オバマ大統領、初の大記者会見はちょっと辟易とした大学の先生のようで コラム「東京から見るオバマのアメリカ」(5回目) 

オバマ米大統領が現地時間9日夜、ホワイトハウスで記者会見を開いた。オバマ氏にとって初の記者会見ではもちろんないが、大統領として、ホワイトハウスのイーストルームで、アメリカのゴールデンタイムに開く大掛かりな会見としては、初めてだった。そして全米、ひいては世界中を前に、オバマ大統領は見ようによっては、大学の先生のようだった。しかも、頭の固い同僚たちにいささか辟易としている。(gooニュース 加藤祐子)

○ とても大統領らしい舞台で

手前に大統領印つきの演台。その後ろには、中央に消失点をおいた完璧なシンメトリーで奥へ奥へと続く長い廊下。真っ赤なじゅうたん。まるで舞台の書割のような背景。実に見慣れた映像。しかしその真ん中を、前へ前へと歩いてくるのはブッシュ氏ではなく……。

これにはちょっとグッと来た。長年にわたって何度も見てきた光景なのだけれども、真ん中にいるのはレーガンでも父ブッシュでもクリントンでもなく、オバマ大統領だと言うその事実に。大統領がホワイトハウスのイーストルームで記者会見を開くという情景。ある意味で、一般市民がもっとも目にしやすい「アメリカ大統領」の姿だ。その象徴的な舞台にオバマ氏が立ったのを見て、またひとつ新たに「ああ……本当にこの人が大統領になったんだ」という思いが。

当人にもその思いはあったのだろう。記者との質疑応答の後半で、ホワイトハウス記者団の最長老、ホワイトハウス名物にして生き字引とも言える、ヘレン・トマス記者(なにせケネディ時代からホワイトハウス担当だ)を指名した際、「ではヘレン。これこそ僕の就任の瞬間だ。ほんとにワクワクしてる」と笑っていた。ヘレン・トマス記者に久々に最前列の席を与えて、「ヘレン」と名前を呼んで質問を求めて、そうして大統領として必要な儀式をまたひとつこなしたという、そんな思いだったのかもしれない。

○ 日本の失敗に学べ

会見の内容は、景気対策の重要性・景気対策の重要性・景気対策の重要性、イランやアフガニスタンやパキスタンといった外交問題がいくつか、そしてA・ロッドの薬物使用は残念だという、これまた「アメリカ大統領」には必ず求められる野球関連コメント。

なかでも日本のメディアとしては、なぜ早急に景気刺激策が必要なのかの理由に、日本が反面教師として挙げられたのが注目ポイントだったはず。「経済がこれほどひどい状態にあるときに対策が遅れると、ますます脱出が難しい負のスパイラルを作り出してしまいかねない。1990年代の日本でまさにこれが起きた。日本は大胆に素早く行動しなかった。そのせいで、いわゆる『失われた10年』と呼ばれる状態に陥ってしまった。つまり日本は1990年代を通してずっと、これといった経済成長を実現できなかったのだ」と発言した部分だ。「日本の失敗から学べ」と言われたに等しいのだから。今回の危機のきっかけとなったサブプライム・ローン問題は、むしろ日本のバブル崩壊の教訓からアメリカが学ぼうとしなかったからだ。日本の貯蓄率をずっと批判しておきながら何をいまさら――という思いのある人にとっては、なんとも歯がゆい、複雑な思いのする発言だっただろうが。

○ 悪い意味でのフィロソフィー

その一方で私は、オバマ氏が繰り返し「自分の政治哲学上の観点から、エネルギー政策や教育や医療に連邦政府が介入すべきではないという信じる人たちが、この計画に反対するのは分かる。けれども最初から最後まで、だから政府は絶対に何もすべきでないと言い募る人たちとは、合意のしようがない」と発言するのが耳に残った。オバマ氏が繰り返し使った「philosophically(哲学上)」という言葉が特に。「政治的信念」とか「政治思想」といった風にも訳せるか。ネガティブなニュアンスだったので、カタカナ日本語では「イデオロギー」が適しているようにも思う、この使い方が印象的だった。

先月の就任演説でオバマ氏は「私たちが問いかけているのは、政府が大きすぎるか小さすぎるかではなく、政府がきちんと機能しているかどうかです」と言った。「大きい政府」か「小さい政府」かをめぐる政治哲学上の争いを超越して、超党派で協力したいという希望が、その演説には込められていた。しかし景気対策をめぐる連邦議会のフタを開けてみれば、そこには依然として、「大きい政府」vs「小さい政府」という基本的な政治理念上の争いがとぐろを巻いていた。

民主党vs共和党の対立軸のすべてが「大きな政府」vs「小さな政府」というわけではないし、両党とも党内が一枚岩であるはずもない。議員ごと党員ごとに、どういう形で「大きな政府」論者か(あるいは「小さい政府」論者か)の色合いは違う。けれどもオバマ氏がこの会見で言ったように「こういう状態にあって、連邦政府は全く何もすべきでない」という考え方を支持する人は、おそらく民主党にはいないだろう。

オバマ氏もそうで、典型的に民主党的な部分とそうでない部分をあわせもつ政治家だというのが私の持論だが、そのオバマ大統領もこの基本的な部分については、はっきりと明言した。新エネルギー開発、学校施設の改善修復、医療システムの刷新というインフラに投資することが、短期的な雇用創出にもつながるし、長期的な米国経済再生にもつながると。諸々の具体的な対策の内容に異論を唱える人とは議論できるし、議論する価値があるが、「政府は何もするな」という極端でイデオロギーに凝り固まった自由市場主義者の言い分は、「私の選択肢にはない」と。

「そういう人たちの言葉遣いの中には、気になる表現もある」「特定利権への利益誘導などひとつも含まれていない。なのに、(政府は何もすべきでないと自分は信じているから)刺激策を『ばらまき』と呼ぶのはいかがなものか」

(オバマ氏にしては)少し強い調子で繰り返されるこうした発言から、なんだかその胸中が想像できた。このところの共和党とのやりとりの中で、腹に据えかねている言われようがいくつかあったのだろうな、と。オバマ氏にしては、かなり内心で怒っているのだろうな、と。

けれどもその「腹に据えかねているのだろうな」「怒っているのだろうな」とこちらが思った表情や口ぶりのあれこれが、なんと言うか、物静かで。「ノードラマ・オバマ」だから、怒るにしても物静かなのは当然としても。さらにその先を行って、そのちょっと辟易とした口ぶりや表情が、「頭の固い同僚たちとの不毛な議論で腹の中にたまりまくった鬱憤を、ついつい学生たちの前でそれとなく吐き出してしまった」大学の先生の表情に見えたのも事実。

○ 頭の中の美しいノート

なぜかというと、原稿の用意されたスピーチ部分ではなく、記者たちとの質疑応答の部分で、説明や意見を求められるごとにオバマ氏は「私は○○についてこれこれこう思う。その理由は、第一に○○、第二に○○、第三に○○」と、論拠を箇条書きに並べていったから。原稿など必要なく、まるで頭の中の講義ノートをもとに学生に説明しているみたいだったから。実に理路整然と。

このしゃべり方のスタイルは選挙戦中にもよくあった、オバマ氏の癖のようだ。いかにもハーバード・ロースクールを卒業し、シカゴ大学で法律を長年教えていた人らしい。そして、こうやってオバマ氏は常に頭の中で、物事の論点を整理して吟味検討しているのだろうなと、その思考プロセスが見えたように思った。

オバマ氏というと学生時代から常に、自分自身が強い意見や思想で凝り固まっているのではなく、あらゆる対立意見をじっくり聞いて、そして誰もが受け入れられる最善な調停案をひねり出すのが得意な人だったという。東大生のノートは必ず美しいそうだけれども、オバマ氏の頭の中のノートも、相当に美しく整理整頓されていそうだ。

……と、ここまで書いて、いつも見て回るアメリカのニュースサイトを見て回ったら……おお!「Slate」にほぼ似たような感じの見出しが。記事の内容は「大学の講義みたいで、緊急性が感じられなかった」というものですが。大学の先生みたいだったという印象は、やはり同じようです。


<このコラムのバックナンバー>
「ヘマをした」と認めるオバマ大統領の潔さ(2009年2月5日)
オバマ氏が勝ち取った「バラクベリー」の気苦労(2009年1月30日)
「オバマ大統領最初の100時間、まるで平和的革命のような」(2009年1月26日)
「真のライバルを使いこなすかオバマ新大統領、いよいよ就任式」(2009年1月19日)
大統領選中のコラム「大手町から見る米大統領選」はこちら。

オバマ大統領の土曜定例ネット演説

<筆者紹介>
加藤祐子(かとう・ゆうこ)
 ウォーターゲート事件や1976年大統領選の頃をニューヨーク の小学校で過ごす。オックスフォード大学国際関係論修士。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイト「CNN.co.jp」で 2000年と2004年米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。


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