「ヘマをした」と認めるオバマ大統領の潔さ コラム「東京から見るオバマのアメリカ」(4回目)

誰だって自分の間違いを正直に認めるのは勇気のいること。まして一国の指導者ともなれば。けれどもオバマ米大統領はさにあらず。就任わずか2週間にして「ヘマをした」と潔く認めたその姿に、「こういう政治家は見たことがない」と今更ながらにびっくりしました。(gooニュース 加藤祐子)

○ 潔さが肝心

ブッシュ前大統領は任期8年の最後の記者会見でようやく、「私の物言いには一部、誤りもあった」と認めました。さらにその前のクリントン元大統領は「あの女性と性的な関係をもったことはない」とか言い訳したり(「性的な関係」の定義でメディアが真面目に議論する羽目になったり)、それでも「不適切な関係があった」と言葉を弄したり。

一方でオバマ大統領。イラク戦争やインターンとの不倫といったレベルの問題ではないにせよ、閣僚人事のトラブルについて3日、自分に不手際があったとあっさり認めました。「I screwed up」と。「失敗した」と正攻法で訳してもいいのですが、この「screw up」という語感は「ヘマした」、あるいはもっと言えば「ヘタ打った」でもいいくらい。それくらいざっくばらんな物言い。それだけにCNNでこれを観たとき、ちょっと口があんぐり開きました。一国の指導者がこうも潔く自分の間違いを認める姿を、見たことがあっただろうかと。

厚生長官に指名していた民主党のトム・ダシュル元上院議員に、納税漏れが発覚(所得申告などに不備があり、追徴分も含めて14万ドルを払った)。また元上院議員としての活動が、医療関係など特定利権のためのロビー活動にあたるとの批判も浮上し、一連の問題を上院公聴会で追及されました。報道によるとオバマ氏側は慰留したようですが、ダシュル氏が3日、自ら指名を辞退した。

景気対策法案をアピールするためにスケジュールを入れていたCNNやNBCのインタビューに先立ち、まさかの同じ日に、ダシュル氏の指名辞退が重なってしまった。当然インタビューは景気対策法案よりも「ダシュル辞退」が主要テーマになってしまった。そして「どういうことなんですか」と問われて、オバマ氏は「I screwed up」と。

ヘマをしたのは、ダシュル氏がまずいタイミングで指名辞退したことについてではなく。いわく、「私はワシントンを変え、国民主体の政治を導入すると訴えて選挙戦を戦った。その私が、ダブルスタンダードで動いているだなどと、国民に思われたくない。権力者に適用する行動基準と、毎日働いて税金を納めている市民に求める基準が違うなどと、そんな風に思われてはならない」と。そもそもダシュル氏を選んだことが間違いだったのではなく、納税漏れが発覚したらすぐに指名を取り下げるべきだったということらしいです。

そして自分のヘマについて「責任を取る。二度とこういうことがないようにする」と言明したのです。しつこいですが、一国の指導者のこういう物言い、なんて珍しいのだとびっくりしてしまいました。

○ 教訓は(政府要職に就く人へ)

ちなみにダシュル氏という人は、なんだか不運の匂いがする人だと前から思っていました。もちろん上院院内総務にまでなった人ですから、世間平均からするとずっとはるかに強運なのだけれども、かつては炭疽菌を事務所に送り付けられたり、院内総務という大物でありながら再選されなかったりと、なんだか不運そうな、そういうイメージがあります。

けれどもオバマ氏が上院議員になって以来、自分の専属スタッフを提供したりと、ワシントン経験のない若手議員を影に日向にと何かと支えてきたのもダシュル氏。オバマ氏が大統領選中に医療保険改革を大きな公約のひとつに掲げていたのも、医療保険に詳しく、改革を実行できるだけの政治力をもつダシュル氏がブレーンと身近にいたから。やはり医療保険改革を「マイテーマ」として掲げていたヒラリー・クリントン氏にオバマ氏の改革案が堂々と対抗できたのは、ダシュル氏の存在が大きかったと言われています。

なので新政権においてダシュル氏が厚生長官の座にどっしりと座り、医療保険だけでなく医療制度全体の大刷新に取り組むというのは、オバマ政権の大きな目玉でした。知性的に、理性的に語る政治家と言うイメージもあるダシュル氏。米国政治をウォッチしている人にとってはとても有名な「トム・ダシュル」という名前がそこにあるというだけで、期待感がかもし出されていたわけです(前述の不運そうなイメージというのと、矛盾しますが)。

そのダシュル氏が、納税漏れという「なんだかなあ……」な問題で、厚生長官を目前に辞退。オバマ政権の閣僚人事においてはつい先日も、ティム・ガイトナー財務長官の税金不払いが槍玉に挙げられたばかり。このときはなんとか切り抜けて上院の承認を得られたものの、さすがに2人立て続けてというわけにはいかないと、ダシュル氏が判断した様子(ダシュル氏の直前には、新設のホワイトハウス行政監督官に指名されていたナンシー・キルファー氏が、雇い人の給与税不払いで指名を辞退したという体たらくですし)。

民主党大物で閣僚指名を辞退したのは、これでニューメキシコのビル・リチャードソン州知事についで2人目。組閣にあたっての「身体検査」にあれこれ粗漏があったと後から発覚するのは、どの国でもよくあることですが(数年前の日本で「国民年金不払い」が大きな鬼門だったように)、身辺を完璧にきれいにしておくというのがいかに難しいかということでもあります。

そこで本日の教訓。税金はきちんと払いましょう(政府の要職にいつなんどき指名されるか分からない人は特に)。


<このコラムのバックナンバー>
オバマ氏が勝ち取った「バラクベリー」の気苦労(2009年1月30日)
「オバマ大統領最初の100時間、まるで平和的革命のような」(2009年1月26日)
「真のライバルを使いこなすかオバマ新大統領、いよいよ就任式」(2009年1月19日)
大統領選中のコラム「大手町から見る米大統領選」はこちら。

オバマ大統領の土曜定例ネット演説

<筆者紹介>
加藤祐子(かとう・ゆうこ)
 ウォーターゲート事件や1976年大統領選の頃をニューヨーク の小学校で過ごす。オックスフォード大学国際関係論修士。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイト「CNN.co.jp」で 2000年と2004年米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。


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