オバマ氏が勝ち取った「バラクベリー」の気苦労 コラム「東京から見るオバマのアメリカ」(3回目)

感動的な弁舌、説得力ある経歴、筆一本でも食べていけそうな文章力、大統領就任までのドラマチックな旅路、なかなかのルックス、美人で優秀な奥さんに可愛い娘たち――。バラク・オバマ米大統領というと、こういう「すごいなあ」的部分ばかりが強調されてきました。けれどもその一方で、手放したくない手放せない、「中毒」しているものがあって、そのこだわりぶりがなかなか人間臭くて微笑ましい。片方はタバコで、もう片方は携帯電話。オバマ氏は選挙や重要法案に勝利するほかに、愛する携帯電話を使い続ける権利をもついに勝ち取ったわけですが、だからといって気苦労の種が消えたはずもなく。 (gooニュース 加藤祐子)

○ 英雄、タバコと携帯を好む

バラク・オバマという人は、これが古代とか中世だったら、とっくの昔に彼を称える長大な叙事詩とか「オバマ戦記」とかが記されていたのではないかと思うのです。ホメロスとか三国志とか平家物語とかシェイクスピアとか、そういう感じで。それくらい、いかにも伝説の英雄譚めいたところが彼にはあります。「英雄」の必須条件とも言える「父がいない」という条件も、見事にクリアしているし。

選挙戦中から、彼を英雄扱いしたり、下手をすると聖人扱いしかねない異様な空気がありました。たとえば、バスケのうまい学生だったのは間違いないけれども、「英雄オバマ」フィルターにかかると、過剰に「名選手」扱いされたり(おまけに今でも、ここぞというカメラチャンスで見事にスリーポイントシュートを決めてしまったりするので、ますます伝説化が過剰に……)。

そんなちょっと危うい状況にあって、ニコレットで禁煙したはずのオバマ氏がなかなか完全には禁煙できずにいると認めたのは、「なんだ自分たちと同じじゃん」と思わせてくれる、ホッとする一面でした。

そしてもうひとつ、オバマ氏の人間臭い一面をうかがわせてくれる数少ない話題のひとつが、「携帯中毒」ぶり。大統領になったら、愛する携帯端末「ブラックベリー」は諦めなくてはならないと警備当局から言われたのを、とことん戦い、戦い抜いて、ついに勝利を勝ち取ったという顛末です(とはいえこういうエピソードは、長大な英雄譚に欠かせない息抜き的な逸話扱いされたりしてしまうわけですが)。


○すべてが公文書に

なぜ大統領の携帯電話利用が問題かというと、セキュリティ問題が最大の懸念なのはもちろんですが、そのほかに「1978年の大統領記録法」という理由があります。大統領の公務中の通信は全て公文書として記録され、やがては国民に公表されるという決まりです(国立公文書記録管理局が管理し、大統領ごとに作られる記念図書館に所蔵される)。大統領が外部にあてる通信文は執務室の外に控える職員が正式に発信するし、大統領はおろかホワイトハウス職員の使っていたコンピューターも、政権移譲と同時に使用が凍結されてハードディスクごと記録として保管されるようです(ドラマ「The West Wing」にそういう場面が)。

だから逆に言うと、大統領と携帯メールでやりとりする人は、自分のメールが基本的には、公文書として長年保存され、国民に公開されるつもりでいる必要があります(ごくごく一部の例外として、本当に私信でしかないものは、除外されることもあるそうですが)。なので、(そんなことはなかろうとは思いますが)自分の個人的な悩み事を大統領にメールで相談したり、同僚の悪口を大統領メールに書き連ねたりはしないほうがいいだろうと。

オバマ大統領以前はどうしていたかというと、携帯電話が普及していなかった時代はともかくとして、クリントン大統領もブッシュ大統領も公務中は基本的には使っていなかったようです。パソコンさえも。「Slate」のこの記事によると、クリントン大統領はときどきラップトップを執務室にもちこんでインターネットに接続していたけれども、公務中のメール送信はたった2回だけだったとか(1度は「送信」が押せるかどうか試すため。2度目はスペースシャトル上のジョン・グレン上院議員あてに。そして議員からの返信は、クリントン大統領のメールボックスに直接届いたのではなく、専属秘書を経由したのだそうです)。

ブッシュ大統領は就任直前に、私用のメールアカウントを破棄。「whitehouse.gov」のサーバ上にも専用アカウントをもたなかったとのこと。またブッシュ政権中は、ホワイトハウスのサーバからFacebook、YouTube、TwitterなどSNSサイトへのアクセスが禁止されていたとか。

オバマ氏はことし年男の丑年で現在47歳。ブッシュ氏は62歳。クリントン氏も62歳。一回り以上の年齢差があります。各自の性格や人との接し方の違いもさることながら、インターネットや携帯端末と何歳で出会ったかによる違いは、思いのほか大きかったようです(私はオバマ氏より少し年下ですが、確かに、仕事で携帯やパソコンが自由に使えない状態というのは、ちょっと想像できません。自分の仕事を米大統領と比べるのもアレですが)。


○バラックベリーの正体、謎に包まれ

どういうセキュリティ対策がとられた結果、大統領が携帯端末を使えるようになったのか、ホワイトハウスはもちろん公表していません。そしてオバマ大統領が使い続ける権利を勝ち取った携帯端末(今や通称「バラクベリー(Barackberry)」)は、いったいどういうものなのか? 

ギブス報道官は「大統領はブラックベリーを使い続ける」と繰り返し発言したので、どのマスコミも「ブラックベリー」だと書いているけれども、あれは本当にブラックベリーなのか? 大統領は22日、何かそれっぽい携帯端末を手に報道陣の前を通り過ぎ、そして「戦いには勝ったけど、まだ動いていないみたいだ」と発言。手にしていた銀色っぽい携帯端末についてIT系専門のニュースサイト「Network World」は「あれはブラックベリーじゃない。Sectera Edgeではないか」という複数専門家の意見を記事にしています。

国家安全保障局(NSA)が承認した「超暗号化パッケージ」を使った端末だろうとか、国防省が認可した特別仕様のブラックベリーではないかとか、色々な憶測が飛び交っています。またブラックベリーはハッキングされやすいので、高度のセキュリティを必要とする連邦政府職員がすでに使っているジェネラル・ダイナミクス社とL-3 コミュニケーションズ社共同開発の「Sectera Edge」を使うのではないか(あるいは使うべき)などの憶測も、ネットを飛び交っていました。そして「ブラックべりーとSectera Edgeを組み合わせたものこそ、バラックベリーだ」などという憶測も。

ただしAP通信のこちらの29日付記事にある、執務室へ向かう大統領が実際に何か端末で作業している写真を見ると、Sectera Edgeというよりはブラックベリーに見えるのですが。外見上は。

機種やシステムが何にせよ、オバマ氏はこの端末を使って、親しい身内や友人や側近たちと、これまで通りやりとりできるようになったようです。それは「大統領職というガラスの檻」に閉じ込められて外界との接触を遮断されてしまいがちな立場にあって、そもそも彼をその位置に送り込んだ支持者と接触し続けるために、オバマ氏としては譲れない一線だったのでしょう。それは良く分かります。

一方で、シカゴ・トリビューン紙のこの記事が指摘するように、大統領がもつ端末とその回線が盗聴されたりハッキングされる危険もさることながら、オバマ氏と携帯でやりとりできる一部の人の誰かが、弱点となる危険の方が大きそうです。シークレットサービスに常に守られている大統領と違って、大統領と携帯でやりとりする相手がそんなに24時間体勢で護衛されているとも思えない。相手の携帯が悪意で盗聴・ハッキングされることも考えられるし、その人がうっかり携帯端末を紛失することも考えられる。

その昔、パリス・ヒルトンの携帯電話がハッキングされて、アドレスブックに登録されていたほかの著名人たちの情報が流出してしまったことがありました。まさかオバマ大統領がパリスと携帯でやりとりすることはないだろうけれども、大統領と携帯でやりとりする特権を与えられた人たちには、なかなか気苦労なことだろうなとはお察しします。


<訂正とおわび> オバマ大統領就任演説で、「We the People」という表現について「独立宣言」の冒頭と訳注していたのは誤りです。正しくは「合衆国憲法前文の冒頭」です。訂正してお詫びします。

<このコラムのバックナンバー>
「オバマ大統領最初の100時間、まるで平和的革命のような」(2009年1月26日)
「真のライバルを使いこなすかオバマ新大統領、いよいよ就任式」(2009年1月19日)
大統領選中のコラム「大手町から見る米大統領選」はこちら。

<筆者紹介>
加藤祐子(かとう・ゆうこ)
 ウォーターゲート事件や1976年大統領選の頃をニューヨーク の小学校で過ごす。オックスフォード大学国際関係論修士。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイト「CNN.co.jp」で 2000年と2004年米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。


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