠組みに関心がなかったのだろう」と語る。

米国は、中国寄りの姿勢が目立つとしてWHOへの批判を強めている。WHOがCOVAX構想を後押ししている事実が、米国の不興を買ったのかもしれなかった。

日本やザオ氏の最初の構想では、日米のほか、欧州連合(EU)諸国なども加わるはずだった。だが、EUは6月に独自のワクチン開発・獲得のための枠組みを発表し、COVAXへの参加に関心を示さなくなったという。

現時点でCOVAXへの参加に関心を示している主要国は、日本のほか、カナダ、スイス、豪州、シンガポールなどという。こうした国々が全て参加すれば、なお、有力な枠組みと言えそうだが、日米協力の象徴にしたかった日本のもくろみは外れた。

COVAXは枠組みが固まり次第、参加各国に一定額を前払い金として支払うよう求めている。ワクチン開発に取り組む複数の製薬企業の研究開発などに使われ、開発に成功した場合、出資国は人口の20%分を上限にワクチンを確保できる。日本が参加した場合、必要な資金150億ドル(約1兆6千億円)の1割を負担することになりそうだ。

ザオ氏は7月末、厚労省幹部と武見氏とのビデオ会議で、カナダ、スイス、豪州、シンガポールでつくる「COVAXコアメンバー」に日本も参加するよう改めて求めてきた。

ただ、日本側はコアメンバーに入ることについて、資金負担を前提条件にしないようザオ氏に求めた。武見氏は「日本政府はワクチン獲得のために、英国などの製薬会社と個別に交渉している。米国も参加しない以上、製薬会社との交渉がうまくいくかどうかわからないCOVAXに、必要以上に頼る必要はないという計算も働いているのだろう」と語る。

新型コロナウイルスのワクチン獲得を巡っては、国際社会で激烈な競争が繰り広げられている。各国は有力な製薬会社と個別に交渉し、自国に有利な取引に持ち込むために各国の動向の把握に血眼になっている。

武見氏は日本の当初の構想が崩れた背景について、ワクチン開発競争から出遅れて国際的な影響力を十分行使できない日本の事情や、ワクチン開発・獲得競争で各国の「自国ファースト主義」がむき出しになった背景があると分析する。

「保健医療分野では現在、国際社会を牽引する国家がいないGゼロの時代が始まっている。COVAXへの参加は、米、中、EUではないミドルパワー国家として、国際的な影響力を発揮する貴重な機会になるはずだ」