身長153cm。トップリーグ最小の体で大きな選手を相手に戦っている秦一平選手。ラグビーには不利だと思われる体でも、ボールを持つと巨漢の選手の間をかいくぐり、また臆することなく鋭いタックルをする。グラウンド内ではまさに「小さな巨人」!強くたくましくプロスポーツ選手として生き残るための心掛けは「小さいことを気にしない。無理をせずに、自分が生かせることをする」とのこと。

チーム内で役割は
もう30歳なので、チーム内ではベテランの位置にいて、リーダーシップグループのひとりとして動いています。僕は9番(スクラムハーフ)、10番(スタンドオフ)のグループにいて、そこのポジションの選手から出る意見を吸い上げています。選手全員が監督やコーチと話せるわけではないので、いろんな意見をまとめて伝えたり、それに対しての指示を受け取って選手たちに戻したりすることが役割だと思っています。でも普段は面倒くさがりで、自分のペースで動いているただの小さなおっさんです(笑)。

—身長153cm。トップリーグ最小選手としての生き残るには
ラグビーは「スクラムハーフ」という小さい人でもできるポジションがあったのがいちばん大きいです。だから、そこに特化したプレーをするだけ。

「小さいから何かしないといけない」みたいなプレッシャーは感じたことがないです。どちらかというと、小さいとタックルができない、当たり負けするってマイナスな感じで思われがちなので…。基本は負けず嫌いな性格なので、そう思われるのが嫌。“小さくてもタックルできるぞ”って証明したいからこそ、コンタクトプレーもしっかりやろうと思ってます。

「小さい」「大きい」と気にするのではなくて、大きな選手と同じようなプレーができるって気持ちでタックルなども練習しています。小学校からずっと小さかったので、大きい人に当たりにいくというのはもう自分にとっては普通のことなんです。

もちろん、成長期には「身長がもっと伸びれば」と思ったこともあります。でも家族みんな小さいので、これが限界かなと感じました。トップリーグに入りたてのときも、大きい選手に負けないように筋トレで無理やり55〜56kgに増やしたこともあるんです。

だけど筋肉を増やしても、体が重くなっただけで全然動けなくなった。それに、もっと大きい相手からしてみたら自分のプラス2〜3kgってあまり変わらないんですよね(笑)。だから、自分がいちばん動ける52〜53kgをキープすることにしました。

そうすることで素早さは維持できて大きい選手の間をするすると走り抜けることができますし、小さいからこそタックルも自然と低く入ることができて、相手を驚かせることもできます。体を生かしたプレーをすれば、小さくてもできることはあるんです。小さいことは個性のひとつです。

—小さい体で得したことは
この体でラグビーをやっているので、テレビや雑誌などのメディアに取り上げられることが多いです(笑)。いちばん驚いたというか「えっ、ここに出られるの!?」って思ったのが、吉本新喜劇の舞台ですね。チームが大阪にあるので、なんばグランド花月で『よしもとラグビー新喜劇』というものが開催されるときがあるんですけど、そこにゲストで出させてもらったことがあります。自分より身長の低い池乃めだかさんと共演できたのもいい思い出です。

あとは小学生などから「体が大きくないのにすごい」「勇気がわきました」などの手紙やメッセージをもらえることも励みになっています。“小さいからこそ誰かを励ますこともできるんだ”と思えるようになりました。

—ラグビーを続けてきてよかったと思うこと
いいチームメートに巡り会えてきたことです。小学4年から続けていますが、特にラガーマンになりたいって思ったことはなかったんです。

今まで続けられたのは、ラグビースクールのチームメートたちが、中学に上がっても続けると決めたり、「強いところに行きたい!」って気持ちの人が多かったりしたから。「じゃあオレも…」って感じで自然に目標設定が高くなって、ラグビーの強い高校や大学を目指せました。いい方向に流されてきたって感じです(笑)。そして大学卒業前に今のチームに声を掛けてもらえて、トップチームでできるならプレーしたいなと思って所属しました。

個人的な欲もなく、高校なら“この3年間で優勝したい”、大学では“日本一になりたい”という感じで、目の前にあるチームでの目標をいかに達成するかという意識の積み重ねが今につながっています。今でも、“チームをもっと強くさせたい”という思いで練習やトレーニングに励んでいます。

ラグビーはいろいろな国の選手が日本でプレーしていることが多いので、ニュージーランドや南アフリカ、トンガなど、普段生活をしていたら出会うことがなかった国の人たちと敵味方関係なく話せることも、すごくいい人生経験にもなっていると思ってます。

—オフのリラックス方法は
連休があれば温泉に行ってのんびりするのが好きです。ひとりでふらっと行くこともあります。おすすめは大分県の別府と湯布院の温泉です。普通の土日だったら何もしないでぐだぐだしてることが多いかな(笑)。

チームの同期や年が近い選手、佐藤善仁、土屋鷹一郎、小樋山樹と仲が良くて、年1回旅行するのもリフレッシュになっています。同期での旅行は8年くらい続けてるんですけど、こんなに仲が良いのは僕らの代だけだと思います。

大阪で集まってご飯を食べるときは、ヴィンピー(・ファンデルヴァルト)やジョセファ(・リリダム)も一緒のことが多いです。ラグビー以外のことでも交流していると、絆はより強くなっていると思います。なので、一緒に試合に出られるとすごくうれしいです。働いている方でも、同期などとプライベートでも仲良くしていれば仕事のパフォーマンスの向上につながると思います。

秦一平(はた・いっぺい)1990年2月1日生まれ、福岡県出身。ポジション:スクラムハーフ(SH)、153cm/53kg。小学4年生のときに、幼稚園からの友達に誘われて、ラグビースクールに通う。筑紫高校ではラグビーに入部し、その後、明治大学へ進学。大学2年、3年時に全国大学ラグビーフットボール選手権大会ベスト4入り。U-20日本代表候補に選出経験あり。2012年より、NTTドコモレッドハリケーンズに所属。