昨年の破談から1年が経とうとしているが、ここにきてようやくリロイ・サネのバイエルン・ミュンヘン移籍が決定した。

マンチェスター・シティは、このドイツ代表の移籍に伴い、まずは4900万ユーロ(約58億円)を受け取り、次いで1100万ユーロ(13億2000万円)を手にすることになる。

契約最終年となるサネの価値が正当に評価された額だと言える。特に、コロナウイルスの大流行が招いた移籍市場の不確かな状態にあって、これだけの額が提示されれば、マンチェスター・シティは満足するべきだろう。

しかし、いくつかの疑問も残されている。サネは1月に24歳になったところで、選手としてのピークはまだまだこれから。なぜシティは、将来性豊かな彼を引き止めなかったのだろうか。

また、考えざるを得ないのが、昨年夏に交渉がまとまっていれば、シティはバイエルンからもっと多くの大金を手に入れることができたのかではないかということだ。実際は移籍ウィンドーが閉まる数日前、コミュニティ・シールドの試合中に膝を負傷してしまい、結局移籍は破談となってしまったのだが。

しかし、もっと大きなことがもう一つ頭をよぎる。エティハド・スタジアムに残っていたらどれだけの功績を残せただろうか、ということだ。

■シティ挑戦で飛躍

ペップ・グアルディオラはサネの残留を望んでおり、「私としては残ってほしかったが、彼は向こうのクラブがベターで、より幸せと感じたのだろう」と話していた。

実際、ある時点では契約延長も間近だった。しかし、バイエルンがサネへの興味を公言するようになり、当時の監督であったニコ・コバチや、ドイツ代表監督のヨアヒム・レーヴが移籍のメリットを公に話すようになると、このアタッカーの考えも変わっていく。ペップはサネの決断をこのように振り返っている。

「負傷して手術をする前から交渉を続けてきたが、彼はこのオファーを断ったんだ。彼には他にやりたいことがあったことは私も分かっていたが、我々が欲しいプレイヤーは、クラブの目標到達にコミットできる選手だ。彼のことはとても好きだし、素晴らしい選手だ。私は何も反対しない。彼は他の挑戦を望んでいるだけなんだ」

とはいえ、サネはシティで大きな成長を遂げ、プレミアリーグでの挑戦は選手とクラブ双方にとって良いものになった。

大きな可能性を見せていたシャルケ時代ではあったが、シティが2016年夏に3700万ポンド(約50億円)もの移籍金を彼に投じたことは、当時はギャンブルとして伝えられていた。

だが、サネのスピードやピッチを広く使う特性が功を奏し、シティはプレミアリーグで2度優勝することができた。さらにリーグカップ2回、FAカップ1回の優勝も経験。その中でサネ自身もグアルディオラの指導によってめきめき成長し、2017-18シーズンの若手最優秀選手賞にも選出された。

昨シーズンはリヴァプールを相手に決勝ゴールを決め、その時見せた輝かしいランとフィニッシュが優勝争いに不可欠な存在であることは明らかだった。そしてチャンピオンズリーグではシャルケとのアウェー戦で目の覚めるようなフリーキックを決め、チームをベスト8進出へと導いた。

■なぜドイツへ戻るのか?

だが、ペップはサネに「それ以上」を期待していた。もっとやれる選手だと信じていたからだ。

だからこそ、2018年のFAカップで、バーンリー相手に4-1で勝利した後も「リロイはシンプルなプレーでミスをする。とても大きいミスだ。もっと成長しなくてはならない。彼の才能は特別だ。彼のゴールが必要だが、ディフェンスについては…ただ後ろに下がるだけ」と辛口の評価を口にしていた。

確かにサネの運動量については常に疑問視されてきた。その結果チームでは出場機会が減少。2017-18シーズンの終盤には、ロシア・ワールドカップのメンバーから漏れるサプライズも経験してしまった。

夏のオフの後クラブに戻り、プレシーズンツアーとしてアメリカに向かったが、強い印象を残すことはできなかった。しかも、W杯から戻ってきたチームメイトがすぐに活動を再開した一方で、9月中頃まで活動再開しなかったのだ。

サネにとってこれからのシーズンは重要だ。来年には延期されたEUROがあり、その次にはカタール・ワールドカップもある。レーヴが「彼はブンデスリーガにいればスターになっているだろうね」と発言したことも、母国に戻りたくなった要因のひとつかもしれない。

バイエルンに加入することで、ブンデスリーガを席巻するチームの一員として輝きを放つチャンスを得ることができる。クラブは8連覇中で、今季のCLでも今や優勝候補筆頭だ。

サネの心は昨夏にはすでに決まっていた。膝の負傷を負った際の行動は決定的だった。診療を受けたのが、グアルディオラの信頼する外科医ラモン・クガートではなく、バイエルン、そしてドイツ代表のドクターでもあるハンス=ヴィルヘルム・ミュラー=ヴォールファールトであったのだ。

何はともあれ、全員が満足する契約になるだろう。バイエルンはスターだと信じる選手を獲得でき、サネの年俸は大幅に増加し、シティはふさわしい金額を受け取ることで他の代役を探すことができるのだから。

まさにWin-Win-Winの移籍だった。あとは、10番を背負ったサネが、正真正銘バイエルンの主役となるだけだ。