1930年代、世界を襲った大恐慌を克服するためにフランクリン・ルーズベルト米大統領が行った、社会・経済政策ニューディール。気候危機が叫ばれる中、世界で環境と社会経済政策を一体化させるグリーン・ニューディールを求める声が広がっている。欧州や中国の国家計画のアドバイザーとして、政策を提唱してきた文明評論家のジェレミー・リフキン氏(75)に聞いた。

――近著『グローバル・グリーン・ニューディール』(NHK出版)で、化石燃料を使う文明は2028年に終わると予言していますね。

私の推測ではなく、あらゆる経済分野の最新研究から導き出した結果です。太陽光と風力発電は指数関数的にコストが低下し、天然ガスより安く、原子力はもはや勝負になりません。太陽と風は請求書を送ってきませんから、電気を作るための限界費用はゼロに近くなります。

巨大な経済の破壊はいつもインフラから起きます。とくに市場の力は強い。過去数年で化石燃料から11兆ドルもの資金が逃げました。ニューヨークやロンドン、ベルリンの公的年金基金が投資を引き揚げ、保険会社も続いている。独フォルクスワーゲンは28年には、2200万台を電気自動車にするとしています。

将来、石炭や天然ガス、石油は掘り出されなくなり、パイプラインも精製所も稼働できなくなる。米金融大手シティグループは、このような「座礁資産」が100兆ドルに上ると予測しました。液化天然ガス(LNG)の最大輸入国で、世界3位の石炭輸入国である日本への影響は、どの国よりも深刻です。

――化石燃料に頼ってきた今の文明を、どう転換させれば良いのでしょうか。

歴史を振り返ると、コミュニケーション、エネルギー、移動・物流の三つの新技術が同時に広がった時、大きな転換が起きています。19世紀の第1次産業革命では、英国で蒸気機関を使った安価な印刷技術が発明。公教育を可能にし、新聞や雑誌が生まれ、電信もできました。新エネルギー源である石炭により鉄道網が敷かれ、都市国家と農村という小さな市場から、国内市場が誕生。統治するために国民国家となりました。化石燃料の採掘や精製、鉄道の建設に必要な資金を集めるため、資本主義が広まりました。新たなインフラが、新たな経済システムと政治体制を生み出したのです。

20世紀の第2次産業革命は米国が主役でした。コミュニケーション革命は電話に始まり、ラジオ、テレビに。石油がエネルギー源となり、内燃エンジンを使った自動車が新たな移動手段になりました。都市は郊外へと広がり、コンテナ船とジェット機による国際化時代に対応し、国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)、世界銀行が生まれました。

第2次産業革命で生まれ、化石燃料で動く今の文明のインフラは、あと10〜15年で総効率がピークになります。そこで私は、第3次産業革命が必要だと、ドイツのメルケル首相に進言しました。

――第3次産業革命とは?

デジタル革命です。AIやロボットだけを指して第4次産業革命という人もいます。人類は近い将来、デジタルでつながることになります。ビッグデータのアルゴリズムで統治されたネットは、再生可能エネルギー網と統合。何百万もの中小企業、農家、協同組合、地域組織、大企業が参加して、太陽光や風力で作った電気を集め、余った分は何百万もの人々に共有される。移動・物流もデジタル化され、電気や燃料電池で走る乗り物が、自動運転で移動します。スマートセンサーが世界の工場、農場、家や車に付けられ、すべてがインターネットの上に成り立っています(IoT)。人類を結びつける世界的な脳と神経システムを作り出すようなものです。世界(グローバル)と地域(ローカル)が一緒になる「グローカリゼーション」がもたらされます。

――そのような仕組みは、すぐにできるのでしょうか。

すでにこれに近い世界が始まっています。何億人もが音楽やSNSを共有し、ネット授業を受けて大卒資格を取り、ウィキペディアに貢献し知識を作り上げている。地域ではエネルギーを地消しています。こうしたシェアリングエコノミーは資本主義や社会主義以来の新たな経済システムです。総効率は劇的に上がり、固定費も温室効果ガス排出量も下がります。

売り手と買い手がやりとりする資本主義市場はデジタル世界では遅すぎる。今後は、サービスの提供者と利用者の関係に変わる。グリーン・ニューディールは、デジタルで賢い第3次産業革命のインフラを作るためのビジョンです。

――日本では議論が進んでいません。

ここ2年が、日本が大国の一つにとどまれるか、二流国に落ちるかを決定づけます。エネルギー分野はアキレス腱(けん)です。欧州ではすでに30%が再生可能エネルギーの国があるが、日本は7%。化石燃料の輸入に固執し、石炭火力で電気自動車の電力をまかなっていては高くついて、温暖化も進む。日本は世界初の水素社会を宣言しました。日本独自のグリーン・ニューディールといえるでしょうが、これは豪州で褐炭を買い付け、水素にして、CO2を地中に戻すというもの。ビジネスの観点から見ると高すぎます。

――最年少29歳で米連邦下院議員になったオカシオコルテス氏ら若者がグリーン・ニューディールを提案しています。

今の状態を人類の危機と捉えている古い世代の政治家は少ない。希望はZ世代やミレニアルと呼ばれる若い世代です。気候危機や人類が絶滅するような出来事に直面して、我々が今後も存続していけるか、今が決定的な時で、世界的なグリーン・ニューディールが必要だと訴えています。この世代が、史上初めて、国民国家や、宗教や地域と関係なく、人類が絶滅の危機にある一つの種だと考え始めた。意識の力強い変化です。(聞き手・香取啓介)

Jeremy Rifkin 文明評論家。1945年米国生まれ。TIRコンサルティンググループ代表。歴代欧州委員会委員長のほか、メルケル独首相のアドバイザーを務めてきた。著書に『限界費用ゼロ社会〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭』など。